DJプレイをネクスト・ステージへ導くTraktor専用コントローラー

NATIVE INSTRUMENTSTraktor Kontrol X1
選曲作業もつまみ一つでOK。2台のデッキをコントロール可能

NATIVE INSTRUMENTS Traktor Kontrol X1 オープン・プライス(市場予想価格/24,800円前後)DJソフトの元祖とも言えるNATIVE INSTRUMENTS Traktor。当初はソフト内で行う作業が従来のDJミックスの手法からあまりにもかけ離れていて、どちらかというと機材をそろえられないビギナーの入門用的なとらえられ方をされていたこともありましたが、Traktor Scratchとしてタイムコードの入ったレコード盤やCDを使って曲の頭出し/スタートやピッチ・コントロールができるようになってからは一気に評価を高め、現在ではリッチー・ホウティンをはじめとした世界のトップDJたちに愛用されるようになりました。以前からTraktorのみならずDJソフト用の汎用フィジカル・コントローラーが各社から発売されていて、その使用感は年々アップしてきてはいますが、ここにきて本家NATIVE INSTRUMENTSがTraktor専用のUSBコントローラーである本機、Traktor Kontrol X1(以下X1)を発売。ついに真打ち登場といったところであります。

エフェクトやキュー/ループ操作に特化 MIDIの約4倍となる解像度を実現


多くのアーティストからの意見を取り入れて完成したというこのX1、まず潔いのはミックスは外部ミキサーで行うことを前提としている点。DJミキサーを手で扱う操作感や楽しさをフィジカル・コントローラーで再現するのはまだまだ難しいでしょう。そもそもDJブースの中心にドカっと据えられるDJミキサーは、視覚的にも触覚的にも絶対的な存在と言えますし、そこにおける作業はミキサーに任せた方がいいんです。実際、X1にはキュー/スタート・ボタンは付いているもののジョグ・ダイアルは設けられていません。つまり、タイムコード入りの盤でソフトをコントロールするDJプレイ(タイムコードDJと呼ぶことにします)に対しては、ピッチ・コントロールをターンテーブルで行ってもらうという仕様になっており、"従来の手で行ってきた作業はそのまま手で行う"という考えを貫いていて、既存の機材や作業と競合しません(なお、本稿では"タイムコードDJ"に対して、Traktor内部だけでプレイするDJをソフトウェアDJと呼ぶことにします)。ではX1で何ができるのかというと、Traktor内部にしか存在しないエフェクトのコントロール、選曲作業、ループ・プレイやホット・キューの設定/プレイなど、これまでトラック・パッドやマウスを使わないとできなかった作業のみ手作業で行えるようにしたわけです。そのため、ターンテーブルやミキサーなどの間をわずかに広げることで差し込める縦型の形状を採用し、別売の専用ケースを使うことでDJミキサーと高さがそろうようにしており、どこを取っても既存のシステムに無理なく入れ込める要素に満ちています(写真1)。▲写真1 別売の専用ケース(オープン・プライス/市場予想価格5,250円前後)を使用してDJセットに組み込んだ例またX1では、同社が特許を取得したNHLというプロトコルを採用し、MIDIの約4倍にもなる500ステップという解像度を実現している点が、ほかのコントローラーと大きく異なります。これによってきめ細かいエフェクト・コントロールが可能です。数年前の話になりますが、DJ機材を扱う数社合同の開発ミーティングに参加したボクは、たった128ステップしかないMIDIを使ったフィジカル・コントローラーを現場で使う気はしないし、新たな高い解像度を持ったプロトコルを採用しない限り未来は無いと発言したのを思い出しました。それから月日がたって今こうしてその願いが実現しているのを目の当たりにすると非常に感慨深いです。

選曲作業もつまみ一つでOK 2台のデッキをコントロール可能


では、パネルを見ていきましょう。表面はひっかき傷に強いブラシ加工のアルミニウム・プレート。上段にある左右4個ずつのノブとスイッチはエフェクト用で、ソフト上部の横方向に並んでいるFX1とFX2のパラメーター類を縦に配置したものです。パネル中心部のSHIFTキーを押しながら1ボタンを押すとディレイを、2と3のボタンでそれぞれリバーブ、フィルターを呼び出せます。また、中段の左右1個ずつのロータリー・エンコーダーを回すとブラウザー内のファイルを選択でき、これを押すことでデッキに曲をロード可能です。これで選曲作業が飛躍的にしやすくなりました! ただ、これは現在表示中のブラウザー内部のみで選択可能で、ほかのプレイリストやエクスプローラなどソフト左下部にあるツリーにアクセスすることはできないのがちょっと残念。その下に並ぶ4個のボタンはFX1とFX2をデッキAとBに対してどのようにアサインするか設定するもの。パネル下部はトランスポート・エリアで、ロータリー・エンコーダーを回すことでループする長さを決め、押し込むとループ・プレイ開始、もう一度押すとループ解除となります。ボタン類はトラックのスタートやキュー、頭出しポイントの移動など、ソフトウェアDJ向けの機能になりますが、HOTCUEボタンを押すことで左右8個ずつのキュー・ポイントを示すボタンとなり、それらをダイレクトにプレイすることが可能になるのはタイムコードDJ、ソフトウェアDJ共に共通
の機能です。なお、1台のX1で2台のデッキをコントロールできますが、X1を2台用意すれば4台のデッキを扱うことが可能になります。

最大8カ所のキューへアクセス可能なHOTCUEボタンが熱い!


