リアルタイムにダブリング効果を得られるボーカル・プロセッサー

TC・HELICONVoiceDoubler

TC・HELICONは、T.C. ELECTRONICのブランドの1つで“声を最も表現力あふれる楽器の1つとする“というコンセプトを掲げています。個人的にも、同社の製品は“奇麗なミックス”を心掛ける現場でよく使用しており、リバーブではM・OneやM3000、ディレイではD・Two、さらに2ミックスのレベルをFinalizerでそろえるなど、気付けば卓周りのエフェクターはほとんど同社製品ばかり。今や現場に無くてはならない存在です! 今回はそのT.C. ELECTRONICが擁するTC・HELICONからVoiceDoublerというエフェクターが発表されたそうなので、早速レビューしてみましょう。

ダブリング・ボイスを最大4声まで生成
性別やビブラートなど個別設定が可能


VoiceDoublerはライブ用に開発されたボーカル用ダブリング・プロセッサーで、ディレイやピッチ・シフターだけでは実現できない説得力のあるボーカル・サウンドをミックスに加えることができます。主要機能はリアルタイムで最大4オーバーダブ・ボイス(4声)を生成し、各ダブリング・ボイスは性別、ピッチ、ビブラート、インフレクションといったアルゴリズムによる“より人間的”なシミュレートを行えるというもの。μMODと呼ばれるデチューンやコーラス、フランジャーなどのエフェクトも用意され、しかも複雑な操作は必要なく、4つのノブだけでタイミング、ピッチ、オーバーダブ・レベル、エフェクトなどをコントロールし簡単にハイクオリティな効果を得られるのです。そのほかプリセット・データは50種類、作成した設定も50種類まで保存可能で、デジタル入出力も標準装備しています。さて、面構えはというと、ノブが4つとデータ・ホイールが1つ、液晶パネル、そしてボタンが4個とシンプル極まりない仕様です。こんなに少なくて現場で使えるものなのかと不安を感じる人もいるかもしれませんが、実際のライブでは細かく操作する暇など無いのが現状です。そのために必要最低限のノブだけを触れるようになっているのですね(もちろん、詳細な設定を行うためのエディット・ページも用意されています)。また本機は2IN/2OUTですが、INPUTはL/Rではなく、“VOICE”と“AUX”という名称で、基本的にダブリングしたいソースはVOICEに、μMODエフェクトをかけたいとき、あるいは生音もミックスしたいときはAUXに接続するという仕様。ではいよいよ現場で使用してみましょう。

まるでゴスペル隊のような効果もOK
上品かつクリアなサウンドも好印象


まずは大型ライブ・ハウスでクラブ・イベントのPAを行う仕事があったので、本機をワクワクしながら持っていきました! そこで“4 Overdubs Wide”といういかにも良さそうなプリセットを選択し、ボーカルを本機に送ってレベルを決め、そのリターン音を生のボーカルとともにスピーカーから出した途端、何と“ゴスペル隊”がボーカルを包むように居るではないですか!? 驚いてヘッドフォンで確認してみると、そのゴスペル隊は4声の定位が細かく異なっており、また1人1人個性のあるハモリを聴かせてくれていました。特に下のピッチの声に至っては“肉声”そのもののリアルな感じです。上のピッチを担当する声は作られた感じがするものの、従来の同種製品に比べればその差は歴然ですし、ビブラートやタイミング、しゃくりといったスタイル・キャラクターをボイスごとに変えることにより“個性”としてしまえる感じです。音質もT.C. ELECTRONIC製品の特徴であるクリアさや上品さといった部分を裏切らず、さすがと言ったところです。さて、本番を終えて事務所もバンドの皆さんからも格好良かったと大評判だったので、次はさらに音数の少ないアコースティック系ライブではどうだろうと本機を抱え現場に向かいました。パーカッション、アコギ、ボーカルと極めて声が目立つサウンドなので初めは戸惑いましたが、“Sweet Chorus”なるプリセットでうっすらとベタに包む感じでリバーブ的な使い方を試みました。この使い方も吉となりアコースティックの温かさがより強調されるような、まさに“優しいコーラス隊”のような感じになりました。操作も複雑なことをせずに済むので本当に助かります。欲をいえば、ディエッサーの効きが早いため設定に手間取るのと、もう少しプリセットが増えればもっといろんな環境やジャンルにおいて、より早い時間でさまざまな効果を追求できると思います。しかし、操作のコツをつかんでしまえば、そんなこともすぐ解決できてしまうでしょう。そのほか、本機はMIDIでコントロールすることもできるので、DAWソフトなどからMIDI情報を細かく本機へ送れば、曲に合わせたコーラス・ワークやエフェクティブな効果を得られるなど、ライブにおいてもレコーディングの完璧な再現ができそうですね!ライブにおけるダブリングやコーラスは、現在もショート・ディレイで多重ボーカルにしたり、コーラスやピッチ・チェンジャーでピッチをぼかしたり、さらにはMTRなどの同期機材を使うなどレコーディングの再現はなかなか難しいのが現状です。しかし、本機のおかげで余計な手間や労力を使わずに、音源に近いサウンドを簡単に再現できます。さあ、一撃必殺のアイテムをゲットしたので次のライブから怖いものなしですね!

▲リア・パネル。左からボイス・インプット(XLR)、AUXインプット入力(XLR)、メイン・アウトプット(XLR×2)、デジタル入出力(S/P DIF or AES/EBU、コアキシャル)、MIDI IN/THRU/OUT、ペダル・イン端子

TC・HELICON
VoiceDoubler
157,500円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz(+0/−0.1dB、アナログ入力、ライン)、20Hz〜20kHz(+0/−0.3dB、アナログ出力)
■入力インピーダンス/21kΩ(バランス) 、13kΩ(アンバランス)
■出力インピーダンス/40Ω
■デジタル入出力サンプリング・レート/44.1kHz、48kHz
■外形寸法/483(W)×44(H)×195(D)mm
■重量/2.7kg