名プリアンプのサウンドを再現するLiquid Pre内蔵オーディオI/O

FOCUSRITELiquid Saffire 56
Liquid ChannelやLiquid 4 Preでおなじみのマイクプリ・エミュレーションを内蔵

FOCUSRITE Liquid Saffire 56 オープン・プライス(市場予想価格/99,800円前後)人気のFireWire接続タイプのオーディオ・インターフェースSaffireシリーズに、マイクプリのLiquid Preを内蔵したFOCUSRITE Liquid Saffire 56がついに登場。今年頭のthe NAMM showで話題だったので楽しみにしていた方も多いだろう。リーズナブルな価格ながらLiquid ChannelやLiquid 4 Preでおなじみのマイクプリ・エミュレーションが内蔵されているのだ。 

上級機らしい入出力系統で自由度の高いルーティングが可能


本機は以前筆者がレビューしたSaffire Pro 40の上位機で、最高24ビット/192kHzに対応する。56という数字は、アナログとデジタルを合わせた26イン/28アウトに、DAWへのLoop Back入力2chを足した数だ。アナログは8ch入力ながらもマイク(XLR)とライン(TRSフォーン)端子が独立しており、INPUT 1/2のマイク入力でLiquid Pre機能を用いることが可能。ファンタム電源も各チャンネルでオン/オフできる。さらに1系統のS/P DIF入出力と2系統のADAT入出力、ワード・クロックも搭載する頼もしい仕様となっている。FOCUSRITE_LiquidSaffire56Rear.jpg

▲リア・パネル。上段左から、INPUT1〜8(TRSフォーン、XLR)。下段左から、S/P DIF入出力(コアキシャル)、MIDI入出力、FireWire端子×2、ADAT入出力(オプティカル)、ワード・クロック入出力(BNC)、OUTPUTS1〜10(TRSフォーン)


本機はSaffire Mix Controlというソフトによってさまざまな設定を行う。ここから入力信号26chとDAWからの28chの合計54chから18chを選び、本体内蔵のDSPミキサーに立ち上げることができる。出力先も28chのアウトへ自由にアサインすることが可能だ。ステレオなら8系統のモニター・ミックスを作成できる。入力信号はゼロ・レイテンシーでのモニターのほか、ダイレクトに出力することもできるので、例えばボーカルを入力して外部コンプをインサートし再度入力することも可能だ。またLoop Backを使えば、例えば入力した4台のシンセを内蔵ミキサーで混ぜてDAWのステレオ・トラックに一括録音ができる。モニター関係もソフトから柔軟に設定可能で、好みの出力chをフロント・パネルのモニター・レベルつまみにアサインでき、5.1/7.1chサラウンド用プリセットも備えている。2系統独立のヘッドフォン端子ではそれぞれで自在にソースを選べるのも便利だ。このように豊富な機能をソフト側に集約し、多機能ながらコスト・ダウンを実現している。Liquid Preについては後述するとして、基本の音質はSaffire Pro 40と同系統のスピード感あるワイド・レンジなサウンドが魅力。特にライン入力時に録音される音質がいい。本機の方がよりひずみが少なく余裕がある印象を受ける。フロント・パネルの2系統のハイインピーダンス楽器用の入力もなかなか優秀で、ベースは太く、ギターはシャープに録音できる。 

11タイプのマイクプリを用意 物理的回路が切り替わるものも


では今度はINPUT1/2に搭載された注目のLiquid Pre部を見ていこう。この設定も先述のSaffire Mix Controlで行う。ダイナミック・コンボリューション技術によってエミュレートされた機材は全部で11タイプで、Liquid Channelの4分の1ではあるが、同社Red1をはじめNEVE 1073、PULTEC MB-1など大変個性ある機材が厳選されているのがうれしい。もちろん2chそれぞれに別々のタイプをアサインし同時使用することも可能だ。実際に録音してみると、なるほど実機と同じくTELEFUNKEN V72をモデルにした"DEUTSCH 72"はアコギにピッタリの音色で細かいタッチが強調されるし、"DUNK"はMANLEY Slam!のようにローエンドが太くてつやがある。しかしこれらは、フラットからの変化量はさほど大きくはなく、マイクや音源によってはごく微量の変化にしか感じないこともあった。ただPULTEC MB-1を模した"OLD TUBE"だけは"カチッ"と内部でリレーの切り替わる音がして、かなりゲインが下がり音色が変わるのが如実に分かる。タイプによってはアナログ回路まで切り替わるのでマイクとのマッチングまで大きく変わるようだ。また、小音量でもオーバーロード時の音色変化を付加できるパラメーター、Harmonics Distortionを操作すると、半分を超えた辺りオールド機材に似たでひずみが増えてくる。特に"OLD TUBE"や"Steller 1B"などでは音色変化が顕著で、エレキギターなどに良いのではと思われる。本機のLiquid Pre機能は簡易版という印象で、同シリーズの他モデルにおけるEQやコンプの方が変化が大きいと感じた。しかし、そもそも本機の魅力は価格以上のクオリティを感じる音質の良さと自由度の高さにあると思う。たとえLiquid Preが無かったとしても十分魅力的なクオリティなのだ。そして使い込んで本機の素の音質に飽きてきたころにこそ、Liquid Preの機能がうれしいのではないかと想像する。(サウンド&レコーディング・マガジン2009年6月号より)
FOCUSRITE
Liquid Saffire 56
オープン・プライス(市場予想価格/99,800円前後)
SPECIFICATIONS ■周波数特性/20Hz〜20kHz(±0.1dB) ■外形寸法/350(W)×90(H)×235(D)mm ■重量/5kg REQUIREMENTS ■Windows/Windows XP/Vista、900MHz以上のCPU、512MB以上のRAM ■Mac/Mac OS X 10.4以上、Power PC G4以上のCPU、512MB以上のRAM