世界の多種多様なエスニック・サウンドを網羅する大容量ソフト音源

MOTUEthno Instrument 2
エスニック・フレーズ集としても即戦力になるソフト音源

MOTU Ethno Instrument 2 オープン・プライス(市場予想価格/49,800円前後)夏になるとなぜかエスニック・サウンドが気になってくるのは筆者だけだろうか? 今回は、そんな暑い季節にぴったりの音源を紹介しよう。Ethno Instrument 2は、製品名が示すように、前製品Ethno Instrumentの新バージョン。最大のトピックは、サンプル・プレイバック音源の命ともいうべきサンプル容量が21GBと、約2.5倍に増加したことだろう。新たに魅力的な音色が多数追加されているのだが、前バージョンの音色も内包していて、完全な互換性を確保しているのもうれしいところ。単音マルチサンプルだけでなくループも充実していて、エスニック・フレーズ集としても即戦力だ。

倍増したサンプル容量、優れた検索性で素早くアクセス


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▲画面1 プリセットは楽器の種類と地域の両方で分類されている。キーワード検索にも対応してので目的のサウンドに迷うことなくアクセスできる


サンプル容量が増えると気になるのが検索性だ。せっかくいい音色がたくさんあっても、それにたどり着けなければどうしようもない。EthnoInstrument 2では、音色を楽器の種類だけでなく地域でも分類していて、どちらからでもプリセットを選択できる(画面①)。例えば、何か打楽器が欲しいと思ったら楽器分類から、インドの楽器でアンサンブルが組みたいと思ったら地域分類から、といった具合に使い分けられるわけだ。さらに、キーワード検索も完備。例えばガムランなら頭の三文字"Gam"と入れるだけで、関連パッチがずらりと表示される。音源エンジンは、前バージョンに引き続きUVIエンジンを採用。こちらもバージョン・アップされていて、64ビット対応など、さまざまな機能強化がなされているのだが、基本的な操作性は同じなので以前からのユーザーも違和感なく乗り換えられるだろう。筆者自身も、UVIエンジンを搭載した音源は操作がやさしいと感じていて、取扱説明書を読む必要もほとんど無かった。 メイン・コンテンツとも言える単音マルチサンプルでは、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、中南米、中近東など、ほぼ世界のすべての地域の楽器をカバー。地域内のサブカテゴリーも、現代の音楽事情に即していて、ヨーロッパなら、東欧、ケルト、スパニッシュ(フラメンコ)の三地域を取り上げるなど実用性が高い。楽器も同様に、バランスのよい取り上げ方をしていて、各地域の代表的な楽器をうまくピックアップ。例えば日本なら、箏(そう)、三味線、尺八、太鼓といった具合。きちんと需要を調査しつつも、珍しい楽器にも手を抜かない収録内容が好印象。これだけで一通りの音色が手に入る音源だ。なお、エスニック・ミュージックというと、インド音楽のような伝統的な民族音楽のほか、いわゆるラテン音楽も含めることが多い。EthnoInstrument 2でも、コンガやシェイカーといったラテン楽器も一通り収録。パーカッション音源としても使える内容になっている。さて、肝心の音質だが、ハイファイで粒立ちが良いサウンド。状態の良い楽器を専門のプレイヤーが丁寧にスタジオ録音したことが伝わる。例えばシタールなら、独特の華やかな金属弦の倍音とビヨーンといった共鳴音がしっかりと収録されていて、倍音の乗った"立つ" 音色に仕上がっている。しかも、全鍵盤できちんとサンプルがそろっていて、どのキーでも同じように演奏できるのも素晴らしい。あるいは、ケルトの笛(ホイッスル)も、オンマイクのデッドな録音で、スピーカーの前面に出てくるような音圧のあるサウンド。リード・パートを任せられる音色だ。また、個人的に気に入ったのは、アコーディオンやバンドネオン、ハーモニウムといったリード系キーボードの音色。この手の楽器のサンプルはなかなか良いものがないのだが、Ethno Instrument 2の音色はいずれも特徴をうまくとらえつつ、使いやすくツブがそろっていて、実に魅力的。これだけでも、欲しくなってしまった。とにかく、どの楽器もいわゆる現地録音やフィールド録音のような学術っぽさとは無縁。良い感じで現代的に洗練された音色なので、ドラムやベースなどの入るラウドな編成でも負けずに自己主張できるだろう。

非西洋音階も可能なチューニング機能、地域や年代にも対応したプリセットを装備


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▲画面2 さまざまな地域、様式のチューニングが選択できる。このプリセットは自らエディットすることも可能だ


