名匠ルパート・ニーヴ氏の手による1chマイクプリ+コンプレッサー

RUPERT NEVE DESIGNSPortico 5015

RUPERT NEVE DESIGNSのPorticoシリーズは、最近では知名度も上がり、誰もが一度はどこかで見たことがあることでしょう。ルパート・ニーヴ氏のデザインというとこもあり、筆者もいろんなところでそのうわさを耳にすることが多くなりました。今回は、このPorticoシリーズ新作、1chマイクプリと1chコンプレッサーを組み合わせたPortico 5015をチェックしていきます。

ナチュラルなキャラクターで
使い勝手に優れたマイクプリ部


まず見た目で驚くのがパネル・デザインが変更されたところ。以前の赤と紺のパネルから白になりました。つまみの感じといい、1970年代にNEVEやAPIと並ぶ評価を得ていたQUAD-EIGHTの製品を思い出します。個人的には今回のデザイン、好きです(笑)。Portico 5015はマイクプリとコンプの組み合わせですが、基本的な機能や回路構成などは以前からある同シリーズの製品と同じとのこと。一番使いがいのある組み合わせを選んで製品化したというところでしょうか。ただ、本機の場合、よくあるチャンネル・ストリップと違い、完全にマイクプリとコンプレッサー部が独立しており、マイクプリ→コンプレッサーという接続をしたい場合にはリア・パネル側でマイクプリの出力とコンプレッサーの入力をXLRケーブルでつなぐ必要があります。この点は内部でもスイッチ一つでつながってくれたら……と思う部分でした。また電源は従来のモデルと変わらずアダプター方式を採用しています。では、まずマイクプリ部から見ていきましょう。今回はボーカルとアコースティック・ギターの録音で試してみました。同社の同回路のマイクプリは以前チェックしていましたが、今回も印象は変わらず、非常にナチュラルです。味付けをするという感じでは無く素直なキャラクターですが、アナログ感もほんのり味わうこともできます。本機の特徴とも言えるのが“SILK”機能。簡単に言えば中高域が若干落ち着き、中低域がちょっと盛り上がる音質になります。“SILK”と言っても抜けが良くなるわけではなく、ギスギス感が無くなるというイメージ。ビンテージっぽいとも言えると思います。ただし、ギター録音のときは奏法によって良い感じになりましたが、逆にあまり変化が分からないときもありました。また、ハイパス・フィルターが周波数可変であるのも長所で、いろいろな楽器/マイクで応用できます。さりげないところではMUTEはマイクの変更などの際に便利。またTO BUSSスイッチでリア・パネルのBUSSアウトからも音を出力できるので、DAWシステムでの遅延が気になるときにはBUSSアウトをモニター回線に回すといった使い方もできるでしょう。このサイズの機器の、しかもその半分の中でよくまとまっていると思います。

ゲイン・リダクション検出回路を
2タイプで切り替え可能なコンプ部


次にコンプレッサー部ですが、音質的にはマイクプリ同様ナチュラルなイメージで、コンプ感も決してエグい感じではありません。守備範囲が非常に広く、ナチュラルなものからハード・コンプまで、そしてドラムからボーカルまでどの楽器でもそつなく対応してくれる実力があります。また、コンプ部の最大の特徴と言えるのが、FF/FBでゲイン・リダクション・タイプを切り替えられることです。簡単に言うと、FF(フィードフォワード)は現在主流のコンプレッション回路で、コンプの動作検出をインプットから拾っています。これに対して、FB(フィードバック)はビンテージ機器で使用されていたコンプレッション回路で、動作検出用信号をアウトプット側から拾っているという違いがあります。一般的に、音色の変化を抑えたい、しっかりコンプレッションしたいといった場合はFFに、スムーズなコンプレッションを望むならFBを選択するとよいと言われています。筆者の使用した感じでは、アタックをつぶしたい場合などはFF、アタックを残した感じはFB、という使い分けもよいようです。このキャラクターの違いはある程度深くコンプレッションさせたいときに顕著で、1つの機種で2タイプのコンプとなるのはうれしいところです。本機は、マイクプリ/コンプレッサーとも基本的に必要な機能はすべて備えた上で、独自の味を出す機能も装備している点で、本当に守備範囲の広い製品になっていると思います。全体的に素直な音質ですが、基本的な音はしっかりしています。その点で“この機器はこの用途でしか使えない……”というイメージは無いため、お買い得ではないでしょうか?20080801-06-002

▲リア・パネル。左からDC入力と電源スイッチ、BUSSアウト(TRSフォーン)×2、リンク端子(TRSフォーン)×2、コンプの出力/入力、マイクプリの出力/入力(XLR)が並ぶ

RUPERT NEVE DESIGNS
Portico 5015
オープン・プライス(市場予想価格/278,250円前後)

SPECIFICATIONS

マイク・プリアンプ部
▪周波数特性/18Hz〜160kHz(−3dB)
▪ノイズ/−100dB以下(22Hz〜2kHz、@ユニティ・ゲイン、150Ω)
▪等価残留ノイズ/−128dBu
▪ゲイン/66dB(±6dB)
▪最大出力レベル/+24dBu(20Hz〜40kHz)
▪全高調波歪率/0.002%以下(@1kHz、+20dBu出力時)
コンプレッサー部
▪周波数特性/18Hz〜150kHz(−3dB)
▪ゲイン・レンジ/−6〜+20dB
▪スレッショルド・レンジ/−36〜+22dB
▪レシオ/1.1:1〜40:1
▪アタック・タイム/20〜75ms
▪リリース・タイム/100ms〜2.5s
▪最大出力レベル/+25dBu
▪全高調波歪率/0.001%以下(@2kHz、+20dBu出力時)
全体
▪外形寸法/238(W)×44(H)×249(D)mm
▪重量/約2.5kg(本体)