EMIの名コンソールを出自としつつ新たな機能も追加した2ch EQ

CHANDLER LIMITEDTG12345 Curve Bender

TG12345コンソールと言えば1960年代にEMIが独自開発した完全限定生産の24ch/8バス・ミキサーで、そのプロトタイプは1967年にアビイ・ロード・スタジオに導入された。その後、バージョン違いで計4台が導入され、ザ・ビートルズ『アビイ・ロード』やピンク・フロイド『狂気』などの名盤がこのコンソールを使って録音されたのである。その名機の中でも1台しか作られなかったMK1(プロトタイプ)をベースに開発されたのが、今回紹介するCHANDLER LIMITED TG12345 Curve Bender(以下、TG)。TGはアビイ・ロード・スタジオ75周年を記念しリイシューされたマスタリング品質のアナログ2ch EQで、当時のビンテージ感に加えて現代に合わせるべく追加された機能と性能は、マスタリングはもちろん、あらゆる録音現場で使用可能なクオリティである。

フィルターと4バンドEQを組み合わせ
補正から積極的な音作りまで対応


まず、マスタリングで使う機材は接続しただけで大きな音質の変化があったり、位相が悪くなったり、バランス感が狂うなど、良くない変化をしてはそれだけで一発NGである。TGはゲルマニウム・トランジスターを使ったアンプ回路を採用しており、それがサウンドを決定づけている。そのためフルバイパス時もその回路が本線上に残るが、音質的に変化は少ない。独特の正確さがあり、位相も良く、とてもナチュラルだ。ちなみに電源部は別ユニットなのでノイズ対策も万全である。さて、ここからは機能を細かく見ていこう。フロント・パネルの左右にあるハイパス/ローパス・フィルターは新たに追加された機能。回路構成はオリジナルTGユニットを応用しており−6dB/octのスロープで動作する。ハイパス・フィルターは20〜320Hzで重低音から実音域まで、ローパス・フィルターは2〜30kHzと実音域からエアー帯域までと幅広い。力ずくで帯域をコントロールするようなスロープではなく、例えば低域の伸び過ぎた音や、子音のきついところを探って抑えるといったことが奇麗に処理できる。このフィルターと4バンドEQを組み合わせれば補正程度の細かいEQから攻めのEQまで、使い勝手がカナリ上がる。しかも、あまりEQくさくならないのだ。

TG12345コンソールのポイントに
新たなポイントを加えた心憎い仕様


ここからが、メイン部分である。まず4バンドEQの一番下にあるバンドのトグル・スイッチは、EQカーブと各バンド自体のバイパスを選択するもの。各chのON/OFFスイッチは中央にあり(青く光る!)、チャンネルごとにON/OFFできる。各バンドの赤いツマミが周波数選択、青いツマミがブースト/カットで、±10dBで1dBステップの設定。TREBLE/BASSはシェルビングかピーキングを選択でき、他の2バンドはピーキング固定で、それぞれに×1モード(±10dBでオリジナルのQ)と×1.5モード(±15dBでオリジナルよりシャープなQ)を選択可能。周波数帯はTREBLEが3.6〜20kHz以上と中高域からエアーまで、BASSが35〜300Hz以上と重低音から低域の広い範囲。PRESENCE1が0.8〜8.1kHz以上と中低域から中高域の広い帯域をカバーし、PRESENCE2が0.3〜3.6kHz以上と中域を担当する。各バンドは少しずつかぶりがあるので困ったときには違うバンドを使ってカバー可能だ。この周波数値は白と黄色でプリントされているが、オリジナルのポイントが白で、新たなポイントが黄色。つまり、白のポイントのみを使って完全にオリジナルTGを再現できるわけだ。フロント・パネル中央下部にある2つのツマミは、出力ゲインを±10dBで調整できる1dBステップのボリューム・ツマミ。マスタリングで使用するADコンバーターは入力ゲインの調整がしにくいものが多いが、レベル差のある音源を一枚のアルバムに仕上げるのは現在のマスタリングで日常茶飯事。ここでボリューム調整できるのはとても便利だ。録音現場でもミックス時のトータルにかける場合、コンソールのマスター・フェーダーをバイパスして直で落とした先に挟むといった場合、どこかでゲイン調整ができると便利だ。こういった細部にも現場に即した気配りが見える。最後に操作性だが、見た目と同じくとても分かりやすい。Qカーブの特徴さえつかめば全く問題ないだろう。位相がバッチリなので音の反応も早く、狙いたいポイントも探りやすい。ツマミはすべてステップ式でトータル・リコールも手動メモで対応可能だ(笑)。DAWでのデジタル録音が一般となった現在、プラグインではなくアウトボードでアナログ時代の音楽的ないい音と技術を再販させることはとても重要だと思う。そんな現代によみがえった素晴らしいアナログEQだ。

▲リア・パネル。右からLEFTチャンネルの入出力とRIGHTチャンネルの入出力(すべてXLR)、別売のパワー・サプライ・ユニット、PSU-1(オープン・プライス/市場予想価格26,040円前後)の接続端子

CHANDLER LIMITED
TG12345 Curve Bender
オープン・プライス(市場予想価格/659,400円前後)

SPECIFICATIONS

■外形寸法/482(W)×132(H)×320(D)mm
■重量/約9kg