太い音像でナチュラルな響きをとらえる低価格のリボン・マイクロフォン

CADTrion 7000

近ごろ、安い価格帯のマイクが増えてきて、個人でもさまざまなキャラクターのマイクを所有できるようになっていますね。しかも、そんなマイクが意外にも“使える”マイクだったりするのでさらに驚いてしまいます。今回紹介するTrion 7000を製造するCADも、多くの低価格製品を提供しているメーカーの一つであります。

リボンらしく存在感のある低域と
自然なカーブを描くフラットな高域


このTrion 7000は、現在3機種がリリースされているTrionシリーズの一つで、ほかにTrion 6000(コンデンサー)とTrion 8000(チューブ・コンデンサー)が控えています。そして、コンデンサーとチューブの間に挟まれているTrion 7000はダイナミックなのかと思いつつ、ふたを開けてみればリボン・マイクなのですね。実ににくいじゃないですか。もちろん3機種ともに価格を抑えたリリースですので、うれしさ3倍増です。まず初めに、ホーン・セクションのダビングで、音源から2mくらいの場所に置いてみます。トランペットの破裂音やサックスのエッジなどは丸くなってしまいますが、温かみやナチュラルに響く感じは、コンデンサーなどほかのマイクには出せない芸当ではないでしょうか。ここで同じリボン・マイクのROYER R-122Vを並べてみたのですが、R-122Vはアクティブ式の強みだと思うのですが、音色が明るく感じます。一方でTrion 7000の中低域からの存在感は、リボンらしさがしっかり出ていると思います。スーザ・ホーンの厚みのある低音などは、いい感じで表現してくれました。思い切りオン・マイクでそれぞれを狙ってみたいところですが、メーカーからの注意事項に大音量の音源には近付けないようにと大きく書いてあったので、借り物でもありますし今回は見送り。バス・ドラムの真ん前に立てるようなことをしなければ大丈夫なのでしょうが、何しろ極薄のリボンが振動板としてマウントしてあるわけですから、丁寧に扱わなければならない代物です。そのほかの注意事項として、ファンタム電源は絶対に送らないでください。また、鉄粉などが吸い付いて故障の原因になるので床などには放置しないなど、皆さんも取り扱うときには十分に注意しましょう。続いてタンバリン。斜め上60cmくらいの所からコンデンサー・マイクのAKG C414B-ULSと並べて立ててみました。リボンの特徴として、感度が低く目立った高域の伸びが無いため、コンデンサーに比べてレンジが狭く、歯切れも悪く感じますが、またそこが長所でもあります。フラットに再現される高域は作られたものでなく、あくまで自然なカーブを描いているのでとてもリアル。特に今回のバック・トラックは、アンビエンス・マイクを多用して作った生々しいサウンドだったことも手伝って、コンデンサー・マイクのチャリチャリ鳴る高域よりもTrion 7000の5kHz手前から落ち込んでいく高域と音像の太さがちょうど良く曲になじませてくれました。文句無しにTrion 7000を採用。

太さに輪郭が付いて前に出てくる
ソロ・パートに使える押し出し感


続いてエレキギターで試してみましょう。あまりに大音量だったため、これもオフマイキングで狙います。先ほどと同様にC414B-ULSとステレオ・バーにマウントして、アンプから1m強の位置にセッティングしてチェックします。ちなみにオンマイクにはSHURE SM57をセンター・コーン正面にセッティング。かなりハイのきついディストーション・サウンドなので、オンマイクだけでは線が細くなるのを防ぐ意味合いで少しずつオフ成分を足していくと、どちらのマイクも目的は達してくれるものの、音の押し出しというか抜けというか、存在感のニュアンスに随分違いが出ました。C414B-ULSの場合は、低い成分が横に広がる感じ。平面的に素直に増えてくるイメージで、バッキング・パート向き。Trion 7000は太さに輪郭も付いて、前に出てくるイメージ。ソロ・パートなどにいい効果が出そうだと思いました。最後にウクレレをレコーディングしてみることにします。ここではNEUMANN U87AIを並べて比較することにしました。コード弾きをしているときにはあまり感じませんでしたが、ソロでメロディを弾いているとき、Trion 7000で録ったものを聴いた方がリリースに膨らみが付いて、滑らかさが増してきました。この手のアタックが強くリリースが短めの楽器には見事にマッチしそうです。特にナイロン弦をはじいたときに瞬間的に耳に付く硬い部分なども聴きやすくなって、逆にEQで高域を持ち上げてあげればとても素直ないい響きを出してくれます。Trion 7000は、どの楽器をレコーディングするときでも、少し高域をEQで持ち上げて使うことにはなるでしょうが、クラシカルなイメージを出したいときやナチュラルな響きを得たいとき、入力にさえちょっと注意すれば簡単にその効果が得られるリボン・マイクです。専用ハード・ケースにショック・マウント付きというのもユーザーにはうれしいところですね。
CAD
Trion 7000
57,750円

SPECIFICATIONS

■指向性/双指向
■周波数特性/25Hz〜9kHz
■インピーダンス/940Ω
■感度/−53dBV(2.2mV)@1Pa
■セルフ・ノイズ/14dB
■外形寸法/47(φ)×155(H)mm
■重量/398g