プレイヤー自身が調節できるPA用パーソナル・ミキサー

RSSM-48
ROLANDの音響機器ブランドRSSから登場したライブ・パーソナル・ミキサー

RSS M-48 110,250円ROLANDの音響機器ブランド、RSSにより提唱された新時代のデジタル伝送技術REACを核としたデジタルPAシステム、Digital SnakeとV- Mixing System。その手軽さや高音質などが注目を集めているのはご存じの通り。そんな中RSSから新たに登場した"ライブ・パーソナル・ミキサー"M-48。ステージ上で演奏するアーティストが、モニター・ミックスのバランスを自在にコントロールできる、新しい"仲間"が登場した。

S-4000Dとの接続で威力を発揮 強力なREACケーブル


まずはREACを中心としたデジタルPAシステムについて少し説明しておこう。REAC(Roland Ethernet Audio Communication)はRSSが提唱するネットワーク伝送技術。イーサーネット・ケーブルCAT5eを使用し、1本で24ビット/96kHzの非圧縮デジタル・オーディオを最大40ch双方向伝送可能な規格だ。これを利用したDigital Snakeは、リモート・ヘッドアンプとAD/DAコンバーターを内蔵したステージ・ユニット、アナログ卓などへ接続するためのFOHユニット、CAT5eケーブルなどで構成されている。これにより従来のアナログ環境を簡単にデジタル環境へとグレードアップ可能になる。これにデジタルPAコンソール、M-400(写真1)を加えることで、究極のフルデジタル・ミキシング&トータル・リコールが可能なV-Mixing Systemが完成するというわけだ。M-400は小型かつ軽量ながら48ch入力と優れた視認性の液晶ディスプレイを装備し、アナログ感覚の操作性を持つのが大きな特長である。top_L

▲写真1 デジタルPAコンソールM-400。"フルデジタル"といいつつも、従来のアナログライクなインターフェースをそのままに、視認性の良い操作画面や、EQなど、現場の暗闇でも一発で分かるボタン配置も十分に考えられた設計だ


さて、そんな中に仲間入りしたのがこのM-48。1.5kgという軽量かつコンパクトなボディが印象的で、各セクションのレイアウトがとてもシンプル、かつアーティスト目線で作られている。パーソナル・ミキサーと名付けられているように、イアモニやウェッジ・モニターなどを接続して演奏するアーティストがモニター・ミックスのバランスを自在にコントロールできる、新しいモニタリング・システムだ。M-48と各デジタルPAシステムは、もちろんRE ACで接続するが、その際にはREACディストリビューターのS-4000Dを介すことになる(写真2)。S-4000Dは、10系統のREACポートを備えているが、そのうち8系統はM-48へ電源供給も可能だ。これは、REAC Embedded Powerという技術によるもので、シンプルな配線で接続が完結することに魅力を感じる。手軽で快適なシステム構築ができるわけだ。アナログ環境だと、入力信号のマルチケーブルと電源ケーブルの最低でも2系統のケーブルを引くことになるが、M-48だとCAT5eケーブル(REACケーブル)1本で完結することが可能だ。そして、CAT5eケーブルは軽量なのでマイク・ケーブルと同じ感覚で引き回しが簡単にできる。top_L

▲写真2 REACスプリッター&パワー・ディストリビューターのS-4000D。REACケーブルにより、音声信号だけでなく、電源供給も行え、最高8台までのM-48を接続可能だ。また接続された機器を自動関知し、非対応機器には電源供給をせずに、通常のスプリッターとしての使用も可能となっている



デジタルに抵抗がある人でも直感的に操作可能なパネル


それではM-48の機能を詳しく見ていこう。まず、このコンパクトなボディに40chのフルデジタル・ミキシング・エンジンが凝縮されているのは驚きだ。ただし、M-48上で操作できるのは40chを任意にグルーピングした、最大16ステレオ・グループとなっている。このグルーピングはエンジニアが、M-400や専用コントローラーのS-4000 RCS(画面1)で行う。ここでは各チャンネルのレベル、パンの設定などを自由に設定でき、この段階で大まかなモニター・ミックスを作っておくわけだ。RSS_M48_manager

▲画面1 専用のコントロール・ソフトウエアS-4000RCSのM- 48設定画面(http://www.roland.co.jp/solution/にて無料ダウンロード可能)。パッと見だけでも使いやすいインターフェースとなっていることが分かる。遠隔操作でプレイヤーのリクエストに即座に応対できる


