上位機譲りの音質を獲得した2イン/4アウトのUSBオーディオI/O

FOCUSRITESaffire 6 USB
USBバス・パワーで動作。4系統出力でコンピューターDJにも対応

FOCUSRITE Saffire 6 USB オープン・プライス(市場予想価格/20,000円前後)"ええ?この値段でこのスペック!"......ベタベタなCMキャッチ・コピーみたいになってしまいましたが、これが私の本当の第一声。この仕様で実売で2万円前後という価格は、ちょっと前の製品では考えられなかったものです。時代はデフレ・スパイラル、物は安いにこしたことはないけれど、安かろう悪かろうではしようがない。でも聞いてください、結論から言っちゃいます。FOCUSRITEの底力、すごいですよ。絶賛紹介しちゃいましょう。

USBバス・パワーで動作 4系統出力でコンピューターDJにも対応


Saffire 6 USBはバス・パワーで動作するUSB接続のオーディオI/Oです。従来この価格帯だと2イン/2アウトが多かったのですが、本製品は4アウトあります。ライブなどでの使用においてはメインの2chに加えてさらに2chあるので、それをクリック・アウトや単独モニター用に使用したり、4chフルに使用してマルチチャンネル・サラウンドにしてみたりと2ch製品に比べて圧倒的に利用の幅が広がります。また、本製品にバンドルされているDAWソフトABLETON Live Liteなどを使って、コンピューターDJ的に使用する場合でも便利。4つのアウトをステレオ2系統としてDJミキサーに接続できますし、本機ではヘッドフォンのモニター・ソースをch1&2と3&4で切り替えられるので、DJミキサー無しのセットも可能です。もちろん自宅録音においても、外付けのアナログ・エフェクターをつなぐなど、プラグインだけで完結しがちな制作に新たな可能性を与えてくれるでしょう。本機は24ビット対応で、サンプリング周波数は44.1/48kHzまでですが、個人的にはこの製品
価格帯ではコンピューターや使用目的において96kHzなどのハイサンプリングはあまり必要がな
いと思います。箱から取り出してみた実機の印象は、高級で先鋭感もあるという、価格からはおよそ想像できない感じ。それもそのはず、以前本誌の記事で何倍もの価格差がある同社の高級機種をレビューさせていただいたのですが、ボタンやノブ類は多分それと同じものを使用していて、全体的なパネル・デザインも上級機種と同じ印象です。ボディもプラスティックではなくスチールで作られていて、頑丈そう。まず外観だけでも、手抜きの無い完ぺきなものだと感じました。入出力コネクター配置もフロント側がインプット、そしてリア側がアウトプットと初心者でも間違えることはないでしょう。2つの入力端子は、それぞれにマイクなどを接続するXLRとラインやギターなど楽器類を入力するフォーンとのコンボ・コネクターを備えています。リアの出力はRCAピン仕様(−10dB)が4ch分に加えて、さらにch1&2は+4dB仕様のTRSフォーン端子でも用意しています。フロント・パネルの配置ですが、左側は2つのインプット調整ノブの下に大音量ソースに対応
するためのPADスイッチ、エレキギターなどハイインピーダンスのソースを接続した場合に使うInstボタン。その間にコンデンサー・マイク用の48Vファンタム電源スイッチがあります。そして右側にはモニター・セクションが。本機への入力音(Input)とDAWソフトの再生音(Playback)とのバランスを取り、DAWソフトを経由することでの遅れを回避した"ゼロ・レイテンシー・モニタリング"を行うためのMIXERノブと、このときch1の入力音が左、ch2が右に定位してしまうのでモノラル化してセンター定位にするMono I/Pボタンが用意されています。そしてマスター・ボリュームのMONITORとヘッドフォン・レベル(PHONES)、前述したヘッドフォン用モニター・ソース切り替えボタン。すっきり分かりやすい配置です。個人的にうれしいのはMIDIポートも備えていることです、最近はUSBで直接コンピューターに
つなげられる鍵盤が主流ですが、筆者の経験では意外にノート・パソコンのUSB端子が足りなくなって結局USBハブを追加したりと、セッティングが複雑になったりすることもあります。それを回避する意味でも鍵盤をMIDIで接続できるのはシンプルでありがたいのです。そのほか入力の有無を示す"Sig"とオーバーロードを示すO/L、そしてUSB接続とMIDI入力などのLED表示もあり、必要にして十分。この価格でどうしてここまで装備できるのか、驚きです。

DAWソフトやエフェクトに加えソフト・シンセやループ素材もバンドル


最近はDSPを搭載し、オーディオI/O内部にミキサーやエフェクトを備えたモデルが多数あります。Saffireシリーズでも上位機ではそうした仕様のモデルがありますが、これはコンピューター内にサブミキサーを配置することになるため、初心者には分かりづらい部分もあるでしょう。入門機として使うなら、シンプルな方がよいと思います。本機には、そうしたDSPの代わりというわけではないのでしょうが、FOCUSRITE製VST/AudioUnitsプラグイン・エフェクトもバンドル。CPU負荷の少ない同社の高品質エフェクトでこれをカバーしています。さらに前述したABLETON Live Lite、シンセ・ベース用で有名なハードをそのままソフト化
したNOVATION Bass Stasion、MIKE THE DRUMMERによるLive Liteの内蔵ソフト・サンプラーに対応したドラム・キット&生ドラム・ループ(計500MB以上)、そしてLOOPMASTERS製のループ素材(1GB以上)が付属するというソフト面での充実も見逃せません。本当にどこからも死角を作らない製品構成です。

