汎用性の高いプリセットの音色と機動性の高さが魅力の小型シンセ

KORGMicroKorg XL

2002年に発売されたKORG MicroKorgの人気はすさまじかった。テクノ系のライブを見に行くと、半分以上のバンドで使用されていることもあった。“使える音色”がプリセットで用意され、小型なので持ち歩きにも苦にならない。MIDIコントローラーとしても便利だし、ボコーダーも内蔵され低価格。アナログ・シンセ系サウンドを必要とするユーザーには素晴らしい製品だった。たった一つ不満があるとすれば、アナログ・シンセの音が中心だったために、ダンスミュージック系以外のユーザーにとっては使いにくい部分があったことだ。今回レビューするのは、MicroKorgのスタイルを継承し、より多くのジャンルのユーザーが気軽に使えるようブラッシュ・アップしたMicroKorg XLである。

2つのダイアルで音色を選択
プリセットは定番ものを用意


MicroKorg XLは付属のDC9Vアダプターに加え、単3電池6本でも駆動する小型シンセ。MMTというモデリング技術を採用しており、アナログ・シンセ的な音に加えピアノ/エレピ/オルガン/クラビなど、特にビンテージ・キーボード系が主に搭載されている。プリセットは鍵盤系が中心で、“キーボード”といった趣が強い。プリセットの選択は、“音楽ジャンル”と“音色のカテゴリー”を選ぶ2つのサウンド・セレクター・ダイアルで行う。これはイメージした音色を素早く的確に呼び出せる優れもので、ジャジィなエレピが弾きたかったら、左の“音楽ジャンル”ダイアルで“JAZZ/FUSION”を、右の“音色のカテゴリー”ダイアルで“KEYBOARD/BELL”を選ぶ、といった具合だ。ジャンルを固定してプリセットを選べばバッキングの制作もスピーディに行えるし、逆に音色カテゴリーを“BASS”に固定してジャンルを切り替えればさまざまなシンセ・ベースの音を選択できるようになる。単に数字だけでプリセット音を管理していると、“あれっ! あの音色は何番だったっけ?”というまどろっこしい思いをイヤというほど経験するのだが、本機は音色が覚えやすいため、間違えは少ないだろう。筆者の印象に残ったのは、1970年代RHODES風エレピとクラビのサウンド。どちらもまるでホンモノのようにちょっと箱鳴りして、クリアなのに温かみがある。味わい深い雰囲気もさることながら、ベロシティ・タッチの反応も良い。もちろんMicroKorgでも好評だったシンセ・ベースやリード類も変わらず使えるものばかりだ。さらにボコーダー機能も健在。高級感のあるグースネック・マイクが付属する上、ライン入力端子(TRSフォーン)もあるので、声以外にもさまざまなソースにボコーダーやエフェクトを使用できる。エフェクトはKaoss Padシリーズの技術が応用されており、一般的な残響系エフェクトからすさまじいサウンドを生むリング・モジュレーターやグレイン・シフターなど17種類を用意する。

専用エディター・ソフトの利用で
音色の細かいエディットに対応


筆者が最も好感を持った点は、“演奏する鍵盤”ということを意識している点だ。鍵盤は箱形のしっかりしたナチュラル・タッチ・ミニ・タイプの37鍵となっている。リアルタイムで演奏するプレイヤーも、練習次第でステージで使うことができるはずだ。また昨今は、打ち込みによるパターン演奏で手軽にフレーズを鳴らすことをコンセプトとした機材も増えているが、本機にもアルペジオ/モーションという音色カテゴリーがあることに加え、ARP ONボタンを押すことでアップ/ダウンなど基本的なアルペジオ6種類をすべての音色に適用可能だ。プレイヤーだけでなく打ち込み派の人も存分に使いこなしてほしい。単純にプリセット音を演奏するだけではなく、パネル右側の3つのノブでパラメーターをエディットすることも可能。ただこれらはエンベロープやフィルターなどのちょっとした調節用と考えるのが正しく、ゼロから本格的に音色を作る場合はUSBケーブルでコンピューターと接続し、専用エディター・ソフトMicroKorg XL Sound Editorを利用した方が早いだろう。本ソフトは2月上旬にオフィシャルWebサイト(www.korg.co.jp)で公開が予定されており、今回は残念ながら試用することはできなかったが、これによりKORG MS2000/2000BやMicroKorgのプリセット・プログラムも読み込めるようになるとのこと。個々人が使いやすいよう音色をスタンバイすることで、先述した直感的な音色選択方式も相まって、本機は非常に深みのある楽器となるだろう。最後になったが、音源部分の充実に加えこの製品の魅力はそのルックスではないだろうか? 古いビンテージのコンボ・オルガンやエレピを思わせるレトロなデザイン。軽量化、低価格化のためかボディはプラスチックとなっているが、しっかりとしたたたずまいには高級感さえある。持っているだけでワクワクさせられるシンセである。

▲リア・パネル向かって左の接続端子部。左から、DC9Vイン、電源スイッチ、USB端子、MIDI OUT/IN



▲リア・パネル向かって右の接続端子部。INPUT LEVELつまみ、LINE/MIC切り替えスイッチ、ライン入力端子(TRSフォーン)、ステレオ・アウト(TRSフォーン)、ヘッドフォン

KORG
MicroKorg XL
61,950円

SPECIFICATIONS

■ティンバー数/最大2(レイヤー、スプリット、マルチ時)
■プログラム数/128
■最大同時発音数/8(Vocoder選択時は4)
■鍵盤数/37(ナチュラル・タッチ・ミニ・キーボード、ベロシティ対応)
■外形寸法/556(W)×73(H)×231(D)mm
■重量/2kg