SACDと同等の１ビット録音が行えるモバイル・ステレオ・レコーダー（6/1：価格改定）

KORGMR-1

権藤知彦（anonymass）

DSDでのレコーディングはここ数年話題になっています。筆者も昨年、anonymassのアルバム・マスタリングでDSDレコーダーを選んだことがありました。原音に忠実だと感じたからです。一般的なPCM方式では、DA変換時に多かれ少なかれ音の間引きが行われています。DSDは、一言で言えばDA変換時の内部処理にロスが無いということが基本にある方式。一時は高価だったDSDレコーダーが、もうカバンに入れて持ち歩けるサイズになるなんて！と、このMR-1の登場には正直驚きました。

※2010/6/1追記：KORGから価格改定の発表があり、旧価格75,600円を新価格に修正いたしました。

最高192kHzのPCMにも対応
DSDとPCMの相互変換ソフトが付属

DSDとPCMの両方に対応するポータブル・レコーダーの本機は、20GBのハード・ディスクを内蔵しており、SACDと同クオリティのDSD（１ビット／2.8224MHz）でも最長約6時間の録音が可能です。またPCMでもWAV形式で24ビット／192kHzまでの高音質録音が行えます。電源は本体内蔵の充電池、もしくは充電器兼用のACアダプターを使用します。また、こうしたコンパクトなレコーダーではマイク内蔵モデルもありますが、MR-1は外付けのステレオ･コンデンサー･マイクが付属しています。DSDやハイサンプリング・レートの録音時は内部の動作音などにも敏感になるため、あえて外付けにしたようです。録音はマイクをつなぎ、フォーマットを選んでRECボタンを押すだけ。録音したファイルはフォーマットごとのフォルダーに保存され、本体上で名前の変更が行えるほか、マーカーを付けることもできます。こうした操作も本体右側にある"P-ダイアル"を回して押し込むというシンプルな操作が基本です。また、ファイルはUSB 2.0経由でコンピューターに高速転送が可能。DSDとWAVの相互変換やファイルの結合／分割などが行える専用ソフトAudioGate（Mac OS X/Windows XP対応）が付属しています。

DSDは奥行きがあり中低域が安定
PCMに変換してもその印象を保つ

では録音してみましょう。ある程度アンビエンスのある部屋で耳の高さくらいにマイクを置き、ドラム、ピアノ、トロンボーンをオフマイクで録ってみました。使用したマイクは付属のものと7,000円程度のステレオ・マイクです。ひとまず24ビット／44.1kHzのWAVとDSDで比べてみたところ、質感の違いが顕著に出ていました。PCMでは硬さを感じる音圧感が若干あったのに対して、DSDでは嫌な音圧感はなく、さらっとした印象でとても上品。周波数レンジが広がるというよりは奥行きがあり、中低域がより安定したサウンドになって聴こえます。楽器ごとでの印象の違いはあまりありませんでしたが、特にドラムでは各パーツが共鳴しているような細部まで奇麗な伸びが感じられました。ただし、WAVでもサンプリング・レートを上げると、前述のような質感の違いはありますが、DSDとの音質的なクオリティという意味では優劣をつけがたいと思いました。次に、室内で足音を録音してみたところ、PCMとDSDでの差がよりはっきり表れました。PCMではだんだん近付く様子や左右の動きの変化について、特に動いている途中の表現力があいまいに感じられたのですが、DSDでは足音の変化をシームレスに聴き取ることができたのです。さらに、AudioGateを使って、録音したファイルをDSDからWAVに変換。この状態で聴き比べても、変換前のDSDと音の印象はほとんど変わりませんでした。一度記録された音の傾向は、ファイル変換をしてもあまり影響を受けないのかもしれません。いろいろな場所で手軽に使え、そしてその場所の奥行きや空気感までもとらえる本機。ライブ録音やフィールド・レコーディングに最適ではないでしょうか。特にDSDでは繊細に音が録れるので、音の入り口であるマイクの選択も重要になってきます。いろいろなマイクを試して、高音質の追求と手軽さをうまく両立できるようなモデルを探してみるのも面白そうだと思います。