22本の真空管をぜいたくに用いたハンドメイド2chマスタリングEQ

FAIRMANTMEQ

マスタリング用アウトボードでは、真空管回路を使用したものはそう多くありません。その理由の一つとして、マスタリングではステレオのカップリングや位相特性などの精度がシビアに要求されるため、動作が不安定な真空管は扱いにくいからというのが通説です。しかし、今回チェックしていくFAIRMAN TMEQは、あえて真空管回路を使用したマスタリング用EQとのこと。非常に楽しみです。

入出力トランスやスイッチなどにも
こだわりの高級パーツを使用


FAIRMANはデンマークのハンドメイド・メーカーで、TMEQは2枚のメイン・ボードにそれぞれ11本ずつ真空管を配した基盤構成を採っています。12系統の周波数制御アンプ(FCA)を動作回路とすることで位相ズレや音質の劣化を最小限に抑え、リニアな特性を実現できるようになっているとのことです。真空管には比較的入手の容易なELECTRO-HARMONIX製のものが使用されています。本体サイズは6Uで、電源部は別ユニットになっています。電源ユニットから発生するノイズも無く、スタジオ内に置いても問題ないでしょう。放熱に関しては、ファンレス設計ですが天部と底部に放熱溝が設けられているので問題無い範囲で使用できそうです。すべてのつまみはノッチ式で、必要な回路だけに信号を通せるハード・バイパス式。トランスにはLUNDAHL、スイッチには金接点のELMA 04を採用するなどパーツ選びにも独自のこだわりがうかがえます。つまみのレイアウトは、センターを境にして上部にCHANNEL 1、下部にCHANNEL 2。各チャンネルは左から順にインプット・ゲインとLo CUT、Lo BOOST、BY PASSスイッチを挟んでHi MID、Hi BOOST、アウトプット・ゲインとHi CUTが並びます。Lo MID、Hi MIDはQ幅が3段階でセレクトができ、ブーストまたはカットが可能。Lo、HiバンドはQ設定が無く、17ポイントのBOOSTと11ポイントのCUTが個別に用意されています。

倍音が自然に伸びているのに加え
前への押し出し感も得られる


ではサウンド・チェックに入りましょう。まず信号を入力してゲインと位相のカップリング状態を確認しました。真空管機材だからと思い期待度は低かったのですが、実に素晴らしい。すべてが奇麗にそろっていました。時間の経過を経ても特性は変化せず、位相がズレることもありませんでした。肝心のサウンドは、機材をスルーした状態でも音源より肉厚になり、ボトムにつやが増した感じになります。ただハイエンドの伸びと空気感は少し落ちた感じに聴こえます。次に、フラットな設定のままで各バンドをONににすると、音源よりも肉厚になることはもちろん、ハイエンドの聴こえ方も素材に近くなります。また、本機にはバイパス・リンク機能があり、BY PASSをOFFとONの中間にすると両方のチャンネルがONになります。この位置にしたとき、周波数レンジは若干狭くなるのですが、ハイエンドとローエンドにつやが乗ってきます。いずれの状態でも倍音が自然に伸びているので非常に聴きやすく、かつ高品位なサウンドに変化を遂げます。今まで聴いてきた真空管機材の中では、倍音が強調され伸びやかな方向にいくものはあっても、本機のような前への押し出し感が得られるものはありませんでした。また、奥行きもよく見えるようになります。そして各バンドでEQをかけてみると、倍音が伸びているせいかコンデンサー系EQとは異なり、過激なEQ処理には聴こえません。すべてのポイントで非常に緩やかなカーブを持っているEQだと感じられます。ナチュラルに倍音成分を引き出すには非常に有利な機材であることを実感できるでしょう。ゲインを上げても心地よいひずみ感とつやが違和感無く上がっていきますし、質感そのものに変化は見られません。過激かつ派手にとはいきませんが、周波数レンジを広く取るSACDなどのハイファイ指向のメディアや、生楽器編成の作品では、本機をチョイスすると良い結果が得られるように思いました。デジタル領域での作業が中心となっている現在では倍音成分が欠落することも多く、アナログ・テープの衰退とともにマスタリングにおけるアナログ段での倍音の付加が重要なポイントになってきていることも事実です。そうした音作りを得意とする本機によって、これからの新しいサウンドの方向性が見えてくるかもしれません。

▲リア・パネル。左からグラウンド・リフト・スイッチ、CHANNEL 1の入力/出力(XLR)とCHANNEL 2の入力/出力(XLR)、バイパス用フット・スイッチ入力、フューズ×4を挟んでアース端子、専用電源入力端子

FAIRMAN
TMEQ
オープン・プライス(市場予想価格/1,800,000円前後)

SPECIFICATIONS

■ノイズ/−112dB(全バンド・オフ)、−105dB(全バンド・オン/ノー・ゲイン)
■チャンネル・セパレーション/100dB
■全高調波歪率/0.01%(ユニティ・ゲイン@+4dBm、全バンド・オフ)
■周波数特性/10Hz〜38kHz(±0.5dB、全バンド・オフ)、15Hz〜48kHz(±1dB、全バンド・オン@ノー・ゲイン)
■入力インピーダンス/2.7kΩ(トランス・バランス)
■出力インピーダンス/150Ω(トランス・バランス)
■外形寸法/483(W)×360(H)×264(D)mm
■重量/15.2kg(本体)、4.8kg(付属電源)