真空管搭載のオーディオI/Oとアンプ・モデリング・ソフトのパッケージ - サンレコ〜音楽制作と音響のすべてを届けるメディア

ZOOMZFX Stack Package

山中剛（groove one）

ZOOM ZFX Stack Packageはアンプ・モデリング・ソフトのZFX Plug-inとUSBオーディオ・インターフェースS2T、それにSTEINBERG Cubase LE 4がバンドルされた、トータルな制作環境をパッケージした製品です。想像以上に小ぶりなそのサイズと片手で十分に持ち運べるほど軽量なのに驚きましたが、何よりびっくりしたのがその価格です。ただし本機は低価格がウリの初心者向け製品ではありません。このZFX Stack Packageは新開発されたモデリング技術と後発の強みを生かした着眼点により、今までの製品とは一味違うサウンドと操作性をギタリスト／ベーシストに与えてくれます。

新開発のモデリング・アルゴリズムで
明るく抜けが良いサウンド

まず音の出入り口となるS2Tからチェックしていきましょう。本機はWindows XP(SP2)/Vista対応で、なんといってもギター／ベース用のHi-Z入力部にギター・アンプのプリ管として有名な真空管12AX7が搭載されていることが目を引きます。ギターやベースにとって最も重要な中域の"粘り"や"ツヤ"といったものを、この入力部分で真空管経由の"TUBE"とダイレクトの"SOLID STATE"の2つの信号をブレンドすることで微妙に調整できることは、音を作る上で強い味方となります。プラグイン側を同じ状態にしたまま、このバランスを変更すると、EQやコンプとも少々違うさじ加減は"一聴瞭然"です。なお入力に関してはHi-Z以外にマイク（48Vファンタム電源対応）、ラインの3系統があり、切り替えスイッチで選択できるようになっています。次にZFX Plug-inですが、これもWindows XP（SP2）/Vista対応で、VSTもしくはスタンドアローンで動作します。スペック的には、12種のギター・アンプ、5種のベース・アンプ、16種のキャビネット、41種のエフェクトに4種のマイクなどをCPUパワーが許す限り自由自在に接続できるというもの。また、このアンプ・モデリング・ソフトの最大のトピックは新開発のモデリング・アルゴリズムが用いられていることです。実在するアンプやエフェクターの構成パーツやその回路を調べ、その動作特性および内部回路プロセスをエミュレートする方式で、その利点はずばり"幅広い音作り"にあると思います。"つまみの使える範囲が広い"とでも言うのでしょうか、ノブやスイッチを操作した場合の音色変化が従来の特定の個体（アンプやエフェクター）をサンプリングする方式よりもスムーズで幅広く、音作りがしやすいのです。そして肝心のその音質ですが一言で言えば"明るく抜けが良い"というのがそのキャラクターだと思います。

ハイレベルにまとまった操作性で
ユーザー・フレンドリーな設計

ZFX Plug-inは後発の製品だけにその操作性はかなりハイレベルにまとまっています。ほとんどがマウスによる操作で簡単にできるようになっていて演奏にストレスを感じさせません。アンプやエフェクトの選択も定番のビンテージものから最近話題のものまで、そのバリエーションも十分満足できるものです。いたずらに多くの数を用意するよりもキャラクターがかぶらないように配慮した上で、このくらいの数にまとめたのはユーザー・フレンドリーな設計と言えるでしょう。また"Fuss Smile""Tangerine""Great Muff"など思わずにんまりするようなネーミングも楽しいです。なお、ZFX Plug-inをプラグインとしても動作させて、ほかのオーディオ・インターフェースを使用する場合、S2Tはハードウェア・ドングルとして機能します。ZFX Stack Packageはとても完成度の高い製品なのですが、ただ1つ気を付けた方がよいことがあります。それは鍵盤楽器が中心のときよりもレイテンシーもシビアな（短い）セッティングが必要になる点です（個人的には入出力の合計で10msを目安としています）。また、高度なモデリングの代償として少々"重め"ということも相まって、比較的CPUパワーに余裕のあるマシンを必要とすることです。最近のマシンであれば全く問題はありませんが、古い世代のマシンだと演奏にストレスが無いくらいレイテシーを短くするのは少々難しいかもしれません（今後最適化されてより低速のマシンでもスムーズに動くようになるとは期待してますが）。それにしてもこれだけの機能と音質のものがこの価格で手に入るとは! 今後の"進化"が楽しみな製品です。