中域の膨らみが女性ボーカルなどにマッチする真空管リボン・マイク

ROYERR-122V

今回レビューするのはリボン・マイクのROYER R-122V。同社からリリースされているR-122のバリエーション・モデルということです。R-122はファンタム電源動作ですが、R-122Vは真空管を使用し、専用の外部電源でドライブする仕様。つまりR-122VのVはVacuum tube(真空管)のことなのです。それでは真空管で動作することによってどのような音質になるのか、実際にR-122と比較しながらチェックしていきたいと思います。

デジタル・レコーディングに
自然な空気感を加える音質


昔話になりますが、僕がROYERのリボン・マイクに初めて出会ったのは、日本にまだ代理店が無かったころの話。アメリカ帰りのエンジニア仲間にROYER R-121を見せられたのが最初です。そのときは“今ごろリボン・マイクなんて……”と否定的に感じ、実際に使い始めたのは今から数年前のこと。使ってみてひっくり返るような衝撃を受けるほどのキャラクターがあるわけではありません。ただ、デジタル・レコーディングの発展に伴い録音レンジが広がっている現在、リボン・マイクの持つナローで自然な感じが逆に興味深いのです。僕はじっくり録音して“空気感や自然な部屋鳴り感が欲しい”“なるべくリバーブを使わずに処理したい”と思うときはリボン・マイクを選ぶことにしています。まずは届いた木箱(かなりしっかりした作り)を開けてみると、R-122Vはさらに布の袋に入っています。これは、何とも良い音で録れそうではないですか。さて、袋から取り出して見てみると、外見はR-122とほぼ同じです。資料を読むと太さ、長さは同じで、重量はR-122の方が少し重い程度。ボディに縦長のスリットが2列あるのはR-122Vのみ。これは内蔵の真空管を空冷するためのものでしょう。さて、今回はライブ・ハウス、新横浜ベルズ(www.shinyokobells.com)と知り合いのバンド、I-RabBits(www.i-rabbits.net)に協力してもらい、ライブ・ハウスの閉店後に機材を持ち込み、バンドのプリプロ録音も兼ねてチェックしてみます。比較のためR-122とR-122Vは常に同じ場所にセッティングして収録。ちなみにレコーダーとしてはAPPLE MacBook 2.0GHz Intel Core DuoにインストールしたDIGIDESIGN Pro Tools LE Software 7.1.1を使用。オーディオI/OはDIGIDESIGN Digi 002 Rackで、24ビット/48kHzのWAV形式で録音していきます。

輪郭や息遣いをはっきりさせたい
女性ボーカルの録音にピッタリ


では、まずドラムを録音してみましょう。今回はあえてモノラルで狙ってみます。R-122とR-122Vはどちらも双指向性なので、背面も気にしつつ、両方でいい響きが出るところを探し、バス・ドラムの正面2.5mくらいの距離で、高さ1.3m程度の場所にマイクを少し下に傾けてセット。ふと見るとR-122Vのスリットから中の真空管が赤く光っているのを発見。これは、少しかっこいいですね。この段階で電源を入れて7分くらい。真空管も良い感じに暖まってきているので実際に録音して聴き比べてみましょう。どちらも収録音はいい感じ。ROYER独特の自然な雰囲気、高域のうるさくない感じ、楽器の鳴りの欲しい部分がきちんと収録されています。ちょっと聴いただけでは、この2本の違いは分かりません。しかし、ヘッドフォンで注意深く聴いてみると中域に微妙な差があります。どうやらR-122Vでは300Hz〜500Hz近辺が少し持ち上がっている模様。スネアの胴鳴りが太く聴こえます。高域、低域に関してはR-122との違いはなく、シンバルやスナッピーなどの金物の高域が自然で好印象。ドラム・セットという一つの楽器が良いバランスで録れました。続いてはアコギの収録。サウンド・ホールとネックの付け根の中間辺りから50cmの距離に少し上からセットします。演奏者に、弾きながらギターを前後左右に動かしてもらってポイント探し。今回はエンド・ピンとブリッジの中間辺りに決定、収録に移ります。ヘッドフォンで確認すると、やはりR-122Vの中域は良い印象。3&4弦のコード感がしっかりする感じです。また、これはR-122も同様ですが、双指向なので背面からの部屋鳴り感も一緒に録れています。これがまた素晴らしい。いかにも“そこで弾いている”感が出ています。最後に女性ボーカルを収録してみましょう。実は個人的には一番興味のあるところなので思わず期待してしまいます。通常のボーカル録りよりも離し目の50cm程度のところに、ポップ・スクリーン無しでセッティング。収録してみると、こちらではR-122との違いが如実に出ます。女性ボーカルだからということもあるのでしょうが、R-122Vの方が声の輪郭と息遣いがかっこ良く聴こえます。彼女の録音ではいつも6〜7kHzを少し削るのですが、その辺りはフラットのままでも大丈夫な感じです。マイクからの距離もあるでしょうが、高域が素直でうるさくなく、息遣いも良い感じで聴こえています。“良い意味で生々しく録れている”とは歌った本人の感想です。曲の方向性もあるでしょうが、デジタル・サウンドが主流の現代のレコーディングにおいて、ナローな帯域の収録は逆に自然で、心地良い録音ができます。ミキサーのチャンネル間にクロストークが無くなり、分離が良くなっている現状で“一つのチャンネルに空気感も入っている”というリボン・マイクでの録音はお薦めです。
ROYER
R-122V
オープン・プライス(市場予想価格/399,000円前後)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/30Hz〜15kHz(±3dB)
■感度/−40dB(1V/pa ±1dB)
■出力インピーダンス/200Ω(バランス)
■ロード・インピーダンス/>1kΩ
■最大SPL/>135dB
■指向性/双指向性
■外形寸法/25(φ)×206(H)mm
■重量/300g
■付属品/専用電源、マイク・ケーブル、他