自然さを保ちつつオケに負けない音を作り出す1ch真空管コンプ

GROOVE TUBESThe Glory Comp

私を含めてレコーディング・エンジニア、ミュージシャンから機材設計を行うエンジニアに至るまで、物作りをする者には哲学が必要である。“何がしたいのか”、そういうコンセプトが明確に見えるものだけが時代を超えて残っていくと思う。今回レビューするThe Glory Compは真空管搭載の1chコンプ。この製品がどんな思想の基に設計されたのかをチェックしていこう。

2種類のリリース・カーブを備える
高品位コンプレッション


見た目には大きめのボタンやVUメーターを装備し、レトロな雰囲気を醸し出している。ビンテージ機材を意識したデザインと言えるだろう。では、実際に音を通して試聴しよう。コンプとしてはスレッショルド/アタック/リリース/レシオというおなじみのツマミが並んでいる。まずボーカルに使用してみたが、設定によりかなりニュアンスが変わる。特にアタック・タイムを調節すると大幅な変化が見受けられる。早めに設定するとかなりきついコンプ感となり、ともすると不自然になりかねない。が、少し遅めに設定するとナチュラルなかかり具合になる。ボーカルには20〜35msがお勧め。この設定でのニュアンスは最高に良く、ロックなどでもオケに負けず、なおかつ自然なボーカルを作ることが簡単にできるだろう。この辺りの設定だとコンプを通してもほとんど音ヤセすることなくガッツのある音で、耳障りな中高域も張り出てこない。アタック・タイムとレシオの設定次第では音ヤセを極小レベルに抑えたままピークをたたけるのだ。これは大変ありがたく、好印象。レコーディング・エンジニアにはコンプを通すことによる音ヤセへの対応に難儀するケースがよくある。EQやディストーションでカバーするのだが、このコンプは比較的音ヤセが少ないので、経験の少ない初心者エンジニアやミュージシャンにも使いやすいと思う。また、リリース・カーブはLOGとリニアの2種類が用意されている。普通に使う場合はカーブが対数的に変化するLOGの方が実際の聴覚に近く自然な感じなので、例えばボーカルでは聴きやすい音色のままピークを抑えることができる。一方カーブが直線的に変化するリニアは打ち込みのリズムなどにはお勧めだが、一般的な使用にはLOGが適していると思う。また、キックを通してみると太い音のままリリースが伸びてきた。FAIRCHILD 660や670的な温かい音になる。ギャラクティックなどのジャンルに代表される最近のジャズ・ファンクっぽいドラムの音作りにはもってこいなサウンドだ。ベースとの相性もかなり良かった。

音色ニュアンスをかなり変えられる
“GLORY”ツマミを搭載


次にこのコンプの売りである“GLORY”ツマミの機能をチェックしてみる。メーカーの資料を読むと“2nd-order harmonicsを付与するツマミ”ということだ。正弦波を入れてチェックしてみると1オクターブ上の音程にディストーションをかけたような音が付加された。ボーカルやギター、ベースなどに使うと簡単な操作で音色のニュアンスを変えられる、かなり面白い機能だ。言ってみればアンプ・シミュレーターを通したようなサウンドになるので、こういった機能が手軽に使えるという点においてはなかなか便利だと思う。続いてサイド・チェインをチェック。ハイとローの2つのポイントでキー・ソースに対してEQをかけ、そのサウンドでコンプのかかり具合を調節できる。ロー側はベースやキックにかけると音色がかなり変化して面白い効果があった。ハイ側では周波数がスウィープ可能ならばディエッサーとしても使えるが、本機では固定なので使用頻度はそれほど高くないだろう。一つ気になった点を挙げると、LINKスイッチ切り替え時にノイズが発生した。このスイッチは普段は動かさないが、それでも使用中にノイズが出るのはプロ用機材としてはよろしくない。ぜひとも改善していただきたい個所である。試聴の結果としては、総合的にとても高性能なコンプだと感じた。個人的にはこの音色でストレートにコンプとしての機能のみを追求したステレオ・モデルを同価格帯で発売していただければ大変ありがたいと思う。20080101-10-002

▲リア・パネルの接続端子類。左からサイド・チェイン用端子(XLR、フォーン:出力、スルー、入力)、外部リンク用端子、アナログ入出力(XLR、TRSフォーン)

GROOVE TUBES
The Glory Comp
オープン・プライス(市場予想価格/400,000円前後)

SPECIFICATIONS

▪最大入力レベル/+34dB
▪最大ゲイン・リダクション/18dB
▪入力インピーダンス/35kΩ(XLR)、18kΩ(TRSフォーン)
▪出力インピーダンス/600Ω(XLR)、150Ω(TRSフォーン)
▪最大ゲイン/20dB
▪外形寸法/480(W)×130(H)×460(D)mm
▪重量/16.75kg