映像のサンプリングが可能なワークステーション・タイプのVJツール

KORGKaptivator

ここ数年、VJ用機材が続々と登場しています。中でも、一昨年発表されたKORG Kaoss Pad Entrancerには筆者たちVJは大変驚かされました。この度、そのKORGから発売されたKaptivatorはメーカーによると"ダイナミック・ビデオ・ステーション"という位置付け。多くのVJが待ち望んでいたであろう映像サンプリング機能のほか、最大3系統のミックス、そしてリアルタイムでの特殊映像処理が可能。夢のような機能が満載です。

液晶モニターを2基搭載しながら
コンパクトなのでセッティングは楽々


Kaoss Pad Entrancerでもおなじみのブルー・メタリックに包まれた本体の中で、目を引くのがボタン群。再生、停止ボタンやパッドなどは一目見て役割が分かるし、点灯するので暗闇でのプレイが基本のVJにとってうれしいところです。ボタンやパッドの場所をすぐに確認できるため、手元を見る時間を短縮できるのはポイントが高いでしょう。入力はビデオ入力端子だけでなく、DV端子も装備されており、コンピューターやDVカメラからの入力が可能。取り込んだ素材とコンポジットやS端子、DV端子の外部入力3つの内のどれか1つをミックスできます。つまり、最大3系統のミックスが可能なのです。さらに、MONITOR 1、MONITOR 2と2つの2.5インチ液晶モニターを搭載しています。MONITOR 1では"MAIN OUTPUT""INPUT1""INPUT2"を、MONITOR 2では"BANK""ALL(クリップの一覧表示)""DV(DV入力)"とすべてのチャンネルを選択できます。さらに、この画面をそれぞれ外部に出力可能なので、複数の画面でプレイするVJも安心。これだけの機能を持ちながらもコンパクトにまとまっているので、省スペースで機材をセッティングすることが多いVJにとっては重宝しそうです。

800クリップ/約106分にも及ぶ
映像のサンプリングが可能


手始めに素材となる映像を取り込んでみましょう。保存(サンプリング)できる素材数は何と800クリップ(計約106分)で、1クリップあたり最大10分となっています。コンピューターから取り込む場合は、DV外部出力に対応しているソフトであればOK(ちなみに筆者はAPPLE iMovieを使用)。また、コンポジット入力を使えば、ビデオ・デッキからの取り込みも可能なので、古いビデオ・テープの素材も無駄にはなりません。しかも、ビデオ・テープからサンプリングした映像の画質もすごく奇麗! もちろん、液晶モニターで確認しながらサンプリング可能です。取り込んだ素材はA、Bと2つのグループに分けてパッドに割り当てていきます。割り当てられたパッドはAグループが緑、Bはオレンジに点灯し、押せば赤く点灯して映像が再生されます。もう一度押せばまた頭から再生されます。映像の動きやカラー別に分類しておくと便利でしょう。登録した映像はMONITOR 2で16クリップ一度に表示可能。ただし、サンプリング後、サムネイルとして表示されるのは映像の頭の部分だということに注意してください。例えば、映像の頭が真っ黒だと黒い画面が表示されてしまいます。取り込みが完了したところで、早速、外部モニターにつないで再生をしてみましょう。またしてもビックリ! MAIN OUTから出力した画質も本当に奇麗!! KORG独自の圧縮技術でサンプリングしているとのことですが、DV出力した映像にも負けずと劣らない画質です。

15種類のエフェクトを装備し
設定の保存も可能


さあ、エフェクトはどうかな?とエフェクト調整セクションであるFX CONTROLのリボン・コントローラーとツマミをいじってみると......適当に選んだ"RGB分割"がいきなり面白い(画面①)。しかも、本当にレスポンスがいい。コンピューターでちまちまマウスを操作するよりも、ハードウェアのボタンをいじってエフェクトをかける方が気持ちがいい!! さらに、A、Bどちらかにかけるか両方にかけるのかをセレクトできるのも便利です。▲画面① RGB分割は元の画像を色の3原色である"赤青緑"にカラーを分割してくれます15種類あるエフェクトを順次試していくと、元の映像とエフェクト処理後の映像を切り替えるだけでもかなり効果的なミックスになります。例えば、"フィードバック"(画面②)や"ブラー"などは映像に疾走感を加えるのに有効だし、"エンボス"や"線画"(画面③)などで質感を変えていけば、元の映像をかなり変化させられます。▲画面② フィードバックは分身の術的な効果のエフェクト。目にキマス▲画面③ 線画をかけると元の画像の質感がゴリっと変わります さらに、映像の再生スピードをコントロールするのも容易。スクラッチや逆再生ができたり、クリップの部分ループも設定可能なので、トリック・プレイを実現できます。また、音声トリガー入力端子から入力した外部音声からBPMを検出する機能を搭載していて、BPMに合わせて映像の色彩や再生スピードなどを変化させることも可能。ブレイクビーツやドラムンベースのVJの際に重宝しそうです。さてさて、実際にVJをする際に大変なのがエフェクトなどをコントロールする手順を覚えること。カンペを用意しないと無理......とお考えの読者に朗報です。何とKaptivatorにはエフェクト、ミックス・パターン、コントローラーのコンビネーションなどの面倒な(失礼!)設定を登録できる"スタイル"とコントローラーの操作やエフェクト処理も含めた操作を記録できる"モーション・シーケンス"という機能があります。スタイルとモーション・シーケンスを登録しておけば、お得意のエフェクトとミックスの設定を瞬時に読み出せるので、VJ中にちょっとお酒を買いに行こうというときにプレイをお任せできてしまいます。長丁場のVJプレイも安心です。

