好評のOnyxマイクプリを搭載したPA用32chアナログ・コンソール

MACKIE.Onyx 3280

このところ各メーカーより数多くのPA用コンソールが発表されています。そんな中、一体どれだけ"現場を一番に考えているか"が問われる時代になってきたと思います。昔のようにメーカーの数が少なく、"出せば売れる"という時代は既に終わり、今は"ユーザーの声をフィードバックする"......いわば、メーカーが現場を理解しなければならない時代ではないでしょうか。

FireWire接続によりオーディオ・インターフェースとして使用可能という驚くべきアイディアを具現化したアナログ・ミキサーOnyxを発表したばかりのMACKIE.から、同シリーズのPAバージョンが発表されました。早速ウキウキしながらレビューしてみたいと思います!

大型かつ剛性の高いボディで
タフなPA現場でも安心


まず、今回発表されたOnyx 80シリーズは24ch仕様のOnyx 2480(693,000円)、32chのOnyx 3280、40ch仕様のOnyx 4080(1,071,000円)、48chのOnyx 4880 (1,281,000円)の4機種。ラインナップも豊富でさまざまな状況に合わせられ、その上"堅牢性"という面においても、頑強なモジュール式の厚いアルミニウムの押し出し成型シャーシ、巧妙に配置された鉄製の隔壁と、物理的に内部の回路を徹底的に保護する構造になっています。また、1mの高さから本機を落下させたり、熱、振動、湿度の過酷なテストもクリアしています。この辺りもライブの現場のシビアな状況をよく考えていると感じます。今回は32chバージョンのOnyx 3280をチェックしていきましょう。価格は税込みで819,000円と、このクラスのアナログ・ミキサーとしてはリーズナブルな設定になっています。では外観から見ていきましょう。今まで、MS/CRシリーズと、"MACKIE.=小型ミキサー"というイメージがあったのですが、今回のOnyx 80シリーズは、さすがにPAでの使用を意識している分、外形寸法も1,523(W)×751(D)mmと"大型コンソール"の貫録がにじみ出ています! まずは箱から取り扱い説明書を取り出し、読むことにします。いつもならサラッと確認程度に読むのですが、アメリカというお国柄なのか、一般のユーザーにも読みやすいようになのか、アメリカン・ジョークを交えて記述してあり、結局最後まで読んでしまいました。さすが世界のMACKIE.、こんなところまでアイディアが一杯です! 一通り笑わせていただいたので、今度こそ製品レビューに戻りましょう(笑)。

予備パワー・サプライ用端子や
ユニバーサル電源でプロの現場に対応


ここで、説明書を読んでいて気になった機能を挙げてみます。Perkins EQ回路 音楽的な設計で知られ1960〜1970年代の英国製クラシックEQのサウンドを小型ミキサーに導入するため、カル・パーキンス氏が設計。既にOnyxシリーズに実装され、高い評価を得ているEQです。AUXステレオ・リンク機能 8chのAUXは煩雑な調整をすることなく、ステレオ・スイッチを押すだけでステレオ・ペアになり、サイドフィルやインイア・モニタリングのために4系統のステレオ・ミックスを提供。これらは実際に触ってみないことには分からないので、さっそく使用してみることにします。まず電源を入れるために、リア・パネルをのぞき込むと、2種類の電源コネクターがあります。1つは通常の3芯電源コネクターですが、残りのもう1つは予備のパワー・サプライ用。これは何らかのトラブルで本体の電源がダウンしても自動的に予備電源にスイッチングするもので、業務用ミキサーのほとんどに実装されているもの。これなら私たちプロの現場でも安心ですね。また、本体の電源システムも、現場での使い勝手をよく考えてあり、"ユニバーサル電源"を搭載しています。これは、何も考えず(一応何Vか計ってください!)にコンセントにプラグを挿し込んでも、100〜240Vの間ならミキサー側で勝手に対応してくれるという優れもの。しかも、消費電力は200Wと裸電球約2個分です。

高品位なOnyxプリアンプを搭載
内部回路の見直しで音の劣化も極小に


無事電源もとれたので、早速CDプレーヤーの出力を立ち上げてみましょう。ゲインをゆっくり上げていくと、さすがマイクプリで定評のあるメーカー、例えるならエアホッケーのように摩擦が無く、まさに音源が手前にスッと寄ってくるような感じです。この価格帯のミキサーによくありがちな、ゲインを少し下げただけで急に音がこもったり、音質が変わったりという問題もありません。Onyxのために開発された新しいプリアンプは、どのようなソースに対しても優れた空間情報の再現、正確な高域、滑らかな中域、低域の豊かさといった高級スタジオ用プリアンプに近い特質を持たせつつ、さらに電波干渉や長いケーブルの引き回しなど実際のライブの現場で起こりうる障害を想定しながら開発されたそう。さすがMACKIE.の名を大きくした大切なプリアンプだけあって、"より良いもの"をユーザーに提供しようとする姿勢が、この上質な音からも感じ取れます。バスを通した音も良いです。このクラスでは、マスターを上げただけでS/Nが落ちる感じがする機種が多い中、Onyxではすべての入力から出力までの完璧な信号伝送を実現するためにバランス回路を採用。ノイズ&クロストークを最小化しつつ、マスター・セクションのヘッドルームを最大化するためにバス回路も新たに設計し直されており、音の劣化が極めて少ないという印象です。"音響的な正確さ""リアルな再現性"を絶対と考えたOnyx 80シリーズの制作チームは、設計にあたってアナログ部品の選択から開始したそう。その結果、オペアンプからICチップにいたるまで高品位なパーツを使用し、また、8chごとに個別の基板を使用するなど、大型の回路にもかかわらず最小限の内部配線を実現し、音質面での劣化を防いでいます。インプット・モジュールを細かく見ると、極性スイッチ、ローカット(100Hz/18dB)スイッチ、ファンタム電源スイッチも各チャンネルに装備されており、文句の付けようがありません。さらにその下には4ポイントのEQがあり、LOW(80Hz)、HIGH(12kHz)は固定のシェルビング、LOW MIDとHIGH MIDはパラメトリック・タイプです。効きも分かりやすく、実に音楽的なカーブを再現してくれます。このあたりはPerkins EQ回路の特性でしょう。1つ気になった点として、HIGHのEQポイントがもう少し下だと、使い勝手がより良くなるのではと感じました。

