多機能ながら直感的なコントロールを可能にした8trデジタルMTR

FOSTEXMR-8MKII

普段MTRを使用して楽曲を作り上げていく人にとって、何より大事なのがシンプルな操作性であること。あまりに操作が難しくマニュアルとにらめっこでは、とてもクリエイティブな環境とは言えない。今回レビューする新製品FOSTEX MR-8MKIIは、簡単な操作ですぐにレコーディングを始められるイージー・オペレーショが特長のデジタルMTR。同時再生8trで記録メディアにはコンパクト・フラッシュを採用し、内蔵マイクやリバーブ/ディレイ、アンプ/マイク・シミュレーターなども用意されているオールマイティな1台である。では早速レビューしていこう。

視覚的にも把握しやすい
明解かつ簡便な操作性


MR-8MKIIの最大の特長はその簡便な操作性である。エフェクター部、アンプ/マイク・シミュレーター部、フェーダー部などほとんどのセクションがパネル上に配置され、視覚的に把握できるようになっているので、機械の取り扱いが苦手な人でも直感的に操作することが可能だ。またACアダプターが無くても、単三乾電池×6本で駆動させることができ、ギター・ケースのポケットにも収まるほどのコンパクト・ボディと相まって、スタジオに持ち込んだり、内蔵マイクでフィールド・レコーディングしたりとさまざまに使い回せる高い機動性もポイントである。オーディオ入出力端子はすべてトップ・パネルに集約されており、入力端子にはマイク・イン×2(XLR)、ライン・イン×2(フォーン/そのうち1つはギター/ベース用Hi-Zイン)、出力端子にはステレオ・ライン・アウト×1系統(フォーン)、ヘッドフォン端子×2を装備している。ヘッドフォン端子が2系統あるのは、宅録ではうれしいポイント。友人との共同作業の際にも便利だ。また背面にはコンピューターと接続用のUSB端子も用意されているので、ステレオWAVファイルとして記録された2ミックスのオーディオ・データをUSB 2.0経由でコンピューターへ送信可能。さらにサイド・パネルにはコンパクト・フラッシュ・スロットとともに、外部MIDI機器を同期させられるMIDI OUTとUSB端子(USB 1.1)を装備。こちらのUSB端子には対応の外部CD/DVDドライブの接続が可能で、ダイレクトにオーディオCDの作成ができる。さらにメーカーWeb上からダウンロードすることができるフリー・ソフトを使用することで、コンピューターへ各トラックに録音されたモノラルWAVファイルのデータの送信も可能だ。次にレコーダー部分のスペックも見ていこう。まず録音可能トラック数は8trで、そのうちtr5〜8は、2trずつペア化されたステレオ・トラックになっている。最大同時録音トラック数は2trと決して多くはないが、リズムを録った後にギターと歌を同時に録ったりとオーバーダビング中心の制作スタイルならこれで十分だろう。レコーディング・モードには質の高いノーマル・モード(16ビット/44.1kHz)と、長時間録音するためのLPモード(16ビット/22.05kHz)の2種類を用意。本チャンはノーマル・モード、鼻歌やフレーズの断片を残しておくのにはLPモードといった具合に使い分けられる。録音メディアにはコンパクト・フラッシュを使用。標準で本体には128MBのカードが付属するが、別途購入することで最大2GBのコンパクト・フラッシュまで使用できる(ただし1ソングの記録時間は最大99分まで)。次にミキサー・セクションだが、基本的につまみやボタンなどにより直接操作できるように設計されている。入力部には2ch分のマイク・プリアンプを搭載。INPUT A/B両方のXLR端子の下にあるTRIMで入力レベルを調整できる。またどちらの入力にもファンタム電源を搭載しているので、コンデンサー・マイクも直接接続することが可能だ。またモノ・トラックのtr1〜4に対応する形で、PANつまみやトラックの定位や内蔵エフェクト部への信号の送り量を決めるEFFECT SENDつまみが用意されていて、それぞれのつまみを回すことで直感的かつ個別に設定することができる。

ボタン1つで設定可能な
簡単なトラック・バウンス機能


では実際にエレキギターを接続して録音してみよう。まず背面にあるINPUT A SELECTを“GUITAR”の位置にして、Hi-Zインへギターを接続。TRIMでゲインを調整して、録音したいトラックのフェーダーの上にあるREC SELECTボタンを押す。するとボタンが赤色に点滅するので、あとは本体右側のRECORDボタンを押しながらPLAYボタンを押すだけで、もう録音開始である。そうして録ってみた音質は、低域から高域までクリアな音。プリアンプもナチュラルなキャラクターで、音の太さもあり、とても使いやすい印象である。さらに音を重ねたければ、同様の手順でほかのトラックへレコーディングしていけばいい。ここまでシンプルな操作でレコーディングできるのであれば、MTR=操作が難しいと考える人は相当減るだろう。“バス”や“ルーティング”などの細かいことを気にせずに録音できるので、制作意欲をそがれることもなく、ストレスの無いレコーディングができるのは特筆すべき点である。次にバウンスも試してみよう。バウンスとは録音済みのトラックが多くなってきた際、空きトラックに複数のトラックをまとめて使用トラックを稼ぐ機能である。本機では難しい操作は全く要らず、マスター・フェーダー右側に3つ並んだBOUNCEボタンのいずれかを押すだけで実現する。例えばtr1〜4に録音したものをtr5/6にバウンスして、そのバウンスされたtr5/6とさらにtr1〜4に重ねて録ったものをtr7/8にまとめてバウンスすることが可能。うまくやりくりすれば相当なトラック数をオーバーダビングしていける。またtr1〜8すべてを2ミックスとして新規ソングにバウンスし、そこへ新たにトラックをオーバーダビングすることもできる。これはSN比に優れ、ヒス・ノイズも入らないデジタルMTRの長所であろう。“バスをLchに振って、このボタンを押して……”というようなわずらわしい操作は不要で、このデジタルならではの手軽さが宅録では最も大切な要素の1つだ。さらに内蔵マイクも試してみることにする。GIBSONのアコースティック・ギターを弾きながら簡単なメロディを歌って、曲をメモするような感覚で弾き語りを録ってみる。まず本機をテーブルへ置き、自分と適当な距離を保ちつつレコーディング・スタート。それほどマイクとの距離や向きなどにこだわらなくても、ギターと歌のバランスが実に良く録れる。実際、同価格クラスのMTRにはマイクが内蔵されているものも多いが、許容入力レベルが低過ぎてひずんでしまったりと、有効に利用することが難しいものもしばしばあった。しかし本機の内蔵マイクはしっかりとレコーディングで使えるほど、そのクオリティは高い。

