大きく太い音像と明るさを兼ね備えたオールラウンドな真空管マイク

LAUTEN AUDIOLT-321 Horizon
DAWでは強調されがちな音のエッジを緩和してくれる一本

今回紹介するのはLAUTEN AUDIO LT-321 Horizonという真空管マイクです。ミュージシャン宅や自宅での録音も増えている今日このごろですが、スタジオ録音のクオリティは維持したい。それには何はともあれ音の入口であるマイク。EQするよりはマイクで表情を付けたいけど、高価なビンテージは個人では手が出ないという人にとって、この価格帯でオールラウンドな真空管マイクがあったらまさに理想的です。 

定番マイクとの比較でもそん色のない性能を発揮


フライト・ケースを開けた瞬間、よくできていると思ったのはその外観。真ちゅう製のボディはずっしりと重く頑丈そうで、愛着がわいてきます。Horizonはラージ・ダイアフラムを備えた単一指向性モデル。スイッチは向かって左側で−10dB、右側で−20dBのアッテネーターのみとシンプルです。付属のサスペンションも、ハード・マウント・タイプ(マイクのコネクターに直接付けるタイプ)と、ショック・マウント・タイプの2種。ブースや楽器の形状によってショック・マウントでは邪魔になるときは、小型のハード・マウントに取り替えられるので非常に便利です。最大SPLも120dBと必要にして十分(NEUMANN U87AIとほぼ同じ)。使用されている真空管もミリタリー・グレードのNOS(New-Old-Stock)とマニアックです。それではスタジオの定番マイクと録り比べながらチェックしてみます。マイクプリはFOCUSRITE ISA 115、コンプレッサーはUREI 1176、サスペンションはショック・マウント・タイプです。まずは女性ボーカルです。同時に立てたのはNEUMANN U67(オールド)。比較するとHorizonは、U67に似たトップ・エンドの倍音、エッジ感がありつつも、1kHz以下のふくらみが絶妙で、非常に大きな音像で聴かせてくれました。1曲はボーカル、ピアノ、アコースティック・ギターという編成なので自然な感じなHorizonを採用。もう1曲は打ち込みのオケでかなり派手なので負けるかなと思いつつも試すと、中低域が抜群の存在感でこれまた採用でした。決して派手な音ではないのにミックスしても埋もれません。次にチューバです。同時に立てたのは、NEUMANN U47 FET。U47 FETだと響きが良くても、ベース・ラインの代わりのアレンジの場合どうしても力が足りなく、ELECTRO-VOICE RE20などのダイナミック・マイクを足す場合がありますが、Horizonの場合、響きも太く音自体もかなりの肉厚です。微妙に距離と狙いを調整して近接効果を利用したら、Horizon1本で低域から高域までカバーでき、しかも力強さもあります。次はクラリネット。同時に立てたのはSANKEN CU41です。木管楽器の場合、音域よってかなりピークを感じることがあり、楽器の響きを録るのか、ピークを外して録るのか、アレンジによって悩むときがありますが、Horizonの場合、木管のピークがとても太くて甘いので、楽器が一番鳴ってる個所を狙って録ることができました。周波数特性を見ると、7kHz近辺にピークがあるのに、ほとんどそれが感じられません。次はトランペットです。同時に立てたのはやはりCU41です。トランペットの場合、マイクのポジションにもよりますが、アタックとリリースのバランスをとるのが悩みどころです。普段は真空管やコンデンサー・マイクではどうしてもピークが強くなってしまう傾向にあるので、リボン・マイクを使用することが多くなっています。今回久しぶりにリボン・マイクではないHorizonを使用したところ、リボン・マイクに近い印象を持ちました。アタックは太くて響きもきれい、でもほかの楽器の邪魔はしない。ミックス時もブラスを出した瞬間に、ほかの楽器のアタック感の聴こえ方が変わってしまうということがほとんどありませんでした。 

DAW使用時の音のくせを良い方向に持って行く1本


Horizonの印象は、音像が大きく太い。でも決して地味ではなく明るさもある、数少ないオールラウンドなマイクです。音色を例えるなら中高域はNEUMANN M269、中低域はNEUMANN M49に似ています。今回、ドラムはテストできませんでしたが、ぜひルーム・マイクで使用してみたいと思います。あとバイオリンでも。今回のレコーダーはDIGIDESIGN Pro Toolsを使用しましたが、Horizonを使用してレコーディングをしていると、DAWで強調される音のエッジが緩和されて、アナログ・レコーダーやSONY PCM-3348でレコーディングをしている音に近いなという印象をもちました。DAWを使用したときの音のくせというのを、良い方に持っていってくれるマイクだなと思います。プライベート・スタジオで本チャンを録るのは避けられない流れの中、特にミュージシャン、アレンジャーの方が自分で録音しなければならないときなど、Horizonで録音したら、そのクオリティはかなり上がる気がします。(サウンド&レコーディング・マガジン2009年7月号より)

撮影/川村容一

LAUTEN AUDIO
LT-321 Horizon
オープン・プライス(市場予想価格140,700円前後)
■周波数特性/20Hz〜20kHz ■指向性/単一 ■付属品/カスタム・パワー・サプライ、ショック・マウント、ハード・マウント、7ピン真空管ケーブル、フライト・ケース、布製マイク・カバー ■外形寸法/61(φ)×224(H)mm ■重量/670g