マイキングの距離感まで再現してくれるキャビネット・シミュレーター

SPLTransducer

アンプ・シミュレーターやスピーカー・シミュレーターは昔からありました。しかし、ラインくささがどうしても残ってしまい、音色に満足したことはありませんでした。本機は、この時代にあらためて発売されるキャビネット/マイキング・シミュレーター。しかもアナログ処理の得意なSPL製ということで期待できそうです。

"アンプが鳴らせない"状況に即戦力
取説要らずの操作性とパネル・デザイン


ギターの録音時など、アンプは通常マイクを立てて録音します。というか、そうしたいものです。しかし、"アンプが鳴らせない"状況も多いでしょう。そんなご時世なので、下記のような解決策を採っている方も多いと思います。■アンプのライン・アウトを録音する
■エフェクター・アウトをラインで録音する
■いきなりプラグインで(!)録音する積極的に上記のような方法で録音した音色を楽しむ場合はもちろんOKですが、本機はマイキングも再現できるので、アンプを鳴らせない方々には朗報です。本機のフロント・パネルにはスピーカー・ドライブのレベル(SPEAKER ACTION)、疑似マイクのインプット・レベル(MIKING LEVEL、ヘッドアンプのゲインと考えていいでしょう)、ライン・アウト用のアウトプット・レベル(OUTPUT GAIN)とノブは3つ。ほかに後述のキャラクター切り替えスイッチが付いているのみで、完全取説要らず。アンプ・ヘッドと接続するPOWER INPUT、シミュレートした音をライン・レベルで出力するLINE OUTPUT1/2、シミュレートした音をマイク・レベルで出力するMIC LEVEL OUTPUT(マイクプリでの色づけが欲しい場合などに使用)、PRE SIMULATOR OUT(もう一台別のギター・アンプも使用したいときなどに使用)とSPEAKER THRUを装備(本機をヘッド、キャビの間に挟む接続となるのでスピーカー・ケーブルでキャビに接続)。2Uサイズで電源も搭載しており、設置も簡単。ちなみに当然ですが、本機を使用する場合はアンプ・ヘッドが必要です。今回は、ギターにGIBSON ES-335を用意し、本物のギター・アンプと聴き比べました。MARSHALL JCM 900のスピーカー出力(8Ω)をPOWER INPUTに接続し、SPEAKER THRUの出力はキャビネットへ接続。LINE OUTPUT1をDIGIDESIGN 192 I/Oに接続しました。さらにMIC LEVEL OUTPUTをマイクプリのAMEK System9098EQに入力し、そのアウトも192 I/Oへ接続。手順としては、ギター・アンプの実音を確認しその後本機からの出音を確認していきました。

ギターのみならずベースでも活用可能
ライブでのパフォーマンスにも期待


それでは、早速チェックしていきます。SPEAKER ACTIONは"コーン紙をどのくらい振動させるか?"というアンプの音量のようなもの。アンプはある程度音量を出さないと"良い鳴り"が得られません。それを再現しているのがこのつまみ。回していくと音量が上がっていくのですが、13時を超えた辺りから、コンプレッションがかかったようにも聴こえます。10〜12時くらいがナチュラルな印象でした。そこで、SPEAKER ACTIONを12時くらいにして、System 9098EQを25dBに設定。それに合わせて、MIKING LEVELを192 I/Oのメーターを見ながら適正レベルに合わせ、LINE OUTPUT1からの入力レベルも同じになるように設定しました。この2つの音を片方ずつチェックしたところ、双方とも既にいい感じの出音です。どちらもラインっぽさは感じられず、マイクでの収録時とほぼ変わりません。キャビネットのキャラクターを選択できるSpeaker Cabinetスイッチを"Close"から"Open"にしてみると、音に開放感が出てきました。さらに擬似スピーカーのマグネットのアルニコ/セラミックを選択できるSpeaker Voicingスイッチを"mellow"から"sparkle"にしてみると、ハイエンド、ローエンドが出てきました。ドンシャリ気味ですが、嫌らしくない程度で、EQのプリセットとして使えそう。次に、Microphone Selectionスイッチをチェック。これはダイナミック・マイクとコンデサー・マイクの切り替えを再現しているそうですがダイナミック時のポジションが出音に近い気はするものの、それほどの変化は表れませんでした。最後に、Microphone Distanceスイッチでマイクの距離感のチェック。"Close""Ambience"で切り替えができます。前者はスピーカーから1〜5cmくらいで収音した感じで、タイトでフレーズがクッキリ。後者はアンビというより10〜15cmくらいのオフ気味な感じで、ミッドローが前に出る印象でした。さらに友人のベーシストとベースでもチェックしたところ、使用したSOVTEKのアンプ・ヘッドが持っているナチュラルなドライブ感は残しつつも、特に中域から低域はとても良い印象です。若干ハイエンドにラインくささは残りますが、プラグインのようなありきたりの音になることはなく、個体の性格はしっかり出すことができます。今回は少ない楽器でのチェックとなりましたが、十分現場で使える音。ギターはスピーカーから録音する方がいいということは周知の事実ですが、それが不可能な状況には便利。また、ライブ時に、マイキングせずPAから直接ギターを出力するという使い方も良さそうです。

▲リア・パネル。端子は左からLINE OUTPUT2(TRSフォーン、XLR)、LINE OUTPUT1(XLR)、MIC LEVEL OUTPUT(XLR)、PRE SIMULATOR OUT(フォーン)、SPEAKER THRU(フォーン)、POWER INPUT(フォーン)

SPL
Transducer
236,250円

SPECIFICATIONS

▪インピーダンス/8Ω
▪最大インプット/100W RMS/200W Peak
▪外形寸法/480(W)90(H)×235(D)mm
▪重量/4.8kg