コンパクトで位相調整用のVARIPHASE機能も搭載するマイクプリ

AUDIENTMico

AUDIENT Micoは2chマイクプリですが、最初に見た印象は、そのコンパクトなルックスから、安価なアマチュア用だろうと思いました。でもそれは、見事に裏切られました。結論は全然違いました! “こんなのが欲しかった”というのが正直な感想です。

リリカルで“近い”感じのする音
モバイル・レコーディングにも最適


私が気に入ったのは、ディスクリート・クラスAのフロント・エンド回路を採用しているからでも、カタログ・スペックが良いからでもありません。ハッキリ言って私は、皆さんが思うほどそんなものを信用しておりませんので……(笑)。確かに、すごそうなデータが書かれていましたので、期待は持てました。しかしこれまで、そんなうたい文句に引かれて試してみたところ、ガッカリしたことが何度もありましたから。そういった意味で本機は、そのスペックの片りんを感じさせる音で安心しました。非常に情報量が多くピュアで、基本的なサウンド・クオリティは問題ありません。鈍って抜けの悪い音を、ビンテージっぽいと言われても認められない私にとって、このリリカルでとても“近い”感じのする音は、好みの音でした。しかし、実は私が本機を気に入った理由は、ほかにもあるのです。まずこんなにコンパクトなのに音が良いこと。スタジオには良い音のハイグレードなマイクプリがいろいろとありますから、そこそこ音が良い程度では飛びつきはしません。でもこのサイズなら、モバイル・レコーディングにも最適です。ステージ上に設置しても気にならない大きさですから、ライブ録音やPAの際にも、マイクの近くに設置して、十分なゲインを稼いでから引き回せます。さらに、外部クロック・ジェネレーターを併用することで最高24ビット/192kHzまで対応するADコンバーターが内蔵されていますから、デジタル信号で引き回すことで、ノイズを避けたマイク・アレンジが可能になります。なお単体の場合は最高24ビット/96kHz。リモートはできませんが、ライブ録音の途中でゲインを変えることなどありません。もし、その必要が生じるとしたら、それはエンジニアの技量不足でしょう。しかも、電源が外部アダプターなので、マイク回線近くに100V電源を近づけなくて済むことも、ノイズ対策上は有利でしょう。

位相調整が可能なVARIPHASE機能
マイクプリとしての基本的な機能も網羅


それから最も気に入ったのは、2チャンネル間で位相調整ができることです。同じ音源に対して、2つのインプットを設定した場合、ミキシングした際に位相が気になることが多々あります。例えば、アコースティック・ギターを録音する際のラインとマイクをミックスするときです。位相合わせが必要となる場合が多いのですが、一般的なマイクプリでは、どちらかを位相反転させることしかできませんでした。しかし本機なら、ch2のVARIPHASE機能を使うと、2つの入力、このケースではラインとマイクとの間で、微妙な位相合わせが可能になるのです。これまでは録音してしまってから、再生時にDAW上でアジャストを行っていたのですが、それが録音時にリアルタイムで調整が可能なのです。ということは、ミュージシャンへのフォールドバックにも有効です。これまで録音時のモニタリングでは、どちらかを位相反転させてお茶を濁すか、とりあえずどちらかの音をヘッドフォンに返して、微妙な位相合わせはあきらめていましたが、それが可能になったのです。これは画期的なことだと思います。ぜひ試していただきたいです。一方、ch1のインプットには、HMXと名付けられた機能があり、音に味付けができるのですが、これも魅力です。良質なチューブ・マイクのような音が得られました。いわばエンハンサーのように倍音をコントロールしているようなのですが、ハーモニック・ディストーションのような荒さも無く、一般的なエキサイターよりナチュラルな掛かり方でした。高次の倍音だけをコントロールしているようで、過激な効果を狙ったものではないけれど、サウンドに輝きを与えるような働きがあり、“もうちょっとエッジの効いた音が欲しい”というときにベストで、実用的で誰にも使いやすいことでしょう。深さを可変できるのも便利です。ところで、マイクプリとしての基本的な機能も網羅されています。48Vファンタム電源、−10dBのPAD、40/80/120Hzから選択可能なハイパス・フィルター、4ポイントのピーク・インジケーター。さらに、先述した内蔵ADコンバーターも、オマケとはいえない充実の機能です。ボディの小ささを補うため、背面のディップ・スイッチにてサンプリング・レートや外部同期の設定、ワード・シンクのターミネーションが切り替えられるように工夫されています。デジタル出力のフォーマットも、AES/EBU、S/P DIF(コアキシャル)に加えTOSLINKも装備され、現場で必要な機能はほぼ備わっています。ただその一方で、一点だけ非常に惜しいことがありました。それは、トリムのゲインが66dBと十分なのは良いのですが、フル・ゲイン辺りで、一気にレベルが上がってしまうことです。使用しているパーツの特性上なのでしょうが、ハイゲインで使う際は微調整が難しく、好みのゲインに設定しにくいので、ぜひ改善をお願いしたいです。本当に使えるマイクプリなので、期待しています。20080101-11-002

▲リア・パネル。左からDCイン、DIPスイッチ、ワードクロック入力(BNC)、デジタル・アウト(S/P DIF コアキシャル、TOSLINK、AES/EBU)、アナログ出力(XLR)×2、アナログ入力(TRSフォーン/XLRコンボ)×2

AUDIENT
Mico
144,900円

SPECIFICATIONS

▪周波数特性/20Hz〜40kHz(@60dBゲイン)
▪ゲイン可変幅/6〜66dB(−4〜56dB:−10dB PAD設定時)
▪外形寸法/270(W)×430(D)×80(D)mm
▪重量/2.5kg