現代的にリファインされたAUDIO-TECHNICAのリボン・マイク2本

AUDIO-TECHNICAAT4080/AT4081
現代の録音環境に適したリボン・マイク

AUDIO-TECHNICA AT4080/AT4081 AT4080 (写真上):オープン・プライス(市場予想価格/120,000円前後) AT4081(写真下):オープン・プライス(市場予想価格/80,000円前後リボン・マイクの歴史は古く、1930年代から数々の名録音や歴史的スピーチで使われてきました。ジャズ・ボーカルのジャケットなどでRCA77 DXや44BXなどが写っているのを目にしたことがある人もいるかもしれません。その音質はウォームな低域とナチュラルにロール・オフした高域が特徴で、現代の耳では非常に味わい深い音に感じますが、決して古臭いだけではなく、適材適所に使うことで十分に新鮮な音で録音をすることができます。そして、今回レビューするのはAUDIO-TECHNICAから発売されたリボン・マイクの新製品、AT4080とAT4081の2機種。最近新開発されているリボン・マイクの多くは、出力レベルやインピーダンス、S/N、耐入力などが現代的にリファインされており、現代の録音環境においてとても扱いやすくなっています。それでは、今回レビューする2機種の実力は?

両機共にファンタム電源駆動デュアル・リボンで大音圧でもひずまない


まずはAT4080/AT4081のスペックを見ていきましょう。AT4080/AT4081両機種共に48Vファンタム電源駆動によるアクティブ増幅回路を内蔵しており、高出力、低インピーダンス、高S/Nを実現しています。リボン・ユニットはAUDIO-TECHNICAで新規開発されたもので、“デュアル・リボン”といって2枚のリボンを数ミクロンの間隔を持たせて配置してあるとのこと。それぞれのリボンには独自の立体ブロック・パターンが施されており、リボンのコルゲーション(折りたたみ)も縦横方向を組み合わせた複雑なものになっています。それらの新技術により大音圧でのひずみが起りにくくなり、水平方向に設置した際のリボンの伸びの問題も解決されているそうです。この時点で既存のリボン・マイクとは一線を画した製品と言えるでしょう。2機種共指向性は双指向のみで、どちらも150dBと高SPLを誇ります。
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▲写真1 AT4080のパッケージ。ケースに入っているのが本体で、ケースの左側が専用のショック・マウント


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▲写真2 AT4081のパッケージ。ケースの奥がAT4081で、手前が上からウィンド・スクリーン、マイク・クランパーとなる


続いては外観を見ていきましょう。AT4080はマイクらしい丸みを帯びたデザインで、シルバーのサテン・フィニッシュが施され高級感を受けるルックス。一方AT4081はペンシル・タイプのデザインで、AKG C451よりもやや大柄ですがリボン・マイクとしては非常にコンパクトです。共に工作精度が非常に高く、製品としてのクオリティは間違いなさそうです。すべてのアッセンブルに至るまで日本国内で生産されているとのことでした。両機種共に重量も非常に軽く、いにしえの重量級トランスを積んだリボン・マイクとは全く別物と言っていいでしょう。その軽さ、コンパクトさ故にマイク・セッティングがとてもやりやすく、狙い通りのマイキングができることも現場では非常に重要なファクターです。そして付属品としては、AT4080にはショック・マウントが(写真①)、AT4081にはホルダーとウィンド・スクリーン(写真②)が付属します。

AT4080は芳醇なサウンドウッド・ベースなどに最適な低域


いよいよ音質チェックに移りたいと思います。今回比較対象としてCOLES 4038、RCA BK-5Bといったリボン・マイクや一般的なコンデンサー・マイクとしてAKG C414 XLⅡを用意。マイクプリはMILLENIA HV-3Dで統一しました。まずはアコギでチェック。AT4080はリボン・マイクのイメージ通りの音という印象。高域は嫌なピークも無く滑らかで、一聴して“太いな〜”という印象です。4038の音質と似ていますが、AT4080の方が若干滑らかな質感です。彫りの深さは4038に軍配が上がりますが、AT4080はスムーズな高域が特徴的です。この辺りはアクティブ回路やトランスの音質傾向なのか、AUDIO-TECHNICAのコンデンサー・マイクと共通するサウンド・キャラクターですね。
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▲写真3 AT4081でアップライト・ピアノを録音してみた。斜めに設置できるのが新鮮だ


