3,500の音色を持つ専用キーボード付属ビンテージ系ソフト・シンセ

ARTURIAAnalog Experience The Factory 32
高品位なアナログ・サウンドを扱えるソフト・シンセとMIDI/USBキーボード・コントローラーのセット

ARTURIA Analog Experience The Factory 32 39,900円高品位なビンテージ・アナログ・シンセ・サウンドを簡単に扱うことができるソフト・シンセAnalog Factory V2.5と、リニューアルしたMIDI/USBキーボード・コントローラーをセットにしたAnalog Experienceシリーズ。ソフトと専用コントローラーが一体になった、なんとも趣のある一品(逸品)です。今回はその中から、32鍵モデルのThe Factory 32が付属したパッケージをレビューします。

木製サイド・パネルを採用した重量感ある作りのキーボード


まず何はさておきMIDI/USBキーボード・コントローラー、The Factory 32の存在感と重量感。淡白でいてエレガントなデザインもさることながら、サイド・パネルが木製。木の時点で既に合格です。それだけで太くてカッティング・エッジ、それでいて温かく良い音がしそうです。間違いありません(音源部はソフトだけど)。そして単なるMIDI/USBコントローラーの領域ではない重みが、物欲世代にはぐっと来ます。実は、コントローラー欲しさに前世代のAnalog FactoryExperienceを購入しています。が故に今回、より洗練されたニュー・デザインに嫉妬しております。ムキー! 電源を入れるとボタンのライトが一周点滅する辺りとか、まんまと毎回シビれてしまっています。ちなみに電源はちゃんとUSBバス・パワー対応。文句なしです。そして新しくなったのはデザインだけではなく、今回よりアフター・タッチに対応しております。もちろん、The Factory 32単体でも使用可能で、MIDI OUTも装備(ACアダプターも使用可)。サステインやエクスプレッションのペダル入力端子もあります。このキーボードThe Factory 32から、付属ソフト・シンセAnalog Factoryのパラメーターにアクセス可能。演奏したいプリセットをつまみやボタンで選択し、そのサウンドを好みや用途に応じて変幻させていくことができます。シンプル!!なんとも直感的な楽しさがあります。各つまみやフェーダーも、こうしたMIDI/USBコントローラーにありがちな"抵抗感が希薄でチープな感じ"は一切なく、ここでもまたしっかりとちゃんとした程良い重みを感じ取ることができます。つまみやフェーダーはもちろんなんですが、ボタンのカチッて感じもいいんですよねー。単なる既存のハードの再現ではなく、フィジカルの楽しみに対する理解と執念と遊び心が感じ取れます。ここまできたらこのハード単体で音が出ないことの方が不思議に思えてなりません。

ARTURIAの各ソフト・シンセから同等のエンジンを使って音色を抜粋


では核心。音源部となるソフト・シンセのAnalog Factoryは、これまでにARTURIAが発表してきたソフト・シンセから厳選した3,500種のプリセットを凝縮("凝縮"な数ではない気もしますが)。難しい音色エディットを取っ払い、操作性に優れたプリセット・マネージャー(後述)を備えているため、簡単に欲しい音を探し出せます。収録されている音色はMinimoog V、MoogModular V、CS-80V、Arp2600V、Prophet V(SEQUENTIAL Prophet-5とProphet VSのハイブリッド)、Jupiter-8Vといった、ビンテージ・シンセを模した同社ソフトから移植したもので、これらのソフトと全くエンジンを使って鳴らしています。アナログ機器をデジタルで再現するTAEというARTURIA独自の技術を使用。すべての処理(PWMやFMなど)において、折り返しノイズ成分の無いオシレーター波形を作り出すことが可能なんだそうです。もう一つのTAEの特徴は、アナログ・シンセサイザーが持つ波形のゆらぎを忠実に再現していること。資料によれば"原型のアナログ・オシレーターは、コンデンサーの放電特性を使い、ノコギリ波、三角波、矩形波などの共通した波形を作り出します。これは、波形がわずかに曲がっているということを意味します"とのことで、TAEではこのコンデンサーの放電特性を再現。さらに温度などに影響されてオシレーターが不安定になる部分までもコピーすることで、より温かく、分厚い音色を作り出すことを可能にしているとうたっています。本物のビンテージ・サウンドをあまり知らない僕(ら世代)としてはどのくらい"忠実に再現"しているのか、よく分からないのが本音ではありますが、とにかく触っていて楽しい! プリセットごとに元となっているシンセの絵柄も表示されるので、まるで音の出るカタログか博物館みたいです。The Factory 32のつまみを使って、カットオフとレゾナンスの微妙なフィルター調整で、音階付け遊びに没頭してしまいます。シンセの名機が持つ音色の魅力に先の偉人たちが取り付かれ、歴史的なレコードが生まれた背景が、少しだけ垣間見られたような気もします。自分的には、中古楽器屋での店員の目を気にすることなく、日がな一日"ビよーー〜〜ん"とソニックブームごっこできるだけでも、良い買い物した!って感じなんですが。