低域に張りのある再生音 一世代前の上位機に匹敵する録り音


さて、お待ちかねの音質チェックを行いましょう。比較対象としたのは、私が普段使用しているDIGIDESIGN Pro Tools|HDの192 I/O、数年前に購入した他社製FireWireオーディオI/O(ミドル・クラス)、そしてSaffire 6 USBとほぼ同価格帯で似たようなスペックを持つ他社製USBオーディオI/Oです。まずは再生音質です。同クラスの他社製USBオーディオI/Oに比べると、Saffire 6 USBは低
域の張りがあり、バスドラの床に響く感じまでよくとらえています。低価格帯製品によくある、中音域に集まりがちな音質を改善しているのです。ミドル・クラスのFireWire機と比べても、いくら比較対象が少し前の機種とはいえ音質は甲乙つけ難く、このSaffire 6 USBは相当な実力を持っているといえるでしょう。さすがに192 I/Oなどの業務レベル機と比べると、超高域や超低域の再現性、そして位相の正確さに違いが見られますが、そこは価格差を考えれば当然です。続いて、コンデンサー・マイクのNEUMANNU87AIを使用し、声とアコースティック・ギターを
録音テスト。Instインプットにもエレキギターを接続して試してみました。マイク入力をヘッドフォンでモニターすると実に聴きやすい音質で、音量も十分です。そして録音したファイルを同じ環境で聴いてみると、なんというかちょっとつやのある高域と音の粒立ちが、ミドル・クラス機とタメを張る質感。しかも同クラスのUSB機と比べると明らかに良い音だと感じました。エレキギターの音もアタック感をつぶすこと無くクリア。FOCUSRITE製マイクプリの技術力と日々の進化に、驚きを感じてしまいました。

低CPU負荷のリバーブをはじめとする自社製のプラグイン・エフェクト


最後にバンドルされているプラグインも紹介しておきましょう。エフェクトはゲート、EQ、コンプ、リバーブの4種類です。まずFocusrite Gateは至ってシンプルですが、キッチリとゲートとしての機能を果たしてくれるもの(画面①)。▲画面① Focusrite Gate。MODEはステレオ使用時に有効で、NORMは
ステレオ・リンク、LEFT 1/2はLchをサイド・チェイン信号としてRchをトリガーし、LEFT 1はLchをミュート、LEFT 2では出力する。RIGHT 1/2も同様Focusrite EQはクリアな質感で、同社のプラグインで言えばハードウェアのRedシリーズを再現したD3に近い空気感を感じます(画面②)。▲画面② Focusrite EQは4バンド仕様Focusrite Compressorは色付けの少ないオール・ラウンド的な印象(画面③)。▲画面③ Focusrite Compressorは癖の少ないサウンドが特徴。とは言え軽いリミッティングから派手なコンプレッションまで調整できるパラメーター数値よりも柔らかい効きに感じました。中でも気に入ったのはFocusrite Reverb(画面④)。▲画面④ シンプルなパラメーターを備えるFocusrite Reverb。CPU負荷も低いが、にごりの少ない"使える"リバーブ・サウンドが得られる低CPU負荷にしてはすごく質感が高く、残響の暴れや金属的なレゾナンスも感じらない、大変自然な残響が得られます。これならDAWソフトの常駐リバーブとして重宝しそうです。そして、ソフト・シンセBass Stationは、アナログ・シンセをシミュレートしたものしては大変よくできている印象(画面⑤)。▲画面⑤ 付属のソフト・シンセ、NOVATION Bass Station。1990年代、ROLAND TB-303のクローン機が流行した当時に人気を博したモノフォニック・モデルをそのままソフト化したもの。オシレーター×2、フィルター×1、エンベロープ×2、LFO×1というシンプルな構成で、独特なサウンドが得られるシンセ・ベースのみならずリードなど、多くのシチュエーションで使えるものだと思います。 aikamachi+nagieは3台のAPPLE MacBookでライブをやっているのですが、超低価格のオーディオI/O+外付けMIDIインターフェースのおかげでセッティングにエラい時間がかかった思い出や、サラウンドをやりたいが故に結局高い機種に買い直したことなどがありました。そのときこのSaffire 6 USBがあったらどれほど良かったかと遠い目をしてしまいました。個人的に次のライブに向けてこれは多分買ってしまうだろうなあと思っております。 (『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年2月号より)
FOCUSRITE
Saffire 6 USB
オープン・プライス (市場予想価格/20,000円前後)
▪周波数特性/20Hz〜20kHz(±0.1dB)▪ゲイン幅/+12〜+60dB(マイク入力)、−10〜+36dB(ライン入力)、+13〜+60dB(インストルゥメント入力)▪THD+N(入力)/0.0025%(0dBuゲイン)▪入力インピーダンス/2kΩ(マイク)、10kΩ(ライン)▪最大出力レベル(0dBFS)/+9dBu(TRSフォーン)、−3.5dBu(RCAピン)▪THD+N(出力:0dBFS)/0.0025%以下(TRSフォーン)、0.03%(RCAピン)▪A/Dダイナミック・レンジ/105dB(A-weighted)▪D/Aダイナミック・レンジ/103dB(A-weighted)▪外形寸法/215(W)×45(H)×220(D)mm▪重量/960g

▪Windows/Windows XP SP2以上/Vista/7、INTEL PentiumまたはAMD製プロセッサーで1GHz以上のCPU(Dual 1GHz以上を推奨)、512MB以上のメモリー(1GB以上推奨)、USB 1.1ポート、1,024×768ピクセル以上のディスプレイ(1,280×1,024以上推奨)、インターネット接続環境(プラグイン認証用)▪Mac/Mac OS X 10.5以降、PowerPC G4 1GHz以上のCPU(INTEL製Dual 1GHz以上推奨)、512MB以上のメモリー(1GB以上推奨)、USB 1.1ポート、インターネット接続環境(プラグイン認証用)