多重録音ファイルが個別に保存される多機能ハンディ・レコーダー

KORGSound On Sound
ハンディ・レコーダーの域を超えたハンディ・スタジオ

KORG Sound On Sound 31,500円ハンディ・タイプのレコーダーは各社から発売されていて、大別すると音質重視型、コスト・パフォーマンス型、多機能型に分類できるでしょう。その中で、KORG Sound On Soundはおおまかには多機能型に属するのですが、その機能は今までのハンディ・レコーダーの歴史とは一線を画しており、明らかにネクスト・レベルに進んだ感があります。

BWFファイルで録音可能 DAWで時間軸に沿った再構成が行える


本機の基本仕様としては16ビット/44.1kHzでのWAV録音が可能なステレオ・レコーダーで、記録メディアにはmicroSD/microSDHCカードを使用します。入力関係は本体内蔵ステレオ・マイクのほか、ギター入力(フォーン)、ステレオ・ライン入力(ステレオ・ミニ)、プラグイン・パワー対応の外部マイク入力(ステレオ・ミニ)、出力はヘッドフォン(ステレオ・ミニ)と内蔵スピーカーで定番と言えるものが装備されています。またKORG独自のモデリング技術REMSによるアンプ・シミュレーターをはじめ、リバーブやディレイなど高品位なエフェクトが100種類内蔵されていて、これらは入力時あるいは録音後のどちらでも使えるのでとても便利です。さらにはリズム・マシンを内蔵し、リズム・パターンも50種類×4バリエーションと豊富で助かります。しかし、ここまでは序の口であります。ポイントはここからで、本機はその名前が示す通り自由に、しかも無制限に(!)オーバーダビングできるのです。その上、録音したファイルはWAVの一種であるBWFで保存されます。これは録音時間の情報を保持したファイルでBWF対応のDAWであれば、録音した時間軸に沿ってファイルを配置することが可能です。今"???時間軸?"と思った読者は鋭い! つまり本機はステレオ・レコーダーでありながら、多重録音した素材はすべて個別にデータ化されるのです(画面1)。デモ・テープのニュアンスを再現しようとしても、"あのリラックス感には到達しないなぁ~"というのはありがちですよね? でも個別にデータ化できればデモのアコギの一部を生かすなんてこともお手の物です。これは本当に助かるな~! 経験則でそういう必要性は身にしみて感じてます。またBWF非対応のDAWであっても、本機でファイナライズを行えば途中から録音したようなデータでも余白部分に無音を足して、時間軸をそろえることもできます。さらに親切なことにオーバーダビングはアンドゥ/リドゥも可能です。▲画面1 録音データをコンピューターで表示したところ。MATERIALフォルダには、多重録音した音が個別に保存されている。なお、その上の2MIXフォルダには、重ねた回数分だけの2ミックス・ファイルが保存されているでは実際に録音してみます。本機を机に置いて作業を始めるとまず気が付くのが、パネルには微妙に角度が付けられていて、ボタン操作がしやすくなっていることです。これは案外とうれしい配慮で、今までの多くの機種は付属のスタンドなどを使う前提になっているためか、机の上に置いて操作しようとすると、ボタンを確認したり押したりする際に本体を持ち上げるなど動かす必要があったのです。さらに入力レベルの調節はパネル上のボタンでも可能ですが、ディスプレイの下部がタッチ・パネルになっていて、ここに表示されるスライダーでも操作可能です。ディスプレイ上で指を左右に動かすことでより直感的に入力レベルを設定できるのです。ハンディ・レコーダーもついにここまできましたか。実際に録音してみると、内蔵マイク、ギター入力ともにフラットな特性です。前述したように、内蔵マイクにもアンプ・シミュレーターやリバーブといったエフェクトをかけられるので、本機のフラットな特性の方が作業しやすいと感じました。また、録音時にエフェクトをかけたいときは、FXボタンでエフェクトをオン/オフでき、長押しするとエフェクト選択やインサート位置(入力音や再生音など)を選択するパラメーターが表示されます。この一連の動作はある程度マルチエフェクターを使い慣れていればマニュアルを見るまでもなく作業できるはずです。非常に簡単かつ合理的です。エフェクトのパラメーターもタッチ・スライダーで細かく設定できます。筆者は"TUBE PRE"というエフェクトを選んで、内蔵マイクでアコギを録音してみました。こうしたアンプ・シミュレートも十分すぎるほどよくできています。アンプ・タイプも細かく選べる上にEQも設定できるのでかなり作り込めます。さらに、エフェクトは内蔵リズムにインサートすることも可能です。さて、気に入ったテイクが録れたらいよいよオーバーダビングです。簡素なアコギのテイクに
若干入り組んだエレキのアルペジオをダビングしてみましたが、本機で多重録音していくキモは最初の音量でしょう。最初の録音時にゲインを上げ過ぎなければバランスを取りやすそうです。しかもアンドゥ/リドゥ可能なので、ストレス無くダビングできます。インスピレーションに従ってスケッチできるため、とても音楽的です。こうした録音時には内蔵リズム・マシンをガイドにすることができますし、リズム自体の録音も可能です。リズム・パターンも前述のタッチ・スライダーで選択でき、左側がシンプル、右に行くほど複雑なパターンとなる優れもの。非常に音楽的なので気分よく録音をスタートできます。あっ、忘れてました。本機にはチューナーも内蔵されていますよ。かゆいところに手が届きます。