音色の絞り込み検索が可能、厳選したパラメーターでエディットも簡単


arturia_pic1

▲画面1 プリセット・マネージャー。INSTRUMENT(元になっているARTURIA製ソフト・シンセ)、TYPE(用途)、CHARACTERISTICS(音の特徴)などの項目で、3,500種のプリセットから目的のサウンドを絞り込むことができる。自身でプリセットを改良してユーザー・プリセットを作成できるが、そのユーザー・プリセットで絞り込むことも可能となっている


arturia_pic2

▲画面2 プリセット・リストの左端にある"FAV."欄にチェックを入れると、画面①のプリセット・マネージャーの"FAVORITES"で絞り込みが可能になる


arturia_pic3new

▲画面3 KEY PARAMETERSには、プリセットごとに異なるパラメーターがアサインされる。その内容は画面上のつまみと鍵盤との間に表示され、色も対照となっているので分かりやすい


arturia_pic4

▲画面4 エディット画面では、本文中で述べたピッチ・ベンド・レンジなどのほか、ユーザー・プリセットとして別名で保存する際の名称や、TYPE/CHARACTERISTICSの属性が設定できる


ここからはより具体的にAnalog Factoryを見ていきましょう。プリセット・マネージャーでは、元になったソフト・シンセごとに分類した"INSTRUMENTS"、ベース、パッド、リードなど用途に応じた"TYPE"、ハード、ソフト、コンプレックス、シンプル、ショート、ロングなどの"CHARACTERISTICS"(特徴)によってプリセットの絞り込みが素早くできます(画面①)。各カテゴリーで項目をクリックしてくだけで絞り込まれていくので、欲しいサウンドをすぐに見つけ出すことが可能です。もちろんプリセットのタイプにもよりますが、かなりサクサクと音色をザッピングできます。そして気に入ったサウンドにチェックを入れておくFAV機能も搭載(画面②)。これは素朴ではありますがなかなか気の利いたサービスです。制作中にサウンドを物色していると、まだまだマッチする音があるのではないか?とつい欲張ってしまい、さっき"お!"と思ったプリセットを見失うことがあります。取りあえず自分の琴線に触れるものは片っ端からFAV.にチェックを入れます。 "3,500種" "よりすぐり"と言われても、プリセットではオリジナリティある音を作り込むことはできないのでは?という懸念もあるかと思いますが、ちゃんとエディットもできます。おなじみのフィルターやエンベロープ、LFOといった基本的なパラメーターと、エフェクト(コーラス&ディレイ)に加え、4基のノブがある"KEY PARAMETERS"にはプリセットごとに異なるパラメーターがアサインされます(画面③)。ですので思っている以上に音作りの幅はあります。音の変化が分かりづらいつまみやパッチなどが省かれている分、ビギナーには扱いやすいかもしれません。 さらにパネル右下のEDITをクリックすると画面上部が切り替わり、ピッチ・ベンド・レンジの設定、ポリフォニー数、ポリかモノかはたまたユニゾンか、アルペジエイター使用音色でのシーケンス・ステップ(1/16とか1/8Tとかのやつね)、そのシーケンスを曲のテンポにシンクさせるかなどが設定できます(画面④)。

ベースやリードなどの定番はもちろん実在楽器系の表現力ある音色も収録


そして実際のサウンドは、ベースやリードといったサウンドの使用頻度の高さもさることながら、パーカッションや、時間軸で変幻していくパッドなどのSE的なサウンドもとても魅力的です。どうしたら同じ機材(シンセ)からそんなにさまざまな音ができてしまうのか不思議です。"アナログ・シンセ" "ビンテージ・シンセ"と聞くと、いかにも過去から見た未来みたいに絵に描いたようなSFサウンド、あるいは古来から現在もなおフロアを揺らすディスコ・サウンドをイメージしがちですが、ピアノやギターといったオーソドックスな楽器のプリセットもまた素晴らしい表現力(リアルなピアノ・サウンドということではありません)を持っていることに驚きました。アナログ・シンセ=太けりゃOK!みたいに思っていた己の不明を恥じます。シンセってこんなにもいろんな音が出せる楽器なのだなぁとあらためて思い知らされてしまいした。また気になるCPU消費量も、最近のコンピューターならそうストレスを感じることはないと思います。なお、25鍵モデルも発売中です。Webサイトを見ると、多くのミュージシャンがARTURIA製品に賛辞を寄せています。今回僕がAnalog Experience The Factory 32を使ってみた印象を、そんなレジェンドのグッとくるお言葉で締めくくってみたいと思います。"過去が現代へ、そしてその先へ......今後ますます面白くなるのは間違いないだろうね"----ハービー・ハンコック(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年8月号より)
ARTURIA
Analog Experience The Factory 32
39,900円
▪鍵盤数/32鍵(ベロシティ対応、アフター・タッチ付きセミウェイト) ▪外形寸法/480(W)×60(H)×240(D)mm ▪重量/3.7kg

▪Windows/Windows XP/Vista/7、2GHz以上のプロセッサー、1GB以上のメモリー、インターネット接続環境 ※スタンドアローンおよびVST/RTAS対応 ▪Mac/Mac OS Ⅹ10.4以降、2GHz以上のプロセッサー、1GB以上のメモリー、インターネット接続環境 ※スタンドアローンおよびAudio Units/RTAS/VST対応