MSモードなどさまざまな機能を搭載したアナログ・ステレオ・コンプ

ELYSIAAlpha Compressor

国際放送機器展、Inter BEE 2006で新しい機材はないかと物色していたところ、このELYSIA Alpha Compressorの超合金系デザインにひかれ、立ち止まりました。カタログを見ると、マスタリング用に開発されたと書かれています。近年、マスタリングの現場ではクライアントに求められることが多岐にわたるため、さまざまなマスタリング用機材が必要。私は新たなマスタリング用機材を探していたこともあり、このコンプの前で足が止まったわけです。

スイッチとツマミを使い分けるだけで
さまざまな機能をコントロール可能


Alpha Compressorのフロント・パネルには中央の円の回りを囲むようにゲイン・リダクション・メーターが配置されています。その下にある3つのスイッチと左右それぞれに用意された幾つものツマミやスイッチ(左右に同じものがある)を組み合わせることによって、さまざまな音作りを実現可能。このコンプの機能はあまりにも多彩なので、各スイッチやツマミに割り当てられた機能を解説しつつ、使用感をレポートしていきましょう。なお、ソースとしてハードめのクリック・テクノと女性ボーカルのボサノバを用意しました。Alpha Compressorには大別すると“ステレオ”“MS”という2つのモードがあります。まずはステレオ・モードから。中央のActive、Channel Linkスイッチと左右のCompressedスイッチをオンにすると、ステレオ・コンプとして機能します。早速、音質をチェック。柔らかなアタック感とクリアでハイファイなサウンドが印象的です。より強めにコンプをかけたいときはFeed Forwardスイッチを選択します。さらに、Auto Fastスイッチを選ぶとハード・ニー・タイプになり、パキパキと強めにコンプをかけることもできます。Alpha Compressorの特徴の一つとしてSidechain Filterモードによってマルチバンド・コンプ的な使い方ができるところが挙げられます。操作法はSC Freqツマミで変化させたい周波数を選び、SC Gainツマミでレベルを変化させるだけ。例えば、SC Freqツマミをマイナス方向に回して低い周波数を選ぶと、低域のレベルだけが調整できます。このような機能があるコンプは珍しいのではないでしょうか。また、Soft Clipスイッチ/ツマミというものもあり、テープ・コンプ的な効果を演出可能。試してみたところ、まるでSTUDERのアナログ・レコーダーを通したときのような上品なサウンドに仕上がりました。ほかにも、Transformerスイッチをオンにして、中域の張りを強調するなど音色を色付けするための機能も充実しています。まだまだ、Alpha Compressorには独自の機能が用意されています。それはMix Controllerツマミでコンプ後の音と元音をクロスフェードできる機能。混ざり具合はとてもスムーズで、コンプ感を極力押さえつつ、音圧を稼ぐといったことを簡単に実現します。

MSモードによって
空間的な音作りを実現


さて、MSモードをチェックしていきます。MSモードとはステレオ定位においてM(=Middle)とS(=Side)、つまり中央と左右の各レベルをコントロールできるもの。中央のMS Modeスイッチを選び、左chのGainツマミでMのレベル、右chのGainつまみではSのレベルを調整できます。ここで、Activeスイッチをオンにしてみます。すると2つのchのコンプのパラメーターを別々に調整可能。例えば左chで中央(M)のベースやドラムをパワフルにして、右chで両サイド(S)の楽器の音をナチュラルにするといったことができます。また、MSモードとSidechain Filterモードを組み合わせるなど、ステレオ・モードで紹介した各機能が使用できます。例えばSidechain Filterモードで、バスドラムだけを強調したり、ボーカルを小さくして、さらに左右(MとS)のGainツマミを調整すれば、ボーカルが大き過ぎるミックスのステレオ感を変化させることができるわけです。Alpha Compressorはさまざまな独自機能を持つコンプです。クラシックやジャズ、アコースティック楽器中心のナチュラル系の音楽など繊細な音源に向いているだけでなく、ラジオなどで映える位相の整った中域を作り出すのにもマッチするため、CD以外にも配信用に合わせた音作りにも対応できるでしょう。

▲リア・パネルには電源コネクター、右ch用出力、右ch用入力、左ch用出力、左ch用入力(すべてXLR)が並ぶ

ELYSIA
Alpha Compressor
オープン・プライス(市場予想価格/1,300,000円前後)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/10Hz〜200kHz(−0.5dB)
■最大出力レベル/+27dB(ステレオ・モード)、+23dB(MSモード)
■全高調波歪率(コンプレッション無し)/0.0039%@+15dBu(ステレオ・モード)、0.014%@+15dBu(MSモード)
■全高調波歪率(コンプレッション時)/0.009%@+15dBu(ステレオ・モード)、0.034%@+15dBu(MSモード)
■入力インピーダンス/10kΩ
■出力インピーダンス/640Ω
■外形寸法/483(W)×133(H)405(D)mm
■重量/16kg