民族楽器は、通常の西洋音楽と異なる表現が行えるのが魅力。その背景には、ユニークな音色と独特の調律法が行われていることが挙げられる。例えば、アラブの音楽では12音階よりも細かい微分音程を用いることが多いし、中国や日本の楽器は5度を純正にする三文損益方という調律法が用いられる。西洋音楽でも、平均律が当たり前に用いられるようになったのは19世紀以後。バッハやモーツァルトの時代には、古典調律が用いられていたし、今でも民俗楽器は平均律以外の調律がされているものが珍しくない。 Ethno Instrument 2では、こういったさまざまな調律法に対応。それも単にチューニング機能を装備しているだけではない。各地域や年代に応じた非常に多くのチューニング・プリセットを用意しているのが魅力(画面②)。さらに12音以外の、24音や5音からなる音階にも対応する。 実際に使ってみるとその威力は絶大。例えば、ガムランの音色を選んで、インドネシア特有の音階であるペロやスレンドロを選択、適当に弾くだけでグっとそれっぽい雰囲気になる。もちろん、シンセなどとも、正確に合うように12平均律も選べるが、あえて外してベースやシンセは12平均律、エスニック楽器はほかの調律という風にセットするのも想像以上に面白い。こういった調律のプリセットはエディットすることもできるし、ダウンロード可能なサイトも用意されている。とにかく、実際にやってみると驚くほど効果的なので、ぜひ一度体験してみてほしい。

豊富なループ素材はテンポ変更も自在、世界中の民族楽器を操れる


単音マルチサンプルと並んで、Ethno Instrument 2の目玉と言えるのが、世界各地のフレーズを集めたループ集だ。こちらも、専門プレイヤーのスタジオ録音により洗練された演奏とサウンドを備えている。ループというとなんといっても気になるのが打楽器系だが、アフリカのジャンベ、インドのタブラ、スパニッシュのカホンなど、非常に多くの地域と楽器を収録。独特の音色だけでなくその地域特有のクセのあるグルーブも再現している。しかも、基本的にループ素材と同じ楽器が単音マルチサンプルでも収録されているので、これらのフレーズを元に打ち込みで音を補ったり、フィルインなどのバリエーションを加えることも簡単だ。一方、打楽器以外のループも充実している。聞いたことも無いような名前の楽器や、単音の音色だけではフレーズが想像しにくい楽器でも、実際のフレーズを聴くとイメージが広がるもの。そのまま使うのもいいが、フレーズのお手本集としても活用できるだろう。
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▲画面3 サンプルのストレッチには3モードを装備。好みの方法を選択し、素材を自由に変更して使える


これらループは、自由にテンポやキーの変更が可能(画面③)。変更の方法は、サンプルを伸び縮みさせるストレッチ方式(いわゆるエラスティック・オーディオ)2種類、もしくは、サンプルをビートごとに切り分けてしてタイミングを変えるスライス方式(REXファイルに近い)から最適なものが選択できる。新しいストレッチのアルゴリズムがなかなか優秀で、実際に使ってみると、打楽器系などは相当広い範囲でテンポが変更できる。一方、ボイス系などは、さすがに大幅な変更ではグレインが見えるケロケロした音質になるが、用途を考えると、こういった音色では微調節が主な使い方になるのでそれほど問題はなさそう。また、わざとエラーっぽく崩れた音色を使うのも面白そうだ。なお、プラグインとして使用している場合、ループをホストDAWのトラックにドラッグ&ドロップすることもできる。DAW側のエラスティックやスライスによる編集にも対応しているわけだ。

寺院や渓谷などのIRデータを含むコンボリューション・リバーブを装備


新しくなったUVIエンジンでは、サンプルをプレイバックするだけでなく、加工する能力も向上した。サンプルはフィルターとエンベロープやLFOによるシンセシスが可能、いわゆるPCMシンセのような音作りが行える。フィルターは定番のローパス、ハイパス、バンドパスを備えるほか、アナログライクにひずみっぽく効くものも装備。大胆な変形が行える。また、4パラメーター/3バンドのイコライザーも実装。ミッドのみ周波数可変で、ほかはゲインのみとシンプルだが、効き味がなかなか音楽的。トーン・コントロール的に、元音を補正するとなかなかいい感じに使えた。
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▲画面4 画面右下にあるのが、さまざまなインパルス・レスポンスのプリセットを備えるコンボリューション・リバーブ


さらに、エフェクトではコンボリューション・リバーブも装備する(画面④)。インパルス・レスポンス・データには、通常のホールやルームだけでなく、お寺や教会、洞窟や渓谷など、エスニックサウンドに合いそうなものがそろっている。渓谷のリバーブでケーナを弾けば、気分はアンデスだ。MOTU製品ということで、同社のDAW、Digital Performerシリーズと組み合わせて使う印象を持ってしまうかもしれない。しかし、実際にはスタンドアローンでも動くし、Audio Units/RTAS/VSTといった主要なプラグイン・フォーマットにはすべて対応した汎用ソフト音源だ。筆者自身、今回のチェックではAPPLE LogicやDIGIDESIGN Pro Toolsをホストにしていたが、何の問題もなく動作している。さまざまなエスニック・サウンドを一気に手に入れられたい人はもちろんだが、オーガニックな肌触りの音源がほしい人にとっても面白いと思う。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年8月号より)
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Ethno Instrument 2
オープン・プライス(市場予想価格/49,800円前後)
▪Windows/Windows XP/Vista/Windows7、Pentium4 1GHz以上(Intel Core2以上を推奨)、1GB以上のRAM(2GB以上を推奨) ▪Mac/Mac OS Ⅹ 10.4.11以上(Power PCG4/G5 1GHz以上、Intel Mac推奨)、1GB以上のRAM(2GB以上を推奨)