DistressorやFatsoのダイナミクス技術を盛り込んだアナログEQ

EMPIRICAL LABSLil Freq

EMPIRICAL LABSのDistressor (EL-8)は、1996年リリースという新しめの機材ですが、個人的にはスタジオに入れば必ず使うコンプとなっています。今回チェックするLil Freqは、同社からリリースされた1ch EQ。シンプルなデザインのDistressorとは対照的な、アルミ削り出しの小さなつまみが16個も並ぶパネルは、個人的には“?”な印象です。しかし、使ってみないと分からない、そして本番で使わないと真理は見えてこないというが私の持論であります。試用ではなく、本番のミックス・ダウンでベース、ギター、キック、ボーカルなどにインサートしてみました。で、その感想は……はっきり言いましょう。これ、いいです! 1つ1つツマミを触るたびに、“おぉ! なるほど!”と納得させられ、非常に楽しく積極的に音作りができるEQ……というか、EQの枠を超えたサウンド・プロセッサーです。

アナログ・ハーモニックスを加えて
音やせを回避するハイパス・フィルター

結論を先に言ってしまいましたが、各部の説明をしていきましょう。まず入力はリア・パネルにバランスのライン入力(XLR&TRSフォーン)があります。そしてフロント・パネルにはアンバランス&ハイインピーダンス用にDI入力が装備されています。バランス入力よりイニシャル・ゲインが+10dB高く、Inputの+20dBのゲインと合わせると30dBのゲインがあり、標準的な出力の楽器であればプリアンプは必要ありません。COUNTRYMAN Type 85との比較試聴をしたところ、ギターではType 85の方がクリーンで良い場合もあると思いましたが、ベースでは本機の方があらゆる局面でいい結果が得られると感じました。

続くハイパス・フィルターは−18dB/oct、カットオフ周波数は30〜330Hzで8段階の設定が可能。Distressor譲りのアナログ・ハーモニックスを加える回路により、カットオフ周波数付近の音やせを防ぐ仕組みになっています。実際ベースなどでは30Hzのハイパスを入れると、余分な超低域を切りつつも低域の張りが出る感じとなり、非常に使い勝手がいいです。

音色のポイントをつかみやすいEQ
テープ・サチュレーションの再現も可能

さて、次は本命のEQセクションです。まずはHiが4kHz、Lowが120Hzの2バンド・シェルビングEQがあり、その右に4バンドのパラメトリックEQが並んでいます。シェルビングとEQの各バンドは個別にバイパスが可能です。

4バンドEQのフリケンシー・セレクトとQカーブには“N”と“○”が印字されていますが、この位置はNEVE 1073のMid EQフリケンシー・セレクト(7.2/3.2/1.6/0.7/0.36kHz)とQカーブ特性を表しており、この位置にツマミを合わせることにより1073の特性を再現するというものです。1073にも個体差があるので、本機でその感じが出せるのかと聞かれると正直何とも言えませんが、シミュレーション具合など気にならないほど、本機は単体のEQとして良くできています。

実際の音作りでは、シェルビングEQで全体的なトーンを作り出し、4バンドEQでさらに追い込む感じで使うといい結果が得られました。特にパラメトリックEQのQカーブは一般的なEQよりも変化が大きく、このつまみを回すことにより多彩な表情を見せます。また音色のポイントをつかみやすいEQなので、有効なイコライジングに楽にたどり着くことができると思います。

さらに、その右にはダイナミック・セクションがあります。コンプのスレッショルドとその検知周波数を指定するフィルターがあり、EQ前とEQ後どちらにもインサートできるようになっています。使い方は、コンプをかけたい帯域を選び、かかり具合をスレッショルドで設定。ディエッサーとして使えるのはもちろんですが、高域のピークをクリーンに抑える、あるいは中域にコンプをかけひずみ感を増やして存在感を足すなど、ディエッサーの領域を超えた使い方ができます。そしてこのLil FrEQのウリの1つとも言えるのがHF LIMボタン。これは同社のFatso EL-7に搭載されているのと同じ高周波専用のソフト・ニー・リミッター/コンプレッサーで、アナログ・テープのサチュレーションを再現する機能です。ON/OFFスイッチのみのシンプルなものですが、音が遠くなったりレンジが狭くなることなく、高域にプレゼンスが足され存在感が増すのはさすがです。

最後は出力端子について。リア・パネルには電子回路によるトランスレス出力とトランス出力があります。トランスレス出力は色付けのないクリアな音質、そしてトランス出力は重厚な音質です。このトランス出力は非常によくできていて、“トランスレスを使う人はいるのかな?”と思うほど、説得力のある音が出力されてきます。

ほめちぎったレビューになってしまいましたが、唯一難点があるとすればつまみを回したときの感触が価格相応ではないこと。1chで30万円弱ということは、2chではGMLやAVALON DESIGN、MANLEYなどの高級EQと同価格帯になります。もちろん音にはそれだけの価値はあるので、そこだけは改善してほしいと思いました。3U程度で余裕あるレイアウトにした、2ch仕様&クリック付きのマスタリング・バージョンが発売されるのを、つい期待してしまう私です。

▲リア・パネル。左からACインレット、トランス出力(XLR)、トランスレス出力(フォーン、XLR)、入力(TRSフォーン、XLR)


EMPIRICAL LABS
Lil Freq
オープン・プライス(市場予想価格/289,800円前後)

SPECIFICATIONS

■周波数特性(−3dB)/3Hz〜180kHz(トランスレス出力)、6Hz〜100kHz(トランス出力)
■ダイナミック・レンジ/122dB(0.5% THD)
■ノイズ・フロア/−95dBV(トランスレス出力)
■ディストーション・レンジ/0.0005〜0.005%
■入力インピーダンス/20kΩ
■出力インピーダンス/38Ω
■ダイナミクス・セクション/アタック・タイム:1ms以下、リリース/タイム:40ms(固定)
■外形寸法/483(W)×44(H)×279(D)mm
■重量/4.8kg