DAW環境を想定したマイクプリ/モニター・ミキサーの一体モデル

UNIVERSAL AUDIODCS Remote Preamp

DAWが一般化しても周辺機種をそろえていくと各種接続ケーブルも増え、何かと煩雑になりがちです。マルチトラック・レコーディングを1人でこなすには、このような煩雑さや複雑な操作をクリアしなくてはいけません。宅録に便利な製品も数多くリリースされており工夫して使いこなしている方も多いと思いますが、このような流れを受けて煩雑さを解消すべくUNIVERSAL AUDIOが送り出したのが“デスクトップ・コンソール・システム”と名付けられたDCS Remote Preamp(以下、DCS)です。

DAW環境での使用を想定した
高品位かつ多彩な録音関連の機能


一般的な宅録環境で使われている機材を列挙すると、コンピューター、DAWソフト、オーディオ・インターフェース、マイク、モニター・スピーカー、ヘッドフォンといったところでしょう。これらがベーシックだとして、少しグレードアップするとマイクプリ、ミキサー、各種外部エフェクター(EQ、コンプ、リバーブなど)といった機材が欲しくなります。今回紹介するDCSはこういった環境においてワンマン・オペレートで気持ち良く、かつ高品質で効率よく録音できるよう考えられたモデルです。DCSは各種ケーブルを接続してアナログ信号処理を行うベース部と、LANケーブルで接続して使用するリモート部(写真①)で構成されているのですが、まずは主要な機能を列挙しましょう。
◎デュアル・モノ構成の2chマイクプリ/DI
◎4chモニター・ミキサー
◎モニター用デジタル・リバーブ
◎モニター・スピーカー出力
◎ヘッドフォン出力
◎モニター用VUメーター
◎2chマイクプリ/DIのダイレクト・アウトなお、DCSのベース部はアナログ回路ですが、リモート部のつまみを回すとディスプレイに数字が表示され、デジタル機材のようにコントロール可能です。つまり、アナログ信号処理をデジタルでコントロールするハイブリッド製品なのです。20071001-01-002▲写真① DCS Remote Preampのリモート部のトップ・パネル。上部に2つ並んだVUメーターの下にはそれぞれChannel A/Bセクションが並び、下部にはCUEセクションを用意。中央のデジタル・ディスプレイの下にはリバーブのプリセットやEQなどをコントロールする−/+スイッチ、マイクプリの最大出力レベルを調整するGAIN Trimスイッチ、VUメーターにCUEミックス・レベルを表示させるCUE ▲ VUスイッチ、マイクプリの動作モードを選択するSTEREOおよびA+Bスイッチを搭載(2つ同時にLEDが点灯させるとMSモード)

ボーカル・レコーディングを例に
具体的な操作法/ルーティングを紹介


一般的な宅録環境で使われているDAWはコンピューターのCPUベースで動作するものが多いと思いますが、この場合、生音の録音時に使いづらい部分があります。録音しているトラックをDAWを通した後でモニターすると音が遅れて聴こえる、いわゆる“レイテンシー”の問題です。これを解消するためにはオーディオ・インターフェースに搭載されたダイレクト・モニター回路を使ったり、マイクプリからの出力をパラ出しして2回線作り、1回線はDAWへ送りもう1回線はモニター用ミキサーに送って対応していました。このような問題を簡単に解消するのがDCSです。例えば出来上がったバック・トラックにボーカルを録音するときを想定します。このときのシステムは、コンピューター、DAWソフト、オーディオ・インターフェース、マイク、ヘッドフォン、DCSです。接続方法を説明すると、オーディオ・インターフェースのステレオ出力をDCSの“C IN”へ、マイクをDCSの“Microphones”入力につなぎます。続いてDCSの“PREAMP OUT”をオーディオ・インターフェースのライン入力へ、ヘッドフォンをDCSの“CUE OUT”に接続すればOKです(図①)。20071001-01-003▲図① 宅録環境でボーカル録音を行うときのルーティングの一例 さらに実際の使い方を説明しましょう。DAWでバッキング・トラックを再生し、オーディオ・インターフェースのステレオ出力をDCSに入力。DCSのリモート部にあるC TO CUEつまみを上げてVUメーターが−3dB付近で振れるように調整します。このときリモート部の中央にあるCUE ▲ VUスイッチがONになっていることを確認してください。次に、CUE VOLつまみでヘッドフォンの音量を設定。マイクの前に立って声を出しながらリモート部の各ChannelにあるGAINつまみを上げて(コンデンサー・マイクのときは+48VスイッチをON)、VUメーターが0dB付近に振れるように調整していきます(このときにCUE ▲ VUスイッチがONになっていることを確認)。ヘッドフォンを聴きながらA TO CUEもしくはB TO CUEつまみを回して自分のボーカルの音量を好みに設定すれば準備完了です。DCSの特徴でもあるのですが、DCSは20ビット/48kHzのデジタル・リバーブを搭載しており、モニターにリバーブをかけられます。リモート部下段のREVERBスイッチをONにして、その上のREVERBつまみを回すとリバーブの量が調整できるのです。なお、リバーブにはスタジオ・ルーム(スモール/ミディアム/ラージ)、コンサート・ホール(ブライト/ダーク)、プレート(ラージ/ミディアム/スモール)、スタジオ・ルーム(ミディアム)+コーラスと、計9種類のプリセットが用意されているので、リモート部の中央の−/+スイッチで選んだ後は気持ちよく歌うことができるでしょう。設定が終わったら、DAWに録音しながら歌います(このときにDAWの録音トラックの再生音はミュート)。いい感じで録音できたらそのトラックのミュートを解除すれば、録音トラックをDCSのC TO CUEから聴くことができます。ちなみに、このときはリバーブがかかりません。リバーブをかけて確認したいといった場合は、DAW側でリバーブをかけるか、オーディオ・インターフェースに単独別アウトがあるときはボーカルを単独出力する、もしくはDCSのもう一方のチャンネルをLINE INに設定し、そのアウトを入れてモニターすればいいのです。後者の場合はモニターしていたものと同じリバーブをかけられます。この辺りは使いやすさや好みでいろいろ試してください。

