録音機能やミキサーなどを備えたMac専用のFireWireオーディオI/O

METRIC HALOULN-8
1Uのボディからは想像もできない機能と音質が備わるプロも納得のモバイル・インターフェース

METRIC HALO ULN-8 オープン・プライス(市場予想価格/659,000円前後)私のメイン・ジョブはスタジオ・レコーディングだが、さまざまな場所に機材を持ち込んでライブ録音することも多い。そんなときに最も悩むのはレコーダーの選定。コンパクトでなおかつ音質を犠牲にしたくはないのだ。とにかく良い 音で録音でき、それを確実にモニターできるツールが欲しいわけだが、"帯に短したすきに長し"で、適切なものが無いのが現状だ。しかしMETRIC HALOが発表したMac専用FireWireオーディオI/O、Mobile I/Oシリーズの新機種、ULN-8はベストと言えるかもしれない。

入出力部にD-Subを採用することで1Uサイズに多入出力を実現


私はモバイル用に、2UのマイクプリとオーディオI/Oをラックに収め、その上にAPPLE MacBook Proを置くのだが、本機を使用すれば1UラックとMacだけで完結できてしまう。というのも、本体リア・パネルにはファンタム電源付きのマイク入力、ライン入力、AES/EBU入力が8chずつD-Subで備えられており、出力もアナログとAES/EBU、それにインサートの送りとして利用するアナログ・センドがそれぞれ8ch、こちらもD-Subで用意されている(インサートのリターンはライン入力を使用)。ほかにもステレオ1系統のライン出力(TRSフォーン)、ワード・クロック入出力(BNC)、SMPTE入出力(TRSフォーン)、MIDI IN/OUT、前面に2系統のHi-Z入力(TRSフォーン)、ヘッドフォンと不足無く不満も無い。わずか1Uのボディにアナログ/デジタル合わせて最大16イン/16アウトの入出力をもたらすことができたのは、D-Subコネクターを採用したためだ。D-Sub→XLRなど変換ケーブルが必要になるが、D-Subのピン配列は一般的なので入手も容易だ。ネジ止めできる点や接点の構造から見ても、TRSフォーンよりはるかに信頼性が高いと言える。スペースやコストの理由でTRSフォーンを採用した機種をよく見かけるが、D-Sub採用により生まれたスペースがもたらす充実の入出力と操作子やLEDメーターは、ある意味でプロを意識した作りとも言える。その思想は電源部にも表れている。パワー・サプライが外付けであるため、ノイズを拾いにくいし、本体とのコネクターが4ピンのXLRという点も安心感がある。続いてはフロント・パネル。前述のHi-Z入力とヘッドフォン出力のほかに、8個のチャンネル・ノブと、モニター用のノブ1個の合計9個のロータリー・エンコーダーが配されている。それらの回りを15個のLEDが囲み、グリーンとレッドの2色 表示で各モードによってさまざまな機能に変身してくれる。このモード切り替えはパネル左側のスイッチで行うが、助かるのは8chのノブそれぞれがプッシュブル・タイプで、ファンタム電源などをダイレクトにオン/オフ可能な点だ。モバイル・レコーディングの現場では瞬時に対応する必要があるので、モードをセレクタブルにしてノブを割愛しなかったのは良い。各ノブ回りのLEDは、ゲインだけでなくインプット・メーターとしても働いてくれるので、分かりやすくてミスが無い。パネル右側にも15セグメント×16のレベル・メーターがあり、十分な分解能。多少メーターが密集している感があるが、それには意味がある。15×8のマトリクスとして文字も表示でき、ゲインを調節するとdB値を数値で表示してくれるのだ。

最高24ビット/192kHzの高音質 強力な付属アプリも見逃せない


実際にピアノやボーカルなどをマイクで録音してみた。ピアノはアタックを美しくとらえ、余韻によどみは感じられないし、ボーカルは肉声のように生々しく感じられた。また使用してみた感想としては、最高24ビット/192kHzに対応しているこ とはもちろん、レイテンシーの小ささも見逃せないし、ノイズ・レベルが非常に低い点も出色だ。本体内のジャンパー設定を変えることで、システム・レベルを−10/+4dBで切り替えられたり、Hi-Z入力のゲインなどを変更できるようにしている点も音質に妥協無く、かつ最適なオペレーションを実現するための策として非常に好感が持てる。さらに、マイクプリ・ゲインは0.5dB単位で調整でき、クリック音が出ない設計。オーバーレベル時にはメーター全体が赤く光り、適正レベルで録音ができるため、結果的にヌケが良く密度のある音が得られた。また本機はスタンドアローンでも動作し、マイクプリ&AD/DAコンバーターとして使用できる。さらにAES/EBU入出力があるため、2台併用して交互に録音させる際などセカンド・セットのレコーダーにデジタルでパラっておくことができる。マイク回線をパラにするよりもロスがなく、2台のレコーダーでゲインや音質に差が出ないため、後で編集する際にも非常に助かる。内蔵DSPによるミキサーやエフェクトなどの機能も優れものだ。従来機種ではオプションであった100種類ものエフェクトを利用可能な+DSP Licenseも付属している。中でも6バンドEQを含むチャンネル・ストリップMIO Stripが使いやすい。EQはノッチをマウスでつかんで動かせるし、コンプやゲートは音質もかかり具合も良く、これだけで十分に仕事ができる。さらにレコーダー機能として、Record Panelも用意されている。本機は、1Uのボディからは想像もできない機能と音質が備わるプロも納得のモバイル・インターフェースのベスト機という印象。EuConとMackie Controlプロトコルにも対応しているので、パーソナル・スタジオに備えてじっくり使ってみるのもいいだろう。

▲リア・パネルの接続端子。左からパワー・サプライ接続端子、ライン入力1〜8(D-Sub)、マイク入力1〜8(D-Sub)、アナログ・センド1〜8(D-Sub)、アナログ・モニター出力1/2(TRSフォーン)、アナログ出力1〜8(D-Sub)、AES/EBU入出力1〜8(D-Sub)、ワード・クッロック入出力(BNC)、MIDI IN/OUT、SMPTE入出力(TRSフォーン)


『サウンド&レコーディング・マガジン』2009年9月号より)
METRIC HALO
ULN-8
オープン・プライス(市場予想価格/659,000円前後)
▪最大同時入出力数/16ch▪外形寸法/330(W)×432(D)×44(H)mm▪重量/2.7kg

▪Mac/Mac OS X10.3.9以降、Power PCもしくはINTEL Core Audio対応のマシン