タッチ・スライダーではエフェクトもリアルタイムに制御可能


さて、軽いデモを録っているつもりが筆者は徐々に本気モードに(笑)。ベースもダビングした時点で何かギミック的な音が欲しくなってきました。飛び道具的なエフェクトも多数内蔵されていますが、今回はエフェクト・プリセットの94番以降を選択しました。これらはタッチ・スライダーでリアルタイムに操れる同社Kaoss Padのようなエフェクト群。フィルターやグラニュラー的なエフェクトなどをコントロールできます(画面2)。すごいなぁ!さすが本家。この機能に特化した機種が出ても良いのではないでしょうか? 名前はKaoss Recorderでどうでしょう?▲画面2 ディスプレイの下部はタッチ・パネルになっており、写真のスライダー部分を指で触って入力レベルなどをコントロールできる。写真は触るとグラニュラー的効果を得られるエフェクト、TCHGRAINを使用している様子 本題に戻りましょう。最初は思いつきで録音し始めたスケッチが段々本格的な楽曲に進展しそうなときに起こりがちなのがテンポの問題です。ギターを録ってみて、歌ってみたらテンポが少し早かったといったことはありますからね。そんなときのために本機にはタイム・ストレッチ機能もあります。通常の録音時は25%〜150%まで再生速度を変更可能で、一般的なテンポ・チェンジであれば問題無く対応できます。多重録音時は25%〜99%までと遅くする方向に限定されますが、既存の曲やデータでフレーズ練習する際に有効だと思います。また、本機では任意の区間を選択してループ録音も可能で、ルーパーのように扱うこともできます。いやはや至れり尽くせりです。ここまで作業してみて感じるのは、本機はもはやハンディ・レコーダーの域を超えてハンディ・スタジオと言えるのではないかということです。面倒な設定も必要ないのでインスピレーションに直結した作業が進められます。思いついたら即録音できますし、続けてオーバーダビング、あるいは後日、また思いついたときに重ねていくことも可能です。夢のようなスタジオ環境をいつでもどこでも手に入れられるわけです。既に別のハンディ・レコーダーをお持ちの方でも、別の録音機として買って損はないです。どんな機種を買うか迷っているキッズは絶対これだと思いますよ。リハだけ録るんじゃもったいないです。何度も言いますがこれはスタジオです。移動スタジオです。ちなみにKORGのWebサイトからは無償で、ファイル編集/コンバート/CD作成ソフトをダウンロードできるので、本機などで録音したファイルを編集したり、MP3に変換できます(画面3)。▲画面3 ファイル編集/コンバート/CD作成ソフトのAudio Utility。WAVからMP3へのエクスポートなども可能だ。現在Windows版のみでMac版は4月リリース予定最後に本機の操作感ですが、これほど機能が盛り込まれているにもかかわらず驚くほど簡単で10分も触れればほぼ問題無くすべての機能を使えるようになるのではないでしょうか。ボタン数は少なく用途が明確な上に、階層も分かりやすいので設定が楽です。タッチ・スライダーの操作感も相まって全くストレスを感じません。しばらくは本機が天下を取るのではないでしょうか。ぜひ、次機種ではディスプレイを大きくして、すべてタッチで作業できるようになってほしいな!なんて夢も広がります。ともかく、ハンディ・レコーダー界はネクスト・レベルに突入したということでしょう。

▲左からDCアダプター端子、microSD/microSDHCカード・スロット



▲左からマイク入力(ステレオ・ミニ)、ライン入力(ステレオ・ミニ)、ヘッドフォン出力(ステレオ・ミニ)、ギター入力(フォーン)


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年2月号より)撮影/川村容一
KORG
Sound On Sound
31,500円
▪録音フォーマット/PCM(BWF準拠のWAV、16ビット/44.1kHz)▪記録メディア/microSDカード(512MB〜2GB)、microSDHCカード(4〜16GB)、2GB以上推奨 ▪録音時間/使用メモリー・カードに依存(1GBあたり約100分。1ソングの最長連続録音時間6時間)▪電池寿命/録音時約10時間(内蔵マイク使用時。使用電池と使用状況により変動)▪ソング数/最大200▪アンドゥおよびリドゥ回数/使用メモリー・カードに依存▪テンポ/30〜240BPM▪リズム数/50▪エフェクト数/100▪チューニング・モード/12平均律▪チューナー・キャリブレーション/435〜445Hz▪ディスプレイ/バック・ライト付きLCD、タッチ・パ ネル▪スピーカー/最大出力0.4W▪電源/単三電池2本(アルカリ乾電池またはニッケル水素充電池)、別売ACアダプター▪外形寸法/69(W)×135(H)×35(D)mm▪重量/140g(電池、メモリー・カード含まず)