マイクプリ/DIなどの音質と
その他の便利な機能


さて、肝心の音質について紹介していきましょう。まずマイクプリについてですが、一言で表現するならクセの無いクリアでレンジの広いサウンドです。例えば、ジャズやフュージョン系の感じと言えば伝わるでしょうか。もう少しマニアックな説明をするなら、EUPHONIXのアナログ・ミキサーのようなニュアンスと言えば分かる人もいると思います。実は、資料によればDCSの開発にはEUPHONIXの創業者がかかわっているそうで、これは納得です。また、各チャンネルにLO CUTスイッチが付いているのですが、これが非常にいい感じで効くので便利でしょう。DIの音質については、中域に張りがあり、なおかつ倍音が良く出る意外にロックっぽいサウンド。パッシブ・タイプのエレキベースによく合うのではないでしょうか。ヘッドフォン・アンプは比較的おとなしく耳疲れしない音質です。このサウンドなら長時間の作業にも耐えられるでしょう。ここまでに紹介してきたのが、DCSの核となる部分となります。これ以外にも“MS(Middle-Side)-STEREOモード”を搭載しており、単一指向もしくは無指向性マイクと、双指向性マイクを組み合わせてステレオ録音を行う“MSレコーディング”で活用することが可能です。また、複数のリモート部をリンクさせて活用する機能もあり、リモート部に搭載されたトークバックを使ったやりとりにも対応することができます。ここまでに紹介してきた以外の機能として、マイクプリのChannel AとChannel Bの音をミックスしてモノ出しする“A+B”機能や、ステレオ・リンクしてChannel Aをマスターにできる“STEREO”機能、GAIN Trimを使ってDAWとピーク・マージン表示を同じにできる機能、モニター音だけにかけられる2バンドのEQなど、多彩な機能が用意されており、どちらかと言うとDAW上級者向けの製品ではないでしょうか。上級ユーザーなら、この多機能と音質を自分なりに工夫して使いこなせるでしょう。何はともあれ、UNIVERSAL AUDIOの心意気が感じられるモデルです。20071001-01-004

▲ベース部のリア・パネル。上段左からリモート部との接続用ポート、CUE入出力(共にTRSフォーン)、DI入力(TRSフォーン)×2系統、マイク入力(XLR)×2系統、電源ケーブルのインレット、TALK MIC出力(TSフォーン)、チャンネル入力(TRSフォーン)、スピーカー出力(TRSフォーン)、ABステレオとA/Bのチェイン出力(TSフォーン)

UNIVERSAL AUDIO
DCS Remote Preamp
オープン・プライス(市場予想価格/160,000円前後)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/4Hz〜150kHz@+0/−3dB(マイクプリ/DI)、8Hz〜60kHz@+0/−3dB(スピーカー出力)
■入力インピーダンス/2kΩ(マイクプリ)、4MΩ(DI)
■出力インピーダンス/200Ω(バランス)、100Ω(アンバランス)
■外形寸法/ベース部:221(W)×71(H)×146(D)mm、リモート部:143(W)×67(H)×176(D)mm
■重量/ベース部:2.1kg、リモート部:0.8kg