豊富なセクションと機能で
さまざまな信号の制御が可能


では、いよいよAUXセクションに参りましょう!最近多く使用されるようになったインイア・モニターですが、このOnyxも例外ではなく、イアモニのミックスも考慮した仕様になっています。8つのAUXをスイッチ1つでステレオ4ペアにすることができる上、各チャンネル、しかもペアごとにプリ/ポストの切り替えが可能です。これなら、サイドフィルをステレオ1ペアに、ウェッジ・モニターをモノで4つ、そしてエフェクターはポストで2台というプランも余裕で実現できますね。要のフェーダーは信頼性の高いPANASONIC製の100mmタイプを使用し、4つのLEDで入力音量を視覚的に確認できます。またフェーダー部分のパネルは明るめのグレーになっており、手元の暗い現場でもフェーダーが操作しやすく、とても好印象。それでも暗いと言うなら、本体にライトも取り付け可能です! またMUTE GROUPという機能で、任意の4つのグループにミュートをかけることができます。例えば楽器を1、ボーカルを2、リバーブを4とそれぞれグループを組んでおけば、4のMUTE MASTERスイッチを押すことで、簡単にリバーブ・チャンネルだけをオン/オフできます。どんどんテンションが上がってきました! 次はフロント・パネル中央部のマスター・セクションをチェックしていきましょう。最近はL/R/C(MONO)のマスター出力が主流で、このOnyx 80シリーズにも装備されています。では、一番手前のグループ・セクションはどうでしょう? こちらも4つのLEDで音量を確認することができ、もちろん信号をミュートすることも可能です。その上がAUXマスターですが、特筆すべきは、FLIPスイッチを押すことでグループ・フェーダーとAUX用のつまみを入れ替えることができる点。さらにAUXインサートも装備されているので、FLIPスイッチを使ってAUXをフェーダーにアサインし、本機をモニター卓として使用することも可能です。最上段に並ぶのは8つのステレオ入力(16ch)で、32ch仕様の本機であれば、最大48chの信号が扱えることになります! もちろん各チャンネルにはゲイン、EQ、PAN、4つのLEDが付いていて、AUXも2系統送れます。なお、このセクションのみフェーダーが60mmのミニ仕様です。このOnyx 80シリーズは価格/スペックから見ても今後中規模ライブ・ハウスでメイン/モニターとして2台同時に購入できる卓だと思いました。MACKIE.には全世界に多くのユーザーが居ます。だからこそ、これほどまでに次々と"かゆい所に手が届いた使い勝手のいい製品"を、リーズナブルな価格で提供できるのでしょうね。

▶Onyx 80シリーズのチャンネル・ストリップ。上からファンタム電源スイッチ、マイク/ライン切り替えスイッチ、ローカット・スイッチ、極性スイッチ、ゲイン調整つまみ、Perkis EQは上からHIGH、HIGH MID、HIGH MIDフリケンシー、LOW MID、LOW MIDフリケンシー、LOW、その下の青いボタンがEQスイッチ、AUXセンド×8、その右がPREスイッチとSTEREOスイッチ、グレーのつまみがPAN、下の4つのボタンがMUTE GROUPアサイン・スイッチ、MUTEスイッチ、PANASONIC製100mmチャンネル・フェーダーの右にシグナル・レベルLED×4、グループ・アサイン・スイッチ、メイン・ミックス・スイッチ、最下段が任意のチャンネルを素早くヘッドフォン/モニター・アウトにアサインするPFL SOLOスイッチ



▲リア・パネル。写真左部分上よりインサート×16(TRSフォーン)、ライン入力×16(TRSフォーン)、マイク入力×16(XLR)、ダイレクト・アウト×2(D-Sub 25ピン)にはそれぞれ8ch分の出力が割り当てられる。中央のセクションを挟んだ右部分も同構成。中央セクション上よりステレオAUX入力×8(TRSフォーン)、AUXセンド×8(TRSフォーン)、インサート×8(TRSフォーン)、グループ・センド×8(TRSフォーン)、インサート×8(TRSフォーン)、最下段はトークバック用のライン出力(TRSフォーン)、マイク入力(XLR)、メイン出力L/R/C(XLR、TRSフォーン)、メイン・インサート(TRSフォーン)、モニター出力(TRSフォーン)、マトリクス出力(TRSフォーン)、予備パワー・サプライ用端子

MACKIE.
Onyx 3280
819,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/10Hz〜80kHz(+0、 ー1dB)
■高調波歪率/最大0.007%、通常0.005%(20Hz〜20kHz)
■最大出力/+21dBu
■最大入力レベル/マイク入力 : +21dBu、ライン入力 :+30dBu、 AUX入力 : +21dBu
■入力インピーダンス/マイク入力