サラウンド・ミックスにも対応する6ch仕様のアナログ・コンプレッサー

NEVE8051

近年、音楽業界全体のDAWレコーディングへの移行に伴い、コンピューターとの連携が見直されてきているアナログ機器。そのような状況もにらんでか、昨年のInterBEEで見かけたNEVEの5.1ch対応アナログ・コンプレッサーが発売されました。

豊富なスイッチ群により
フレキシブルな設定が可能


8051はA/B2系統の6chアナログ・コンプレッサーで、6系統の入出力をA/Bそれぞれにフレキシブルにアサインできるようになっています。まず、入出力のあるリア・パネルから見ていきましょう。6系統のアナログ入出力(XLR)とKEY INPUT1系統(XLR)が用意されています。フロント・パネルに目を移すとどこか見覚えが……そう、有名なNEVEサウンドを創造した33609。ツマミは33609の前身となった2254aと同等のもので、ビンテージ感を演出しています。フロント・パネルにはさまざまなスイッチが付いています。左上から順に見ていくと、サラウンドでLFEフィルターの役割をするFILTER TO CHANNELは12dB/oct、80/100/120Hzのローパス・フィルターがどのチャンネルにもアサインでき、スイッチ1つで容易にかけられるようになっています。その下はLFEフィルターからアウトプット・レベルへのバイパス・スイッチです。下のSIDECHAIN LINKを見てみると1〜6までA/Bというスイッチが付いています、これはそれぞれのチャンネルがサイドチェインA/Bのいずれかでコントロールされることを意味しています。例えば1/L、3/C、2/R、5/LS、6/RSをサイドチェインA、4/LFEをBにアサインして個別に設定しておけば、LFEに突然過大入力されたときに音声信号へ想定以上のコンプレッションがかかるのを防ぐことができます。あるいは前後に分割されたステレオ・コンプのペアとして、1/L、2/C、3/RをサイドチェインAに、5/LS、6/RSをBというような具合に2系統のサイドチェインに対して任意のチャンネルを振り分けることができ、コンプもそれぞれに適した量だけかけることができます。さらに左を見るとSC TRIMS dBとあります、これはSIDECHAIN LINKパスへのゲイン・トリム(±15dB)となっていて、1/2、5/6はペアで、3、4は単独でトリミングできるようになっています。この機能の用途として1/2はL/R、5/6はLS/RS、3はC、4はLFEで使うと便利という前提だと思うのですが、DIGIDESIGN Pro Toolsと結線する場合、Pro Tools内部の5.1chフェーダーを作成すると、アウトプットがL、C、R、LS、RS、LFEという並びになるため(もちろんI/Oセットアップで変えられますが)、結線には十分な注意が必要です。スイッチ部にはほかにSIDECHAIN FILTERが付いており、サイドチェインに入力された任意の信号に対し12dB/oct、80/100/120Hzのハイパス・フィルターがかけられるようになっています。一番下のCONTROL LINKはSIDECHAIN LINKで選ばれたソースをターゲットに実際にコンプレッションされる入力チャンネルを選ぶ個所となっており、マスタリング時に33609のような使い方をするのであれば、CONTROL LINKとSIDECHAIN LINKを全チャンネル同じサイドチェインで操作することになります。

NEVE Jシリーズを想起させる
柔らかなコンプレッション


フロント・パネル中央部にあるA/B2系統の操作部は、SIDECHAIN LINKで選択もしくはKEY INされたソースに対してどの程度コンプをかけるか決定する個所になり、エンジニアが一番気を遣うところ。スレッショルド値の変更は2dB単位で、それに加え33609には無いアタック・トリムが付いており、より柔軟な操作が可能になっています。さらにフロント・パネル右上にはKEY INされたソースへのスレッショルド・トリムが付いており、至れり尽くせり。個人的には細かくコンプ感を操作したいと思うときは、外部のオートメーション・フェーダーからコンプレッションするソースをKEY INさせるやり方が好みでした。実際に音を通してみると、使い勝手も良く簡単に操作できるのはグッド。音質は33609と同じ回路を用いているということもあり、メタル・キャップ時代と言うよりもJシリーズのようなかかり方/質感です。ガッツがあるというよりも柔らかにコンプレッサーがかかるため、エンジニアによって好みが分かれるかもしれません。8051は放送局やMA、映画制作、マスタリング、サラウンド・ミキシング用のマスター・セクションにおいて、セリフやSEへの過大なコンプレッションを防ぐことができたり、通常の録音で使うようなトータル・コンプ的な使い方もでき、重要なツールになることは間違いありません。サラウンド・ツールはデジタルで処理するものが多い中、本機の登場はアナログ・ベースで作業する人にとっても朗報ではないでしょうか。

▲リア・パネル。左より8051を複数台同時使用する場合や33609とのリンク時に使用されるCONTROL VOLTAGE I/O(D-Sub 15ピン)、KEY INPUT(XLR)の右にINPUT×6(XLR)、その下段がOUTPUT×6(XLR)

NEVE
8051
1,932,000円

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/3.6kΩ
■最大出力レベル/+26dBu(600Ω)
■入力換算ノイズ/<−78dBu(20kHz)
■全高調波歪率/<0.03%(1kHz、20dBu)
■チャンネル間クロストーク/<−80dB
■周波数特性/20Hz〜20kHz ±0.5dB
■外形寸法/483(W)×135(H)×500(D)mm
■重量/10.5kg