“音源に近づいていく”臨場感を演出できるデジタル・プロセッサー

SOUND SCIENCEWaveEmphasizer LEF-122

SOUND SCIENCEより、“音源に近づいたときの効果をもたらし、臨場感を増大する次世代エンハンサー”と銘打たれたWaveEmphasizer LEF-122がリリースされた。1970年代中期に発表されたAPHEX Aural Exciterに端を発するこの分野。現在では各社からいろいろな方式が発明(?)され、そのどれもが明りょう度の改善、周波数レンジのワイド化をうたっている。ただ内部構造に関しては、各社どうしても秘密性が高くなりがちで、“とにかく通すだけで音が良くなる”などというコピーの製品があるのも事実。私は1980年代に発明されたある方式の愛用者なのだが、中毒者(?)も多いこの分野、さて本機はどのあたりが“次世代”なのだろう? 同社の“SoundShakit”という分かりやすいネーミングの製品の評判は伝え聞いていたので、興味津々。

現場での操作性を考慮した
シンプルで実用性重視の仕様


本機はそのアナログライクなルックスとはうらはらに、れっきとした24ビット/48kHz対応のデジタル機。ごく簡単に言うと、DSPチップを用いシェルビングEQで低域/高域を持ち上げ、音源により近づいて聴いたときのような感覚が得られる。例えば30mくらい先にある、たき火の音を想像してみてほしい。そこからどんどん近づいていくと、実はたき火の音には、低い音もすごく高い音も含まれていたことに気付くだろう。遠くから近づいてくる車のエンジン音も同様。LEF-122はこの“音源に近づいて聴くと、遠くで聴いていたときより低域/高域ともに多く含まれていたことに気付く”感覚を演出してくれるのだ。同社ではこの効果を“音響波形強調プログラム=LEF(Liveness Enhancement Filter)”と呼んでいる。コピーとしては不思議な言葉だと思うのだが、実際に使ってみると、これがよく効くのだ。フロント・パネルは、それぞれ専用の役割を持った8つのノブのみというシンプルなレイアウト。ノブを操作したときの音の変化具合は極めて滑らかで、デジタル機特有の“階段型”の変化をしないのがいい。では各ノブの働きを、順を追って見ていこう。まずANALOG GAIN。操作はシンプルで、すぐ左にあるレベル・メーター(DSP-IN)を見ながら適正値を探っていけばOK。ただし、表示が−50/−16/−4/オーバーロードの4段階しかないのは残念。メーターに関しては、せめて12段階くらいはあってもいいのでは?と思う。続いてDSP OUTは出力音量の調節用だが、本機の場合、アナログ出力と同時にデジタル出力の音量も変化する。これは複数の出力を使用する機会の多い現場ではとても大事なこと。なおインプットがアナログ/デジタルのどちらに選択されていようと、常に出力は両方とも生きている。同様に、アナログ/デジタル入力の切り替えに回転式のINPUTノブが使われているのもポイントが高い。本機の設計者は、現場経験のある人ではないだろうか? ここは操作時に不用意に動いてしまっては困る部分なので、大変良い設計だと思う。またAD/DA時のプロセス・ディレイも1.4msときちんと公表されており、細かなところではあるが、こうした点からもメーカーの実用性重視のポリシーがうかがえ、好感が持てる。

位相特性を乱すことなく
音声のプロセッシングが可能


さて本機の核心となるのがLEF LEVEL。説明書には“LEFプロセスの量を調整する”とあるが、操作してみた第一印象は、シェルビングEQを100Hz/10kHzくらいのターンオーバーにして、高/低域を同時に30dBくらいブースト/カットできるEQをいじっている感じ(そんなEQは見たこともないが)。全体的なレベルも同時に持ち上がってしまうが、その際は出力レベル・メーターが張り付きにならないよう、DSP-OUTを調整すればいい。確かに音源に近づいていく、あるいは音源が近づいてくるような様子が演出できる。特に映画など、音声を後からオーバーダビングしながら作っていく現場では、画面に合わせた臨場感を演出でき重宝するだろう。なお使用にあたっては、原音に含まれるノイズ成分も同時に強調されてしまうので、本機を通す前の信号のS/Nをきちんと確保しておくことに注意したい。その左のTONE BALANCEは、LEFの効き具合の高低域バランスを調整。右に回し切れば高域のみがLEF処理され、左に回し切れば低域のみが処理される。Lo FRQは、低域のターンオーバー周波数の調整用。Hz表示していないところがニクイ。EQ Lo/Hiは“EQ”と表記されてはいるものの、減衰量−6dBもしくは−3dB固定のカット・オンリー型で、効き始めの周波数のみ調整可能。LEF処理による音質の変化を微調整できる。ここで“波形強調”がどのようなものかを探るべく、このフィルターを使ってLEFによるブーストの効果をある程度相殺して試聴してみた。すると、原音と比べ“彩度が高くなった”印象。どのようにして実現しているのかは不明だが、確かに音色は良い方向に変化しているようだ。シェルビングEQで高域や低域を足し、音の存在感を増すという手法は、エンジニアの世界では古くから行われてきた。本機の場合、それをデジタルで処理しているので、強めのブーストによるターンオーバー周波数付近での位相特性の乱れもなく、さらに中音域への影響も非常に少ないのがいい。また一部のエンハンサーのように、原音に無い成分を付け加えることがない点にも好感を持った。20071201-05-002

▲リア・パネル。左よりUSB端子(メーカー・メインテナンス用)、S/P DIF入出力(コアキシャル)、ステレオ仕様のアナログ入出力×2系統(フォーン、RCAピン)

SOUND SCIENCE
WaveEmphasizer LEF-122
122,850円

SPECIFICATIONS

■ダイナミック・レンジ/88dB
■サンプリング周波数/44.1/48kHz
■量子化ビット数/24ビット
■外形寸法/482(W)×44(H)×205.8(D)mm
■重量/2kg