数年前、コンパクトなパワード・モニター・スピーカーが続々とリリースされた時期がありました。近年は少し落ち着いていましたが、昨年くらいから小さいサイズを出していなかったメーカーがいろいろと発表してきており、再びブームの兆しを感じます。DYNAUDIO ACOUSTICSもスピーカー界ではオーディオ・マニアからエンジニアまで幅広く愛用者の多いメーカーなので、今回紹介するBM5A Compactがどういう音を鳴らしてくれるのか楽しみです。筆者もスタジオで使用していた同社のパワード・モニターの上位機種BM6Aとの違いなども併せてチェックしたいと思います。
奥行きを含めてコンパクトかつ
的確な音質補正機能
本機は製品名の通りBMシリーズの中で最も小型のモデル。見た目は同社のおなじみの外見で、独特の形のウーファーも含めて安っぽくなく好印象。サイズ的にはミニ・コンポのスピーカー並みの大きさです。パワード・スピーカーはアンプが内蔵されている分、奥行きが長いモデルがありますが、本製品は気にならないレベルです。場所を取らないのは宅録環境などでもうれしいところでしょう。重さ的には結構サイズの割には重く、しっかりとした作りになっています。スペック的には、低域／高域用に50Wのアンプを２基搭載。このサイズから考えて、いろんな用途でパワーの心配はなさそうです。入力に関してはバランス（XLR）のみですが、変換ケーブルなどで各種コネクターに対応すれば問題ないでしょう。音質調整などのコントロール関係では、入力レベルの＋4dB/0dB/−10dBの切り替え、サブウーファーを使用する際などに使う60Hz/80Hzのハイパス・フィルター、３バンド（HF/MF/LF）の音質補正を装備しています。なお、本製品は電圧が120V仕様のものが販売されるとのこと。一般家庭で使う場合はステップアップ・トランスを使うことをお勧めします。もちろん100Vでも使えるのですが、聴き比べてみると電圧を上げた方がより良い音を出してくれます。また、設置の際の注意点としては、バスレフ・ポートが背面にあるので、リア・パネル側にはある程度の空間があった方がいいでしょう。
バランス感がよく分かる
ナチュラルな出音が魅力
それでは、実際の音はどうか、鳴らしてみることにします。最初は設定がフラットの状態から。第一印象は全体的にまとまった音という感じです。各楽器のバランスに関して言えば、分かりやすいと言えそうです。無理にレンジを広げて色付けをしようとはせず、ナチュラルに出ています。どちらかと言えば低域寄りの印象で、同社のほかのモデルと比べると、Airシリーズよりは地味な印象で、強いて言えばBM6Aに近い感じがします。まさに従来のBMシリーズのモデルをコンパクトにした感じのサウンドで、特に低域の太い感じはこのモデルでも継承されています。あえて言うなら設定がフラットな状態では、高域が少し弱い感じがしました（何倍もする価格のスピーカーと比べるのも何ですが……）。ここで背面のスイッチでちょっと補正をしてみましょう。今の印象が低域寄りに感じたので低域補正を−2dBに設定して聴いてみたのですが、最初の印象よりもバランスは好転。ちなみに高域は±1dBの調整、中域は−2dB/−4dBの補正ができます。次に、さらに高域を出してみます。EQのポイントが意外となだらかなため中高域も若干上がってギラついた感じになったので、フラットで落ち着かせたわけです（こういった音の変化は部屋で大きく違うので、あくまでも筆者の環境ではということに注意）。欲を言うならハイエンドがもっと出てほしいなという印象ですが、このサイズの割には縦の線の奥行きが分かりやすく、リバーブの残り具合なども見えやすいと言えるでしょう。この辺りはさすがです。傾向的に音を楽しく聴くというニュアンスよりも、音を作る＆確認するスピーカーという感じです。パワー的には、このサイズの割にクリップも無く、かなり大きい音まで出せます。自宅などの小さい部屋での使用には何の問題ないレベルです。なお、テーブルやパソコン・ラックなど、いろんな場所に設置してみたのですが、本体に重量があるので、どの場所でも同じようなサウンドを出してくれます。セッティング場所の向き不向きは少ない方だと言えそうです。今回はいろんなジャンルのソースを試聴したのですが、どちらかと言えば生楽器系の音楽に合っている印象です。コンパクトにまとめていてもモニター・スピーカーとしての作りやメーカーらしさを失っていません。音の傾向はナチュラルなので派手な音が好きな人は苦手かもしれませんが、コンパクトでありながら現場のモニターとしての感じが出ていると思います。バランス感覚と同社らしい低域のニュアンスは一度聴いてみると新たな発見があるでしょう。
SPECIFICATIONS
■スピーカー構成／145mmポリプロピレン・コーン＆75mm純アルミニウム・ボイス・コイル（LF）、Esotec 28mmソフトドーム＆フェロフルイッド冷却＆純アルミニウム・ボイス・コイル（HF）
■周波数特性／55Hz〜21kHz
■クロスオーバー周波数／1.5kHz
■アンプ出力／50W（LF）、50W（HF）
■外形寸法／170（W）×260（H）×235（D）mm
■重量／8.7kg（１本）