自然な響きが得られる内蔵エフェクト
宅録でも重宝するマスタリング機能


続いて内蔵エフェクターも使用してみる。本機に用意されているのはリバーブやディレイといった空間系エフェクトのみで、パネル上からすぐにアクセスすることができる。まずマスター・フェーダーの上にあるEFFECT部にROOM/HALL/PLATE/DELAYの4つのボタンがあるので、今回は“HALL”を選択。REVERB/DELAY TIMEつまみを上げながら、先ほど録ったエレキギターのトラックのEFFECT SENDつまみを回してEFFECT部への送りを調整していく。これだけの操作でごく自然にリバーブがかけられるので、非常に素早くエフェクトのかかりを確認することができる。ギターに軽くかけるだけで世界観が作れ、モチベーションも上がる。今までいろいろなMTRを使ってきたのだが、これほど簡単に内蔵リバーブやディレイをかけられるものはなかっただろう。加えて、それとは別系統でマスタリング・エフェクトも用意されている。本体右側のMASTERINGボタンからアクセス可能で、POWERFUL/NATURAL/BRIGHTの3種類のプリセットがあり、ボタン1つでトータル・コンプをかけた後のように、音圧や張りのある力強さをサウンドに付加させることができる優れもの。曲作りというのは細かいところを聴かせるというよりは、大まかな曲のイメージ、曲調などを形にするのが重要なポイントなので、楽曲の仕上がりを良くするためにも、マスタリング・エフェクトというのはなかなか重宝する。また本機にはアンプ/マイク・シミュレーターが搭載されており、それぞれ3種類の中から選択でき、ボタン1つでアンプを通したかのような、太いサウンドを得ることができる。マイク・シミュレーターはDYNAMIC/CONDENSER/TUBEとマイクのタイプ別に分かれており、アンプ・シミュレーターはBRIT STACK/US METAL/60's COMBOという分かりやすいネーミングになっているので、曲のイメージに合わせたアンプ・タイプを簡単にチョイスできる。どちらのシミュレーターもよく特徴をとらえていて、楽器や声によって使い分けたり、EQの代わりにするぐらいの気持ちでサウンド・メイクするのも良いだろう。メーカーが発表しているプレス・リリースによると、このMR-8MKIIはカセットMTRの簡便さを意識して作ったというだけあり、カセットMTR世代だった筆者から見てもとても使いやすい。昔のカセットMTRは、バスの設定などがいまいち理解しにくく、もちろんカセットの時代には内蔵エフェクトも無い。しかしこのMR-8MKIIは、これ以上無いくらいシンプルで分かりやすかった。思いついたアイディアを素早くスケッチでき、そのための基本機能がすべて集約されている。録音するときのガイド・クリックは別に用意しなくても内蔵されているし、電池駆動も機動性を考えると重要なポイント。低価格でありながら、本チャンの曲作り、手軽なデモ録りのツールとして、デジタル/アナログがバランスよく備わっている。手にした人の音楽制作にとって間違いなくプラスへと働いてくれるだろう。少なくとも筆者は今回のレビューを行いながら、本機であっという間に1曲レコーディングできてしまった。そんなことが起こってしまう、ミュージシャンのためのデジタルMTRなのだ。

▲サイド・パネル。左からコンパクト・フラッシュ・カード用スロット、外部ドライブ用USB端子、MIDI OUT端子が並ぶ



▲リア・パネル。左よりDCイン、電源スイッチ、USB端子(コンピューターとの接続用)、フット・スイッチ入力。右手にはINPUT Aの入力ソースを切り替えるためのセレクト・スイッチがある

FOSTEX
MR-8MKII
オープン・プライス(市場予想価格/32,000円前後)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz(ノーマル・モード)
■サンプリング・レート/44.1kHz(ノーマル・モード)、22.05kHz(LPモード)
■AD/DA変換/24ビットΔΣ方式
■オーディオ・ファイル形式/WAV
■同時再生トラック数/8
■同時録音トラック数/2
■対応記録メディア/コンパクト・フラッシュ(32MB〜2GB)
■最大録音時間/1ソングあたり99分まで
■インプット/マイク(XLR)×2、ライン(フォーン)×2
■アウトプット/ステレオ・ライン、ヘッドフォン×2
■外形寸法/286(W)×65(H)×220(D)mm
■本体重量/1.6kg