AT4081は比較的高域が伸びてパッキリした印象。低域もファットかつタイトな印象で、ストロークでの低音弦が非常にかっこよく鳴っています。低域に既にコンプのかかったようなパンチがあり、比較的明るいキャラクターを持っていますが、リボンらしさはしっかり感じられます。AT4080と比べると、AT4081の方がよりタイトでブライトなチューニングが施されているようです。 続いてはアップライト・ピアノでテストしてみました(写真③)。AT4080/4081両機種共に、水平位置でのマイキングが可能な構造になっています。リボン・マイクは保管時に水平に保管すると、内部リボンにダメージを与えてしまうため、垂直に保管するのが基本ですが、本機はその辺りに関しては全く気にする必要はありません。つまり横置きの保管でいいので、コンデンサー・マイクと同じ扱いで問題ないということです。これはすごいですね。ピアノの録り音の印象としては、AT4080は非常に芳醇なサウンド。派手さはありませんが、中低域のおいしいところをしっかりととらえています。オール・ジャンルでとはいきませんが、狙ったところにハマれば最高でしょう。ペダルのノイズで気付きましたが、非常に低い帯域まで拾えているようです。資料の周波数特性を見ると、80Hz辺りから50Hz近辺をピークに緩やかに膨らんでいます。本機にはローカットやPADなどの機能はありませんので、不要な低域がある場合、後段の機材でフィルター処理することになりますが、この特性を生かして低音楽器に積極的に使っていきたいと思わせる素晴らしい低域のレスポンスです。今回はテストできませんでしたが、キックのオフ(吹かれに注意が必要です)やウッド・ベースの録音には最適ではないかと思いました。またAT4081はギターと同じように明るいキャラクターで、ダブつかず存在感のある低域が好印象です。比較的高域はしっかり出ているので、音数の多い音源ではこちらの方が扱いやすいかもしれません。

AT4081はポップやロック向き1本でエレキの録音にも対応


続いてボーカルでテスト。AT4080はウィスパー・ボイスにも非常にマッチしており、とても温かサウンドです。密度の高い、身の詰まった感じ。シビランスも適度に抑えられているので、EQで高域をブーストしても痛くなることはありません。ウィンド・スクリーンを使用しましたが、近接でも吹かれが気になる場面はありませんでした。S/Nが良いため声量の小さなシンガーでもS/Nを気にせずリボン・マイクのサウンドで録音できるのはうれしいところです。そしてAT4081は中高域からのロール・オフが控えめに感じられるため、ポップスやロックなどのボーカルに向いているかもしれません。一般的なコンデンサー並みに高域は出ていますが、特徴的なのはその低域で、非常に密度の高いタイトな低域が感じられます。これは全帯域でリニアな指向性を持つ双指向性の特徴とリボンならではの特性が相まって生まれていると思われますが、ほかのマイクでは聴いたことの無い個性的で締まった低域です。ローエンドはロール・オフしているので低音楽器には向かないかもしれませんが、アコギやボーカルでは素晴らしいサウンドです。徹底的に試します。続いてはエレキギター。ラウドなセッティングの場合、個人的にSHURE SM57とROYER R-121を混ぜて録音することが多いのですが、今回はAT4080/AT4081それぞれをSM57とミックスして聴いてみます。中域の押し出しはSM57で狙い、低域をリボン・マイクで補強するイメージです。アンプはなかなかの爆音ですが、モニターを聴くと両機ともひずまずにしっかり出力しています。AT4080はハイゲインなディストーション・サウンドでは少々ボトムが膨らみ過ぎますが、音色によってはかなりのマッチングを見せてくれます。AT4081はタイトな低域とスムーズな高域が奏功し、1本でも十分使える音です。コンパクトなボディでマルチマイキングもしやすく、すぐにでも現場で使いたいと思わせる実力を持っています。今回、さまざまな音源で徹底的に試してみましたが、AT4080/AT4081共にプロ用に開発された素晴らしく実用的なマイクです。AT4080は、その使いやすさは現代的に改良してあるものの、サウンドは伝統的なリボン・マイクのサウンドを継承している感じ。必要以上に現代的な味付けをしていないところがかえって存在感を際立たせます。そしてAT4081は、より現代的なサウンドで、リボン・マイクであることを意識せずに新たなサウンドのマイクを開発しようという気合いが感じられるもの。レコーディングの現場で即戦力となるマイクに仕上がっています。§ 不況ばかりが語られる昨今、多大な資本と時間と努力を費やしてリボン・マイクを新開発した同社のチャレンジングには敬意を表さざるを得ません。恐らくは、今回レビューした2機種は世界中のプロ・オーディオ業界で絶賛されるでしょう。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年8月号より)撮影/川村容一(写真3を除く)
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AT4080/AT4081
AT4080:オープン・プライス(市場予想価格/120,000円前後)AT4081:オープン・プライス(市場予想価格/80,000円前後)
AT4080▪周波数特性/20Hz〜18kHz▪指向性/双指向▪感度/−39dB▪最大入力音圧レベル/150dB▪SN比/72dB以上▪付属品/ショック・マウント、ダストカバー、マイク・キャリング・ケース▪外形寸法/53.4(φ)×177.5(H)mm▪重量/500g AT4081▪周波数特性/30Hz〜18kHz▪指向性/双指向▪感度/−42dB▪最大入力音圧レベル/150dB▪SN比/69dB以上▪付属品/マイク・クランパー、ウィンド・スクリーン、変換ネジ、マイク・キャリング・ケース▪外形寸法/21(φ)×155(H)mm▪重量/152g