楽曲制作からライブまで活躍するボーカル/ボイス専用エフェクター

TC・HELICONVoiceWorks Plus

2002年3月号でTC・HELICONのボーカル・プロセッサー、VoicePrism Plusをレビューしたのですが、音質の良さと使いやすさにびっくりした記憶があります。それから5年を経て、今回紹介する同ブランドのVoiceWorks Plusもまた同カテゴリーの機種。果たしてどれほどの“進化”を遂げているのでしょうか。

MIDIキーボードで“演奏”も可能な
4ボイス・ハーモニー機能


冒頭で触れた通り、VoiceWorks Plusはボーカル/ボイス用に特化したエフェクターですが、その内容を見ると、もはやチャンネル・ストリップと呼んだほうがいいかもしれません。内蔵エフェクトを音の流れで見ていくと、マイクプリ→コンプレッサー→EQ→ピッチ・コレクション(音程補正)→ボイス・モデリング→4ボイス・ハーモニー(ハーモナイザー)→Mod(モジュレーション)→ディレイ→リバーブとなります。今回は本機のメイン機能であるボイス・モデリングと4ボイス・ハーモニーを中心に見ていきましょう。ボイス・モデリングは声質を演出するエフェクトで以下の5つのエディット・ページがあります。
■インフレクション:“しゃくり上げ”“ピッチの微妙なばらつき”をシミュレート
■ビブラート:実際のボーカリストの声を解析して作成された複数のビブラート・スタイルを用意
■レゾナンス:喉や口の形状をシミュレート
■グラウル/ブレス:息遣いを強調した声やウィスパー・ボイス、そしてルイ・アームストロングやボブ・シーガーといったシンガーに代表される“うなり”などの効果を付加
■ピッチ・シフト:クロマチックもしくはスケールのいずれかでピッチ・シフト可能。またフォルマント補正機能もあり、より自然なピッチ・シフトが行えます。なおフォルマントとは、人間の声や楽器などが持っている固有の周波数スペクトルのことで、音の高さや強さに依存しない、その楽器(あるいは声)を特徴づける要素です。このボイス・モデリングは、元のボーカル/ボイスに隠し味程度の効果を加えてメリハリを付けるも良し、大胆に“完全に別人(おまけに性別も)”にして、“ありえねぇ〜”というくらいキャラクターを変化させるも良し、という機能です。次に、4ボイス・ハーモニーの概要を紹介しましょう。この機能は以下に挙げる6つのハーモニー・モードを持っています。
■Scale:楽曲のキーとスケールを指定してハーモニーを生成する最も簡単なモードです。ただし、コード進行によっては、そのままでは狙い通りのハーモニーにならない場合もあります
■Chord:MIDI経由でコードを指定します。楽曲内すべてのコードに対応できますが、スケールが考慮に入れられていないので、楽曲によっては不自然になることもあります
■Combi:キーとスケールを設定後、必要に応じてMIDIでハーモニー/コードを設定するモード。ScaleとChordの“いいとこ取り”です
■Shift:単純なピッチ・チェンジです
■Notes:MIDIキーボード/シーケンサーからハーモニーのメロディを直接指定し、リード・ボイスのメロディから独立した複雑なハーモニーのメロディを自由に生み出すことができます
■Notes 4 Channel:シーケンサーから4チャンネル分のハーモニー・メロディを直接鳴らすことができます。完全に打ち込み用ですが、完成度は当然一番高いですね。この中でも、Notesは“歌いながらキーボードでコーラスを付加”ということが可能です。デジタル・プロセッサーの宿命であるレイテンシーの問題は避けられないとはいえ、十分に使えます(とりあえず、ハーモニー生成が生演奏で実現できるというのが驚き……)。ライブ派の人であれば、弾き語りをしながらサビでコーラスを入れる、あるいはバンドでコーラス用メンバーとして本機を“加入”させる(!)などの使用法が考えられます。また打ち込み派の人は、Notes 4 Channelモードでパーフェクトなコーラス・ワークを作る!というのがオススメです。TC・HELICONのマルチボイス・ハーモニー生成アルゴリズムは、本機で第4世代になるそうですが、“やっぱり進化してる!”というのが正直な感想です。ボイス・モデリングと併せて使用すると、リアルなコーラスをいとも簡単に楽曲の中に組み込むことができます。エディット・パラメーター数はかなりありますが、100個の“ツボを押さえた”プリセットが用意されているので通常はプリセット、ないしは若干のエディットでほぼ困ることはないと思います。

電話やラジオなどのサウンドを演出する
トランスデューサー機能


そのほかのトピックとしては、同ブランドのフラッグシップ・プロセッサー、Voice Proから移植されたトランスデューサー機能があります。これはビンテージ・アウトボードなどをシミュレートしたもので、電話/ラジオ/メガフォンなどのサウンド・キャラクターエミュレーターとしても使えます。内容は、ディストーション・ブロックとバンドワイズ・ブロックから構成されていて、ドライ・ボイス(原音)、モデリング/ハーモニーのブロック、マスター・アウトのいずれかにインサートできるので(ただしモノ仕様)、ボイス・モデリングや4Voiceハーモニーと併用すれば、かなりトリッキーなサウンドを作れそうです。なお、そのほかのモジュレーション、ディレイ、リバーブに関しても、同ブランドのお家芸である“クリア/ハイファイ路線”がしっかり継承されていて◎です。“百読は一聴にしかず”(!?)、同ブランドのWebサイト(www.tcelectronic.co.jp/Default.asp?Id=12052)では、VoiceWorks Plusのデモ・ムービーが公開されていますので、ぜひチェックしてみてください!20071201-06-002

▲リア・パネル。左よりマイク入力(XLR)、ライン入力(TRSフォーン)、アウトプットL/R(TRSフォーン)、S/P DIFデジタル入出力(コアキシャル)、MIDI IN/THRU/OUT、ペダル

TC・HELICON
VoiceWorks Plus
126,000円

SPECIFICATIONS

■ダイナミック・レンジ/+92dB(20Hz〜20kHz)
■デジタル入出力サンプリング・レート/44.1/48kHz
■外形寸法/483(W)×44(H)×195(D)mm
■重量/1.85kg