完全プロフェッショナル仕様のDJコントローラー&オーディオI/O

NUMARKNS7
RANE Serato Scratch Liveと互換性の高いソフトSERATO Itchが付属

NUMARK NS7 オープン・プライス(市場予想価格180,000円前後)現在、ヒップホップDJを中心にかなり浸透してきたRANE Serato Scratch Live。自分も現場で使用し出してから4年近くがたちました。これだけデジタル化が進んでくると"タイム・コントロール・レコードやタイム・コントロールCDを使用せずに、DJソフト専用のコントローラーがあればいいのでは?"という欲求がわいてきます。ここ最近では幾つかコンパクト・サイズのコントローラーも出ていますが、アナログ・ターンテーブルに慣れたDJにとって現場で使うには、少しストレスを感じてしまうサイズのものが多いような気がします。そんな中、オリジナリティあふれるDJ機材で知られるNUMARKより、現場での使いやすさをかなり意識したDJコントローラー、NS7が発表されました。SERATOとのコラボレーションにより開発されたNS7がプロDJの欲求をどれほど満たしてくれるのか、早速検証していきたいと思います。

SERATO Itchに完全対応した究極のDJコントローラー


まず送られてきた製品を制作部屋へ移動しようとしたのですが、かなり大きくて重量も想像以上。ほかのコントローラーとは別格のようです。梱包された箱から本体を取り出して納得。7インチ・サイズのターンテーブル2台に、無理の無いフェーダー配置のDJミキサーが挟まれた形のぜいたくな作り。ブラック・ボディのフル・メタル製シャーシに、オーディオ・インターフェースまで内蔵しているわけですから重いはずです。さっそく付属のCDをコンピューターに入れSERATO Itch(画面①)をインストールします。ItchはSerato Scratch Liveをベースに幾つかの新機能を搭載したDJソフトウェアです(Windows/Mac対応)。Serato Scratch Live同様、iTunesライブラリーをインポートできるので、慣れた環境で素早く楽曲を検索することができます。ほとんどのMIDI対応DJソフトウェアに対応し、iTunesのサポートもしていますが、そもそもこのNS7自体が、Itch(Serato Scratch Liveライブラリー互換)専用開発の高解像度コントローラーと銘打たれており、その相性は抜群と言えるのです。serato_itch

▲画面① SERATO Itchの画面。Serato Scratch Liveの兄弟分とでも言えるItchは、Serato Scratch Liveで作成されたクレートやループ、キュー・ポイントなどのデータに完全対応しているというから、Serato Scratch Liveは簡単な設定ですぐに同機に乗り換えられるというわけだ


ではNS7の電源を入れ、Itchを立ち上げて操作性を確認していきたいと思います。まずミキサー上部のトランスポート・コントロールを使ってデッキにトラックをロードします。スクロール・ノブでスムーズに選曲ができ、ロード・ボタンで左右のデッキに簡単にロードできました。次にロードした楽曲をプレイ・ボタンとターンテーブルを使用して再生とスクラッチを試してみます。ターンテーブルはトルク調整可能な7インチ・アルミ・プラッター。DJプレイ時にターンテーブルが回転しないコントローラーがほとんどなのに対して、この部分でもNS7のこだわりがうかがえます。レコードのタイム・コードでのコントロールに比べ、タイム・ラグや揺れは全く感じないし、針飛びの心配も無いわけです。この部分はCDでのコントロールに近いと思いますが、精度や信頼性はそれ以上です。操作性を向上するためターンテーブル上に配置された7インチ・レコードの下にはスリップ・マットまでセットされています。これによってアナログ・ターンテーブルと変わらない感覚でDJプレイすることができるわけです。これは回転式のターンテーブルにレコードを配置したCDプレイヤー、NUMARK CDXの発想にリンクしていて、NUMARKらしさが伝わってきます。Itchのすべてを本体側からコントロールができ、資料によるとソフトウェアに送信されるターンテーブルやノブのデータ解像度は、一般的なコントローラーで使用されているMIDI規格の10倍以上ということですから、レイテンシーや揺れが気にならないのも当然といえるかもしれません。次にミキサー部分ですが、チャンネル・フェーダーとクロス・フェーダーはちょうどいい滑らかな動きで、クロス・フェーダーのカーブも調節可能になっています。ラバー仕上げのEQノブもつかみやすく、0dBポジションにクリックが付いているので、EQをいじった後も素早くフラットに戻すことができます。クロス・フェーダーにはNUMARK最上級モデルのCP-PRO、チャンネル・フェーダーには高品位モデルのD-TYPEを使用しており、各フェーダーとも交換可能となっています。激しいスクラッチを多用するバトルDJなどにはうれしい仕様でもあります。

