本誌の2008年１月号で特別企画「ミックスに使えるヘッドフォンが欲しい！」に参加させていただいた際、最近の製品の出来の良さに感心させられた。その記事に興味を持ってもらった方にさらなる朗報、M-AUDIOよりStudiophile Q40なるモニター用ヘッドフォンが登場したのだ。筆者は同社のモニター・スピーカーやオーディオ・インターフェースをスタジオで使用した経験があり、なじみの深いブランド。最近はULTIMATE EARSの技術を取り入れたカナル型イヤホンにもかなり力を入れており、マルーン５ら数多くの大物ミュージシャンがライブで使用している。その実績をバックに、このたびヘッドフォンの分野にも進出してきたわけだ。
精かんなブラックのボディに
今日的なメカニカル機能を搭載
M-AUDIOの最大の魅力は"デザイン"だと思う。古くからあるメーカーはどこか硬派というか固いイメージの機材が多い中、M-AUDIOの製品やアクセサリーにはおしゃれなものが多く、かつシンプルで使いやすい。ニューヨークのエンジニアが筆者の自宅に遊びにきたとき、コンピューターとオーディオ・インターフェースがすっぽり収まったM-AUDIOのバッグが素敵なデザインだったことを思い出す......最近、音楽制作用機材のデザインがおしなべて良くなってきているのも、M-AUDIOのような新興ブランドが頑張っているおかげなのかもしれない。Studiophile Q40のボディ・カラーは精かんな黒で統一され、このメーカーならではのデザイン力の確かさを示している。実際にスタジオで使用していたのだが、「それ、新しいヘッドフォン？」と多くの人に尋ねられた。サイズもごつ過ぎず小さ過ぎず、ちょうどいい案配だ。そのハウジング部には40mmのドライバーを採用。64Ωの低インピーダンスで10Hz〜20kHzという広範囲の周波数を再生できる。本機はねじれの少ない脱着可能なケーブルを備えており、ケーブルが破損したときも安心。また本体は折りたたみ可能でコンパクトに収納できるため、旅行先での制作やDJ時にも重宝するだろう。１月号でチェックした数々のヘッドフォンが備えているメカニカルな機能は、漏れなく装備されているという印象だ。
程良い締め付け感と耳に優しいパッドで
長時間の使用にも対応
実際に使用してみてまず特筆すべきは、非常に軽い装着感。外部音をシャットアウトする密閉型なのでほどほどの締め付けは感じるが、耳に優しいパッドがそれを和らげてくれる。頭や耳にフィットする感覚は、万人に受け入れられるだろう。250gという軽さはこの形状／質感からは想像できないもの。持ってみると、予想以上に軽いのだ。"ヘッドフォンを装着する"という構えが必要ないので、それだけ音に集中し作業に没頭できる。試しに音楽制作から家の掃除、はては近所のスーパーの買い物まで１日中Studiophile Q40と生活を共にしてみた。初めに付けたときは"少々ゴツゴツするかな？"とも感じたが、ハウジングの調節で解消。長時間の使用でも装着によるストレスは驚くほど少なかった。
派手な色付けが無く
全体的なバランスに優れたサウンド
気になる音質だが、初めは"M-AUDIOだったら若い子向けに相当パンチのある傾向ではないか"と思っていた。だが実際に試聴した印象は逆に"正統派の安定した音"というもの。若干ハイミッドがおとなしめだが、低音の伸び方は気持ちいいし、高域もキンキンせず、ホントにいいバランスと言える。また、左右のステレオ感が少しだけ物足りなく感じるが、それもセンターに定位しているパートがどっしりと聴こえるからだろう。スタジオでダンス・ミュージックのミックス・ダウンにも使用してみたのだが、"制作用"ということを考慮すると、バス・ドラムの"ドンッ"とくるアタック感がもう少し欲しいところだ。また、音の重心をあと少し落としてあげれば、リバーブの聴こえ方もより鮮明になるのではないかと思う。ただ、このあたりはエージングが進めば印象が変わってくるのかもしれないし、全体のバランス感や再現性はかなり高く、好印象だった。今回はStudiophile Q40の近未来的なルックスと、"何かやってくれる"というM-AUDIOに対する筆者の勝手なブランド・イメージが先走ってしまったのかもしれない。そうした点を差し引いて考えれば、全体にクセの無いナチュラルな音質で、上質な一基と言えるのではないだろうか。価格も適正で、ヘッドフォンに派手な色付けを望まない人には特にお薦めだ。
SPECIFICATIONS
▪型式／密閉ダイナミック型
▪周波数特性／10Hz〜20kHz
▪インピーダンス／64Ω
▪感度／116dB SPL（1mW IEC318）
▪重量／250g（ケーブル含まず）
