Kシリーズ直系ダイナミクス・モジュールを搭載したラック・システム

SSLXLogic X-Rack Dynamics Module

コンソール・メーカーSSLが意欲的にラック・マウント・タイプの機器を世に送り出しているのは、録音業界全体が世界レベルでDAWレコーディングへ移行しているあかしと言えよう。大型スタジオでの作業を必要最小限に抑え、コストの控えめな小さいスタジオでクオリティの高い機材を使用して作業を行うのがこれからのスタイルなのかもしれない。SSLのXLo gicシリーズに新しく加わったX-Rackもそんなコンセプトのラック・システムだ。SSLコンソールのユニットをベースにした3種類のモジュールを最大8基まで、台数と種類を自由に設定して搭載することができる。全体をまとめるのはX-Rack Empty Rack(オープン・プライス/市場予想価格241,500円前後)で、今回はX-Rack Dynamics Moduleを8基マウントしてチェックしていこう。

3種類のモジュールと
便利なトータル・リコール機能


まず、X-Rackの全体像を説明しよう。3種類のモジュールはSSL XL9000Kシリーズ・コンソ ールのユニットをベースにしたX-Rack Dynami cs ModuleとX-Rack Mic Amp ModuleそしてEとGシリーズのEQユニットを実装したX-Rack Channel EQ Module(すべてオープン・プライス/市場予想価格94,500円前後)というラインナップ。ラック本体にはトータル・リコール機能が装備されており、最大で32種類の設定情報を記憶しておくことができる。操作は至って簡単。すべてのボタンやツマミにLEDが付いていて、ロードした設定と違っている部分があるときは、まずモジュール上部にあるSELボタンが点滅、食い違っているボタンやツマミ部分のLEDが点灯して教えてくれるのだ。それらを操作して正しい位置にするとLEDは消え、すべてのLEDが消えればロードした設定と一致したことになる。この機能はSSLのAWS 900とのリンクやコンピューターとMIDI経由でのデータのやり取りが可能。再現精度に関してもさまざまなセッティングでチェックしてみたが、完ぺきと言える。

積極的な音作りをサポートする
良質なコンプ&エキスパンダー/ゲート


さて、それでは実際の音をチェックしていこう。このモジュールはコンプレッサーとエキスパンダー/ゲートから成り立っている。まず、コンプ・セクションのツマミはレシオ、スレッショルド、リリースの3種類。アタックは基本的にオートだが、FAST ATTボタンを押すと1msという早いアタック・タイムに固定される。また、PKボタンを押すと、コンプの効き始めのカーブがスムーズに変化。アウトプットのつまみは無いが、オート・メイクアップ機能によりコンプを強めにかけた状態でも出力のレベルが小さくなることはない。気になるその音は完全にXL9000Kシリーズの血を受け継いでおり、"そのまま抜き出した"という感じだ。個人的にはアタックのある楽器で使用するのが気に入っている。特にバス・ドラムやスネアにハードにかけたときのつぶれ感が非常に良い。ハードにつぶすとひずみ自体が前面に出る機種が多い中、コンプ感がはっきり聴こえるのは魅力。余分なザラつきが無くナチュラルな印象だ。ソフトなセッティングではコンプ感が前面には出ない代わりに、音にコシが出る。アタック成分の少ない音源ではコンプと言うよりはレベラーのように音圧を制御する印象。使い方としてはナチュラルさを狙うより、音作りを意識した使い方が合っているようである。次にエキスパンダー/ゲートを見ていこう。ツマミはレンジ、スレッショルド、リリース、ホールドという構成。アタックは基本的にオートでFAST ATTボタンを押すと150μsとなる。エキスパンダーを選択したいときはEXPボタンを押す。実際のかかり具合をチェックしてみたところ、操作が実に簡潔で求めるサウンドまで素早く追い込めることに驚く。"こんなに簡単に自然な聴こえ方に追い込めたっけ?"と感じたほどだ。その反面、エレキギターなどの演奏の無い部分のヒス・ノイズ除去には時間がかかる。アタック成分の多い音と相性が良いようだ。そのほか、KEYボタンではKEY INに入力された信号によってコンプやゲートのかかりをトリガーできたり、LINKボタンでモジュール同士のエフェクトの効き方をリンクさせることも可能だ。さまざまなメーカーから続々と興味をそそられる機材がリリースされているが、今後は音へのこだわりはもちろん、それ以外の付加価値も重要視されていくことになりそうだ。そういった意味ではX-Rackに搭載されているトータル・リコールもかなりインパクトのある付加価値。ユーザーにはうれしい限りである。

◀X-Rack Mic Amp Moduleのフロント・パネル。XL9000Kのユニットがベースのマイクプリ



▶X-Rack Channel EQ Modu leのフロント・パネル。EシリーズおよびGシリーズのユニットがベースのEQ



▲リア・パネル。左からTOTAL RECALL LINK IN/OUT(D-Sub9ピン)、MIDI IN/OUT、モジュール部(8基共通、写真はすべてDynamics Module)、アナログ入力(XLR)、+4dB/ー10dB切り替えスイッチ、KEY IN(XLR)、アナログ出力(XLR)

SSL
XLogic X-Rack Dynamics Module
オープン・プライス(市場予想価格/94,500円前後)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz
■出力インピーダンス/<80Ω
■アタック・タイム/通常時オート&切換時1ms(コンプレッサー)、通常オート&切換時150μs(エキスパンダー/ゲート)
■リリース/0.1〜4s(連続可変)
■外形寸法/480(W)×178(H)×180(D)mm
■重量/約5kg(モジュール8基搭載時)