こうしてPA側で作られた16グループを、M-48上では8基のLED付きロータリー・エンコーダーと、1-8および9-16のレイヤー切り替えボタンを使って、プレイヤーがレベル調節できる。各グループごとに、ソロやパンなども可能だ。また、LE Dの光量はDIMMERスイッチの切り替えで、2段階の調節ができるので、ステージ上が暗くても操作できるのはうれしい。また各グループ・チャンネルには3バンドのEQも装備されている。LOWは120Hz固定のシェルビング、HIは10kHz固定のシェルビング、そしてMIDは20Hzから20kHzのピーキングがあるので幅広いイコライジングが可能になっており、アナログのコンパクト・ミキサー感覚で調整することができる。その中でも、MIDの20Hzから20k Hzがピーキング・タイプでイコライジングができるのはかゆい所に手が届いていて、とても良いと感じることができるポイントだ。さらに各グループには内蔵リバーブをかけることもでき、リバーブはグループごとにセンド量が調整できるのでボーカルであれば自分の声に、ドラマーであればスネアやタムにと、臨場感のあるモニタリングができる。なおパンやリバーブのセンド・レベル、3バンドEQはワンプッシュで切り替えられ、簡単な操作で直感的に調節ができるので、最近のデジタル世代でなくても抵抗感なく扱えるだろう。これらの設定は、本体内に16種類まで保存でき、簡単な操作で瞬時に呼び出し可能。本機には液晶パネルが搭載されていないので、どういう操作でメモリーを保存したり、呼び出しをするのかと思ったが、その答えは簡単。RECALLもしくはSTOREボタンを押し、LAYERボタンで1-8、9-16を選択し、保存もしくは呼び出したいメモリー番号のSOLOボタンを押すだけという簡単な操作だ。

イアモニをしながらでも体感できる臨場感あるリバーブ


本機ではイヤホンやヘッドフォン、あるいはステレオ1系統のライン出力もあるので、コロガシなどの外部スピーカーも使用可能だ。ヘッドフォン・アンプは中低域がしっかりと聴こえ、それに加えノイズが少なく、クリアな印象なので、大音量のバンドステージでもしっかりとモニタリングできる。さらに、ヘッドフォン出力の音質を調整するEQとしてBASSは120Hz、TREB LEは10kHzの調整が可能になっているので、その場面や状況に応じて直感的に対応できるうれしい機能の1つだ。なおイアモニター・システムでは必要不可欠なLIMITER機能も備えており、大音量から大切な耳を守ることができる。安心して使用できるモニタリング環境と言えるだろう。またイアモニター・システムでのステージングには欠くことのできないアンビエント・マイクが内蔵されているので、イヤホンやヘッドフォンをしたままでもアーティスト間のコミュニケーションや会場の空気感も味わうことができる。そのほか本機には1系統のAUX入力も装備されている。最近、ドラマーやバック・ミュージシャンたちがイヤホンやヘッドフォンでクリックやシーケンサーなどを聴きながら演奏している姿をよく見るが、そうした際に通常のモニタリングをしながらAUX入力へクリック音もプラスすれば、ミュージシャンのニーズに合わせたセッティングが、自由自在にカスタマイズできる。またライン出力は、フロア・モニターのほかに、ワイアレスのイアモニター・システムに接続し使用すると、普段と同じモニタリング環境でステージを動き回るステージ・パフォーマンスも可能になる。さらにステレオ・ミニ仕様のREC OUTも付いているので、EDIROL R-09HRなどのポータブル・レコーダーを接続してアーティストの記録用の録音なども可能だ。近年、レコード・レーベルを持つライブ・ハウスが増えてきているが、M-48をキュー・システムとして導入することで、ライブ・ハウスがレコーディング・スタジオに早変わりし、さらに、M-400を含めV-Mixing Systemとのセットで、CAKEWALK Sonarでマルチトラック・レコーディングが容易に実現できる。さらにライブ・レコーディングでもマイクへの音の回り込みが激減し、ハウリング防止になり、クリアなサウンドでの収録が可能になる。M-400を導入していなくても既存のミキシング・システムとDigital Snakeの伝送システムもオススメしたい。デジタルならではのメモリー機能、細かな外部信号の入出力、リバーブやリミッター、さらにパンやEQの機能とさまざまな機能を集約したM-48は、ライブ・シーン以外でも活躍できる可能性を秘めたライブ・パーソナル・ミキサーといえるだろう。RSS_M48_Rear

▲M-48背面。左から、アッテネートつまみ、ヘッドフォン×2(標準、ステレオ・ミニ)、ライン・アウト×3(TRSフォーン×2、ステレオ・ミニ)、アンビエント・マイク。AUXイン(ステレオ・ミニ)、DIMMERスイッチ、REAC端子


サウンド&レコーディング・マガジン2009年6月号より)
RSS
M-48
110,250円
■入力チャンネル数/40、ステレオAUX×1、アンビエント・マイク×1 ■出力チャンネル数/ステレオ・ライン×1,ヘッドフォン×1、REC×1 ■電源/DC+48V(電源の供給にはS-4000Dが必要) ■外形寸法/297(W)×171(D)×67(H)mm ■重量/1.5kg