それでは早速使ってみることに。Traktorと完全なるプラグ&プレイを実現しているという通り、USBケーブルをつなげた瞬間にスイッチのバック・ライトがキラキラキラと光り、その直後から使い始めることができました。汎用コントローラーではマッピングを読み込んだり、機能を自分でアサインしたりと煩雑な作業が必要なのに対し、このスピード感はさすが専用機といったところです。既存のコントローラーの多くをテストして作り上げたという独自のスイッチは、押すと"カチ"という気持ちのいいクリック感があり、ソフト・タッチのものと違い確実に押した感覚が伝わります。またノブは指に吸いついてフィットしつつ確かな手応えで回すことができ、目で追わずともセンター・ポジションが分かりやすいです。クリック付きのロータリー・エンコーダーも1クリック回すと確実に次のファイルへと移動します。選曲作業では、これまでタイムコードDJがタイムコード盤の3トラック目を使って選曲する場合、手がちょっとブレると曲もズレちゃって困りましたが、これによりブレることなく確実に選んでボタンを押し込みロードすることができました。実際にボク自身がTraktorでプレイする際は、タイムコード盤を使ったTraktor Scratchでのプレイになり、Traktorは単なるプレーヤーと化しています。ミキシングはDJミキサーで行い、エフェクトもミキサーに付いているものを使います。できれば一瞬たりともコンピューターには触りたくないんです。動的なDJプレイ中にトラック・パッドやキーを触るという静的な作業をしたくないし、絵的にも好きになれないんですね。だからTraktorに装備されているエフェクトやループなどは正直使ったことがありませんでした。しかし今回X1に触れてみて、そのエフェクトの独創性に気付かされて、アクティブでイージーになったループ・プレイに胸踊りました! エフェクトのコントロールでは500ステップあるNHLプロトコルのお陰で、カクカクすることなくスムーズでデジタルを意識させないフィルター・スウィープができます。また、ループ・プレイ中にはループ・ポイントをリアルタイムに前後へ移動させることもできました。特に熱い!と思ったのがHOTCUEボタンです。各デッキ最大8カ所のキュー・ポイントそれぞれへダイレクトにアクセスできるので、パッドをたたいてサンプラーをプレイするのと同じことができてしまいます。これをたたきながらディレイやリバーブもかけたりすると楽しい! このプレイはDJのパフォーマンスを確実に次のステージに上げてくれますね!開発者のインタビューでは"DJの目線をラップトップから外し、聴衆に向けさせるのがゴール"と語られています。DJはレコードやCDを探す作業をしている間以外は、聴衆がいるフロアの方を向いていて、互いの表情や体の動きでコミュニケーションを取っています。ミキサーやエフェクトの操作は慣れ親しんだ作業だから、手元を凝視しなくてもたやすくできるんです。ところがコンピューターによるDJはラップトップのディスプレイを見つめる時間が多くて、オーディエンスはそっぽを向かれた形になってしまいます。その目の前の壁を取っ払うのがX1の目的というわけですね。目ではなく感覚的に判断することが可能になったことで、そのゴールに大きく近づいたと言えるでしょう。また多くのDJがコンピューターでのプレイに近づくきっかけになるかとも思います。なお、注意しておきたいのはX1ではミキシング機能を排除しているので、TraktorとX1のみでプレイするというのは現実的ではないということ。せっかくX1でフィジカルなコントロールを手
にしているのに、肝心のミキシングはマウスやトラック・パッドでやらなければいけない羽目に
なってしまうからです。最低でもDJミキサーを使い、タイムコードDJならターンテーブルやCDプレーヤーを使った上で、それを補完するシステムとしてとらえるのが正しいです。次に待たれるのはX1にオーディオ・インターフェースを内蔵したモデル。当然、次の展開とし
て考えているでしょうね! それが出ればこのマーケットにおいて決定打になるんじゃないかと思います。

▲USB端子はリア・パネルに用意されている


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年2月号より)撮影/川村容一(トップ・パネル/リア・パネル)
NATIVE INSTRUMENTS
Traktor Kontrol X1
オープン・プライス (市場予想価格/ 24,800円前後)
▪電源/USBバス・パワー▪外形寸法/120(W)×52(H)×294(D)mm▪重量/691g

▪Windows/Windows XP(SP2、32ビット)/Vista(SP1、32/64ビット)/7(32/64ビット)、INTEL Pentium 4もしくはAMD Athlon 1.4GHz(SSE1)以上、メモリー1GB以上、1,024×768以 上のディスプレイ解像度、USB 2.0、DVDドライブ▪Mac/Mac OS X 10.5/10.6、PowerPC G4もしくはINTEL Core Duo 1.66GHz以上、メモリー1GB以上、1,024×768以上のディスプレイ解像度、USB 2.0、DVDドライブ