ルパート・ニーヴとの共同開発による太く自然な音のリボン・マイク

SE ELECTRONICSRNR1
48Vファンタム電源駆動のアクティブ式でハイエンドも感じられる音に

SE ELECTRONICS RNR1 オープン・プライス(市場予想価格312,900円前後) ルパート・ニーヴ氏といえば、ミキサーやアウトボード類の開発や設計が有名で、音楽業界では知らない人がいないほどですが、マイクに関しての設計の話は聞いたことがありませんでした。あのニーヴ氏がマイクを設計した......それもリボン・マイク。これを聞いただけでもチェックしたくなる製品です。正確には、ディスクリート回路とトランスフォーマー・デザインのアイディアはニーヴ氏が、カプセルとシャーシ・デザインはSE ELECTRONICSが担当したという共同開発品で、SE ELECTRONICSの製品として発売されます。世間的にはあまり一般的ではありませんが、実は好きな人にはたまらないのがリボン・マイク。今回の注目の1本、その実力はいかに......。 

製作者の気合いが感じられる高級感あふれる仕上げ


まずは、付属する頑丈なハード・ケースに収納されたマイクを手に取ってみると、その高級感に製作者側の気合いが感じられます。マイク自体の塗装もさることながら、ずっしりとした重量感も含め、まずはやる気にさせてくれます。本体が細長い形状をしていることから、セッティングに関しては多少慣れが必要ですが、リボンのダイアフラムの中心が、本体頭上から4.5cmくらいの所にあり、その位置関係に慣れれば問題ないでしょう。付属品はマイク本体とショック・マウントのマイク・ホルダー、それとハード・ケース。実際に実機で計測した周波数特性グラフのシートも付いてくるので参考になります。また、マイク・ホルダーもマイク本体に当たる部分にフェルトが張られていて、細かい部分にも気を遣っているのが分かります。本体にローカットのスイッチが装備されているのもうれしいところです。なお本機はアクティブ・リボン・マイクなので、接続には48Vのファンタム電源が必要です。小音量ですがファンタム電源を入れなくても音を拾うので勘違いしないように! では、早速、音をチェックしてみましょう。 

周波数特性に個性を持ちつつ幅広い音源にも対応


筆者もリボン・マイクでこれまでいろいろな音をレコーディングしてきましたが、その特徴をひと言で表現すると"温かく耳に優しい音"です。本機でもその傾向は同じで、最初に聴いただけでリボン・マイクだな〜と感じさせてくれます。多くのリボン・マイクはモニターの音量を上げても耳に痛くない音質ですが、本機はその中でも特に音が太く、高域も7kHzあたりから、なだらかに10dBほど落ちてはいます。しかし、高域が弱いわけではなくハイエンドも感じさせてくれます。今まで使ってきたリボン・マイクはどちらかといえば16kHz以上はあまり感じられないものが多かったのですが、ジャズ系のライド・シンバルで試したところ、ほかのマイクよりハイ・エンドを感じることができました。このあたりの個性はニーヴ氏がかかわっている影響でしょう。周波数特性を見ても、高域が落ちている反面、15kHzくらいから25kHzにかけて、再度持ち上がっているのが分かります。もし、本機特有の高域の落ちた部分が欲しければ、EQで持ち上げても不自然ではない音をしています。中低域から低域にかけては、とてもナチュラルで太く、お借りしている物なので大きい音では試していませんが、ベース・アンプでもEQなしで全く問題ありませんでした。中高域がちょっと欲しい場合は、ラインの音をほんの少し混ぜてやればOKでしょう。これらはコンデンサー・マイクやダイナミック・マイクでは味わえないナチュラルな太さです。次に、最近よくリボン・マイクが使われているエレクトリック・ギターのクリーン・トーンを、アルペジオで試してみました。アンプの生音ではちょっとピーキーな部分が感じられたのですが、本機を通すと非常に温かくスムーズな音で聴くことができます。低域がちょっとダブつく場合は、本体のローカットのスイッチを入れれば対処できるでしょう。リボン・マイクの中でも中高域に張りのある音なので、音も前に出てきますし好印象です。また、ピアノと歌だけという編成の曲の本番レコーディングで、ちょっと声にコンデンサー・マイクとは違う質感が欲しかったのでボーカルでも試してみました。ローカットは入れましたが、これも非常に良い感じ。高域は落ちてはいるのですが、それを全く感じさせず、中低域をちょっと整理するだけでそのままOKテイクが録れました。ちなみにリボン・マイクなので、本機の指向性は双指向。マイクの前面からも後面からも音を拾うのですが、両者で音質に若干の違いがあるので(後面がちょっと明るい)、音源によって使い分けると面白いでしょう。今回いろいろ使ってみて、やはり"ニーヴ"だなと思う部分は確かにありました。普段ダイナミック・マイクやコンデンサー・マイクを使っていると、バリエーションの一つとしてしか選ばれないリボン・マイクなので、まずはこの1本!という感じではないのですが、この音質の違いはぜひ聴いてみてほしいです。高域が落ちていて、こもっていると感じる人もいるかもしれませんが、リボン・マイクで録音してEQで高域を上げた感じの質感も、昔の音楽を聴いているようで楽しめます。最近はどちらかといえば高域がギラついた音楽が多い中、本機のような太く耳に優しい音もたまには良いのではないでしょうか......ぜひ欲しい逸品の一つです。(サウンド&レコーディング・マガジン2009年7月号より)

撮影/川村容一

SE ELECTRONICS
RNR1
オープン・プライス(市場予想価格312,900円前後)
■周波数特性/20Hz〜25kHz ■指向性/双指向 ■付属品/ショック・マウント、ハード・ケース、布製マイク・カバー ■外形寸法/47(φ)×265(H)mm ■重量/840g