パッドの押し心地が良く
リボン・コントローラーの感度も良好


基本的な機能を紹介したところで、ミックス・テクニックにかかわってくる操作感をチェックしましょう。VJの3大必要要素はミックス・テクニック、音に合わせた映像の選択、現場に合わせた映像の選択ではないかと筆者は勝手に思っています。それほどミックス・テクニックは重要なのです。素材をセレクトするパッドは押し心地、反応共に良好で、エフェクト用リボン・コントローラーの反応もいい! ただし、リボン・コントローラーは強く押せばエフェクトのかかりがさらに深くなるわけではないので注意してください。ミックス時の要となるスライダーの操作感も上々で、異なるチャンネルの映像同士が混ざり合う感じも良いです。ただし、スライダーのストロークが短いので、操作に慣れないと開始部分がいきなり入ってくるので注意してください。繊細なロング・ミックスをするVJには少し使いにくいかもしれませんが、スピーディなミックスには反応してくれます。ちなみに、外部入力からの映像をミックスする際はFX CONTROLのツマミを使用します。操作感とともに重要なのが暗闇の中での視認性。前述のようにKaptivatorのボタンやパッドはかなり明るく光ります。それに、外部入力信号が入っているか否かを一発で確認できるところも便利です。

テクニックを磨けば
複雑なプレイも瞬時に可能


続いて、実際にKaptivatorをVJの現場に投入してみましょう。Kaptivatorは直感的な操作が可能ですぐに使えますが、VJプレイ中はプレビュー用の2つの液晶モニターを見ながら、パッドとBANKで素材を選び、スライダーでミックス、そしてリボン・コントローラーとツマミでエフェクトをコントロール、さらにSTYLE、MOTION、EDITボタンでスタイルやモーション・シーケンスの設定を読み出したり......とさまざまな操作が必要となります。最初は慣れていないせいもあって、てんやわんやしていたのですが、段々操作に慣れてくると、素材の選択やエフェクトをかけるスピードが格段にアップしてきて"おお、VJって楽しい!"と思わず笑みがもれてしまいました。機材は触っていて楽しいことも重要で、Kaptivatorはその辺をクリアしています。さすがに現場ではすべての機能を試すことはできませんでしたが、操作感はグレイト!! かなり好感が持てます。ちなみに、操作をマスターする近道はしっかりとマニュアルを読み、基本的なテクニックを身につけることだと思います。あらかじめ映像をサンプリングしておけば、現場に簡単に素材を持ち運べるし、3系統のミックスも可能、そして画質も奇麗! Kaptivator1台でクラブでのVJプレイはもちろん、映像演出の仕事でも対応可能だと思います。新規参入のVJはKaptivator1台で始めてみるのもいいでしょうし、ベテランVJは機材リストに加える価値があるのではないでしょうか。そして何より、プレイ中に"楽しんでいる感"が得られることも重要。楽しく操作できるのはVJ用機材に限らず重要なことですよね。あなたも、まずはKaptivatorで遊んでみてはいかがですか。

▲リア・パネル。左よりMIDI OUT/IN、NTSC/PALスイッチ、Sビデオ出力、コンポジット・ビデオ出力、モニター出力×2、Sビデオ入力、コンポジット・ビデオ入力、音声ライン入力。なお、フロント・パネルにはヘッドフォン端子、ボリュームつまみ、トリガー・レベルつまみ、DV入出力が並ぶ

KORG
Kaptivator
246,750円

SPECIFICATIONS

■映像サンプリング・レート/8ビット、13.5MHz、4:2:2
■記憶装置/内蔵ハード・ディスク(40GB)
■モニター/2.5インチTFT LCD×2
■外形寸法/310(W)×99(H)×249(D)mm
■重量/2.8kg
■付属品/専用ACアダプター