太く抜けがいいサウンドで声も楽器もOKの万能コンデンサー・マイク

VIOLETThe Amethyst Standard
音の入り口であるマイクにはいろいろな種類があり、皆さんも購入の際に悩むことも多いでしょう。最近ではルックスも含め、個性の強いものも多くラインナップされているのでなおさらです。今回は、これまたルックス的にも個性のある、VIOLET The Amethyst Standardを試してみました。本機はラトビア製とのこと。このルックスからどういう音が拾えるのか楽しみです。

さまざまな楽器に対応する
太く抜けの良いサウンド


付属の木製ケースから取り出してみると、意外としっかりとした作りなのが分かります。さすがに落としてはダメですが、多少乱暴な扱いをしても首のところ以外は壊れなそうな作り。重量感もそれなりにあり、作り的には合格でしょう。ヘッド部分は運搬時にダイアフラムの破損などを防ぐためにネジが3本付いており、実際に使用するときはネジを外すという仕組みになっています。持ち運び時にはネジを付けてダイアフラムを固定させるので、移動が頻繁な人も安心。本体の横に付いている4つの取手は、オプションのショック・マウント、ASM(21,000円)を使うときのためのものです。本体のみの使用の場合は、下部にマイク・スタンドを直接接続できるようになっていますが、角度を細かく変えたりしたい場合は、やはりASMはあった方が良いでしょう。また、本機はファンタム電源が必要なコンデンサー・マイクですが、ローカットやPADなどの機能はありません。“信号経路を簡単にして音質を重視した”というイメージではないでしょうか。スペック的にも単一指向で最大SPLが134dBあるので、普通の大音量なら全く問題無し。では、肝心な音の方のチェックです。今回は、Webサイトにも推奨する楽器として挙げられているアコギやパーカッションで試してみました。音色の傾向として一言で言うと、“太くて抜けが良い”です。ものすごく高額のマイクを除いて、高域が伸びた抜けの良いマイクは、中低域から低域に関しては薄くなる傾向ですが、本機はそのような感じはありませんでした。スッと高域が抜けているのに太い……正直初めての感覚でした。中低域が太いと言っても、変に低域がボワボワする感じではないのもうれしいところです。アコギでは、特にアルペジオなどは軽くなく奇麗な音だし、音が太い分サウンド・ホールに対してうまく位置を調整すれば、どの奏法でもOKな感じでした。パーカッションなどでも音が硬くならず、抜けが良いので好感がもてました。一方高域の抜けが良いので、若干ひずみっぽく感じるときもあり、個人的には高域のピークがもうちょっと抑えられたらもっと良いなとも思いました。しかしそんなとき、ティッシュ・ペーパーでダイアフラムを一巻きしたら、良い具合に高域を抑えてくれたんです。楽器によってこのような一工夫でオールラウンドに使うことができるということですね。

硬さが無く中〜高域も痛くない
コーラスのアンサンブルにも抜群


続いてボーカルの録音でも試してみました。某有名アーティストの録音で使ってみたところ、歌いやすいと言ってくれ、コントロール・ルームで聴いている人たちにも、“硬くないのに抜けが良いね”とほめていただきました。男性でも女性でも使ってみたところ、声によっては張ったときなど中〜高域にかけて耳に痛い場合があるのですが、それが無かったのは一番の収穫だと思います。特に奇麗なコーラス・アンサンブルなどでは抜群。今回のデモ中のすべての歌録音で、そのほかの高価な各種マイクも用意していたものの、本機が採用されることになったと言うと、その実力は分かってもらえると思います。ミックス時のコツとしては、トータルEQで全体の高域を上げて楽曲を仕上げる場合、歌とそのオケに分け、オケのミックスのみにトータルEQで高域を上げるなどした方が良さそうです。本機で録音した歌はもともと高域がある分、上げてしまうと逆に声だけひずみっぽくなることもあるので注意しましょう。ちなみに本機はオンマイクでもオフマイクでも使えますが、オンマイクの方がより本機の良さが出せると思います。近接効果も程よく抑えてありますし、いわゆる“ビッグ・マウス”と呼ばれる音を作ることが可能です。大体この手の高域と低域に特徴のあるマイクの場合、中域が引っ込んで薄く感じることがあるのですが、あまりその辺が気にならなかったということも付け加えておきましょう。ちなみに、このThe Amethystには今回レビューしているStandardのほかにVintage(220,500円)もあります。それぞれ特性が違うようなのですが、Vintageの方は高域の抜けがちょっと抑えられているとのことなので、そちらも気になります。とにかく、本機は高域の抜けが欲しくて、なおかつ太い音が好みの方はぜひチェックしてみてください。良くも悪くも海外の音っぽい音になる新しいタイプですが、使えるマイクだと思います。ほめてばかりのようですが、筆者もデモ機を返したくない気分になった久々のマイクでした。
VIOLET
The Amethyst Standard
168,000円

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/20Hz〜20kHz
▪指向性/単一
▪付属品/専用木製ケース
▪外見寸法/26(φ)×168(H)mm
▪重量/350g