レコード盤に直接針を落とす感覚 ストリップ・サーチ機能


ミックスもかなりスムーズです。テンポ合わせにはピッチ・フェーダーとピッチ・ベンドを使用します。ピッチ・フェーダーを動かせばItch上のデッキに表示されたBPMとともに細かく正確に変化するし、ピッチ・ベンドでトラックの再生スピードを調節して簡単にピッチを合わせることが可能。あと、プロDJにはちょっと反則気味なBPM合わせのガイドとなるBPMメーターや、DJプレイ中のトラックのテンポに自動的にシンクするシンク・ボタンまで搭載。シンク機能には正直ちょっと感動。DJ初心者にもとっても優しい機材なんですね。あとSerato Scratch Live同様キュー・ポイントを5つ設定でき、ターンテーブル下のホット・キューボタンで素早くキュー・ポイントに移動することができます。ロード・ボタンを素早く二度押しするとプレイ中の曲がロードされ同じタイミングで再生される機能や、レコード針を置く感覚で、曲中の狙ったポイントを再生する特許出願中のセンサー"ストリップ・サーチ"などもあり、二枚使い的なプレイも簡単にできてしまうわけです。これはターンテーブル最上部に位置する帯状のスライダーで操作します。具体的に説明すると、DJが曲中のねらったポイントを再生するときにレコード盤に針を落とす(needle dropといいます)ように、本体の画面に表示された曲の波形を見ながらタッチ・ストリップを触ることでバーチャルに"needle drop"を再現して、素早いポイント指定を可能にしたユニークな機能なのです。そしてパフォーマンスの要となるループ機能も充実。NS7の左右に大きくループ・セクションを配置しており、プレイ中でも問題なく正確にループを設定できます。オート・ループを選択すれば、スタート・ポジションを設定するだけで指定した小節数でループします。自動BPMアナライザーが付いているので、ループ・ポジションのズレを気にすることもありません。アイディア次第でターンテーブリストにもクラブDJにもプラスアルファな要素を与えてくれそうです。

最後に音質について。クラブでのチェックではなかったため、それほど大きな音出しはできないものの、ほぼ問題なく感じました。USBオーディオ・インターフェースが内蔵されているので、アンプやPAシステムにこのままつなげばよいのですが、出力コネクターには24ビット/44.1kHz対応のXLR&RCAピン端子を採用しているので、まさに現場仕様と言えるかもしれません(写真①)。資料によると、"最終的な高解像度のアナログ回路はオーディオ信号の品質を保つために高級オーディオ用のコンデンサー1つだけしか通らない最短経路となるように回路設計"されており、まさにデジタル、アナログのいいとこ取りを目指した機材と言えるでしょう。


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▲写真① リア・パネル。左からUSB端子、マスター出力(XLR、RCAピン)、ブース出力(RCAピン)、電源コネクター、電原スイッチ。マイクやヘッドフォンなどの入力関係は現場での使用を考え、前面に装備されている


今回NS7を体感してみて、とても良い刺激を受けました。デザイン、サイズ、機能、操作性、プロの現場にとってDJコントローラーの一つの答えだと思えるほどの完成度だと感じました。しかし、クラブの現場では複数のDJが交代制でプレイするため、スイッチャーなどのDJ交代時の機能がついていないNS7を現場で使用した場合は2台必要になります。導入コストやDJブースのサイズなどを考えると、余談ながらパソコンを置くためのアタッチメント(写真②)が付属されていることですし、NS7一台でコンピューターの交代ができることがベストだと個人的には感じました。もちろんライブDJやターンテーブリストのパフォーマンスには十分応えてくれると思います。自分もすぐにクラブで使用したいくらい魅力的な機材ですしね。まあそんなことを言いながらも自宅にセットされたNS7をいじりたくてしょうがない自分がいますので、今後のアップデートも大いに期待しています。 

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▲写真② 無料で付属するPCアダプターを使用したセッティング例。パネル前面にはマイク入力(フォーン)や外部入力(RCA(ピン))、外部入力用のEQ、フェーダーカーブを選ぶセクションやヘッドフォン端子などが用意されている


サウンド&レコーディング・マガジン2009年7月号より)

撮影/有馬理沙(写真②を除く)

NUMARK
NS7
オープン・プライス(市場予想価格180,000円前後)
■Windows/Windows XP SP2 / Vista(64bit Windowsは非対応)、CPU:Core Duo 1.8 GHz以上、1GB以上のRAM、USB端子 ■Mac/Mac OS 10.4.11以上、CPU:Core Duo 1.8 GHz以上、1GB以上のRAM、USB端子

■入力端子/マイク(TRSフォーン)、ステレオ・ライン(RCAピン) ■出力端子/マスターL/R(XLR、RCAピン) ■外形寸法/762(W)×89(H)×381(D)mm ■重量/15.7kg