真空管/ソリッドステートのサウンドをミックス可能な1chマイクプリ

Universal audio710 Twin Finity
半世紀に及ぶレコーディングの歴史の中で、幾つかのマイクプリが登場しました。初期に登場したに真空管アンプを使うと温かく豊かなサウンドが得られます。その一方でソリッドステート・アンプは、ノイズや色付け、ひずみなどの無い原音に忠実な音が得られるのが特徴です。その両方のサウンドの長所をうまくブレンドして、立体感のある音を作りたいと思うのですが、そのためには2台のマイクプリを用意しなければなりません。しかし、今回紹介するUNIVERSAL AUDIO 710 Twin Finityは、1台でこの2つのサウンドが得られる1chのマイクプリ。早速レビューしていきます。

性格の違う2つのサウンドをミックス
ツマミ1つでバランスを変化


本機は、冒頭でも触れた通り、1台でソリッドステート・アンプと真空管アンプのサウンドが得られるばかりか、両者の割合をレベルや位相を変えることなく可変することができます。この2つのアンプのミックスは、パネルの中央下にあるBLENDツマミで調整します。ツマミをTRANSに回しきるとソリッドステート・アンプのサウンド、逆にTUBEに回しきったときが真空管アンプのサウンドが得られます。この2つのアンプのゲイン調整はかなり正確に調整されているため、レベルの変動は全く感じません。音の印象はソリッドステート側は音の輪郭がはっきりとしていて、グッと前に出てくる感じです。一方、真空管側は音の存在感と奥行き感が増します。ゆえに、より楽曲にマッチしたサウンドが簡単に得られるというわけです。さらにフロント・パネルを見ていけば、GAINノブとLEVELノブがあります。GAINノブを上げていくとレベルと同時にサチュレーションも上がっていきます。LEVELノブは出力レベルのコントロールです。パネル中央にあるVUメーターは、メーター右のスイッチを切り替えることでOUTPUTとDRIVEの2種類が選択可能。DRIVE選択時は、真空管のサチュレーション量を示し、OUTPUTを選択すると出力レベルが表示されます。このメーターを参考にしつつ、実際の音を聴きながら楽曲に合った音をGAINノブでコントロールし、気に入ったサウンドになったところで音量はLEVELノブで調整します。ここで気を付けなければならないのは、音量を変えると音色も変わって聴こえるということ。必ず自分の適正音量を覚え、常にその音量でモニタリングできるように出力やモニター・レベルをコントロールしながら音決めをする習慣を付けるといいでしょう。また、リア・パネルにはマイク入力のほか、ライン入力(ともにXLR)も装備しており、フロント・パネルにはHi-Z(TRSフォーン)入力も用意されています。さらに−15dBのPADスイッチも付いているので、ゲインを下げてもひずみが生じる場合は、PADスイッチをオンにしてゲインを下げることができます。わざわざマイクのPADを入れなくても、ゲインを下げることができるのは便利です。本機にはローカット・スイッチも装備されていて、周波数は75Hzに固定されています。アナログ・レコーディングをしていたころは、超低音は自然に減衰していったのですが、デジタル録音においてはアナログに比べて低域の周波数特性がフラットに近いので、録音トラック数が増えると低域のかぶりが気になってきます。特にボーカルやコーラスの多重ダビングではどんどん超低域が付加されていきます。ラジカセや小さなモニターでは分からないですが、大口径のモニターで聴くとかなりボコボコした音が録音されているのが分かります。これは楽曲の音像をぼかしてしまう要因になるので、適正にカットしなくていけません。そういうこともあり、ローカット・スイッチはデジタル録音では大切なものなのです。

DIとしての使用の際も
2種のアンプをブレンド可能


それではより細かに音の特徴をみていきます。今回はアコギやボーカルで試してみましたが、どれも印象は同じ。真空管側もソリッドステート側も、どちらのアンプも少し低域が少ない感じで、若干腰高になる傾向です。しかし、決して低域不足では無いので、これは好き嫌いで分かれるところだと思います。周波数レンジ、ダイナミクスともそれほどワイドといった印象はありませんが、十分なサウンドに仕上がっていると思います。S/Nも真空管側とソリッドステート側、どちらも特に変わりません。市場予想価格で100,000円前後という価格帯を考えると、合格レベルと言えます。実際のレコーディングでBLENDツマミをどこに設定するかはもちろんイメージ次第ですが、例えばドラムやベース、エレキギターなどの音は真空管側で思いっきりゲインを上げてひずませ、アコースティック・ギターとボーカルはソリッドステート側で、かっちり前に定位させる。なんていう音作りも面白いと思います。また既述のHi-Zのインプットに直接エレキベースやギターを入力し、DIとしての使用も可能。実際にベースで試したところ、音の印象はマイクプリとして使用したときとはあまり変わりがなく、ソリッドステートのサウンドと真空管のサウンドももちろんミックスすることができます。ライブ・パフォーマンスでもレコーディング時と同じ感覚で使用できるので、威力を発揮してくれるのではないでしょうか。ユーザーの工夫次第でさまざまな音の可能性がこれ一台で作ることのできる本機。クリエイターにとってはありがたい機材と言えるでしょう。

▲リア・パネルの接続端子。左からライン出力(XLR)、ライン入力(XLR)、マイク入力(XLR)

Universal audio
710 Twin Finity
オープン・プライス(市場予想価格/100,000円前後)

SPECIFICATIONS

▪入力インピーダンス/マイク:2kΩ、ライン:10kΩ、Hi-Z:2.2MΩ
▪周波数特性/20〜100kHz(±0.2dB)
▪外形寸法/89(H)×215(W)×260(D)mm
▪重量/2.4kg