録音からCD作成まで1台で完結できる高機能ハード・ディスク・レコーダー

YAMAHAAW1600

最近のハード・ディスク・レコーダーは値段も本当にピンからキリまでだが、筆者の今年一発目の仕事だったREVERSLOWも、“電源を入れてすぐ立ち上がる、一体型のレコーダーでデモ・テープを作った方が創造性を失わなくて済むんだよ”と言っていた。楽曲制作には、やはりスピーディさが重要なのだろう。そこで紹介していくのが、YAMAHA AW16Gの後継機に当たるオールインワン・ハード・ディスク・レコーダー、AW1600だ。

USB 2.0端子を搭載し
コンピューターとの連係も可能


AW1600はミキサーやエフェクター、サンプラーなどが一体化されたハード・ディスク・レコーダーだ。アンプ・シミュレーターも豊富に用意されているほか、CD-R/RWドライブも標準装備。また、USB 2.0端子を搭載したことで、WAVファイルを高速転送することが可能となっている(1.1でも転送可)。もちろんコンピューターを介せば、ほかのやUSB2.0対応のハード・ディスク・レコーダーとデータのやりとりもできるし、DIGIDESIGN Pro ToolsなどのDAWソフトに流し込むときも、アナログ出力を経由して実時間分のコピーをしなくても済むようになっているわけだ。自宅作業を効率よく外部へ展開していける仕様と言えるだろう。入力端子は、アナログ入力(XLR/TRSフォーン・コンボ・ジャック、48Vファンタム電源も対応)×8と、ハイインピーダンス専用入力が用意されている。出力インピーダンスの高いパッシブ型のベースの録音などには、低域が無くなった感じにならないこのハイインピーダンス入力が便利だ。一方、出力端子はマスター/AUXアウト1系統(ともにフォーン)装備。デジタル入出力もS/P DIF(コアキシャル)が1系統用意されている。また、パネルに並んだ13本のフェーダーは、45mmのものが採用され適度な間隔をもって並んでおり、隣のフェーダーも邪魔にならずに操作できる。さらに1本のフェーダーで2本のフェーダーを動かすカップリング機能も用意。キーボードやコーラスなどのステレオで使用するパート調整も簡単だ。AW1600のレコーダー部は、全部でステレオ・トラックを含め18trで(最大同時録音は8tr)、そのすべてのトラックに8trのバーチャル・トラックが用意されている。一度に再生できるのは16tr(24ビット時は8tr)だが、キープやコーラスなどの素材を含めると何と144tr分もの録音ができる。例えばボーカルを8tr分録音して1つにまとめ、後述のピッチ修正機能を利用しつつほかのトラックに録音することなども可能なのだ。

2系統のマルチエフェクターと
実用的なサンプリング・パッド


ここまで紹介してきたように、充実した仕様のAW1600だが、操作性も簡潔。極端に言えばMTRを使ったことのある人なら説明書を見なくてもすぐに作業ができるだろう。例えばEQをしたいときなどは、選択したチャンネルのEQのつまみを押し、パラメーターをディスプレイに呼び出せばOK。4バンドのEQなのでかなり追い込める(写真①)。
▲写真① ディスプレイ横に配置されたつまみ。EQをする際には、つまみを押してディスプレイにパラメーターを呼び出す ダイナミクス系としては、COMP、EXPAND、GATE、COMPAND-H、COMPAND-S、DUCKINGとさまざまな種類のものを搭載しているほか、セッティングのライブラリーまで用意。それらの中から目的にあったものを探すだけでもOKなので機材にあまり詳しくない人も安心して使用できそうだ。なおライブラリーもつまみを回せば、すぐにエディットが可能となっている。加えて、マルチエフェクトが2系統搭載されているのだが、これもなかなか音質が良い。ちなみにアメリカのエンジニアには現在も同社のマルチエフェクトSPXシリーズやデジタル・リバーブREV7をボーカルやスネアなどに利用している人も多い。これらを継承した本機のエフェクトの中でもEARLY REF.や、SYMPHONICは、“シンセ・ストリングスなどにはマスト!”と言えるほどのクオリティ。さらに、スネアに最適なGATE REVERB、ボーカルにはPLATEなど、“使える”エフェクトを挙げたらキリが無い。次にサンプリング・パッドだが、4パッド×4で合計16trのサンプリングが可能となっている。サンプリング時間は16ビットで計47秒、24ビットでは計29秒となる。もちろんサンプリングCDとして販売されているWAVデータからのサンプリングに対応しているほか、75種のサンプリング・データも本機に付属。もちろんUSBからのインポートや、録音したトラックからのインポートも可能だ。サンプリングした音源の波形も表示されるので、ボタンを押したときの立ち上がりの遅れ(ヘッド・トリム)やエンドのカットなどができるのも高ポイント。歓声やクラップの音などを入れておいて、ライブで使うということも可能! さらにスライサー機能も付いていて、120BPMで録音したものを100BPMに変更することも容易である。

高品位なサウンドに加え
ピッチ修正機能も装備


実際にいろいろ試していこう。まず電源を入れデモを聴いてみる。最初の印象としてはかなりの音の良さにビックリ。“これでこの値段? すぐにCD制作ができるじゃーん”といった感じ。そこで手動でドラムを録音。まずはクリックを打ち込むために、SONGボタンを押してNEW NAMEを付ける。さらにSONGボタンを数回押すことでTEMPOモードが出てくるので、そこで曲のテンポを指定する。本機はMIDI付きのリズム・マシンなどと同期できるので、早速ライン入力に接続して入力レベルを調整する。基本中の基本だが、赤が付いてしまったら、オーバー・レベルになっているので注意。クイック・ナビゲートのRECORDボタンを押し、1〜8trのどこに録るかを確認してから録音ボタンを押す。ちなみにインプット・ライブラリーからEQやアンプ・シミュレーターを呼び出して、かけ録りすることも可能。簡単な設定変更で同じインプットからのオーバー・ダビングもできる。サンプリング・ボタンにコピーしてタイミングなどの修正をしたり、エディット画面でコピーやムーブなどの編集をしたりすることも可能なので、時間をかけてタイミングの修正などもできる。次にベースをハイインピーダンス入力に接続し、インプット・ライブラリーのベース用エフェクトをかけ録りしてみる。ギターも同じ流れで録音。さらにボーカル録りだ。モニター側にコンプレッサーをかけて録音してみたのだが、サウンドはとてもナチュラル。さらに全く遅れが気にならない。こういうデジタルものは大体AD/DAで、自分の出した声とヘッドフォンから返ってくる遅延が気になるものなのだが……全く無い! ちなみにAUXアウトだけにリバーブをかけて、ボーカリストだけがリバーブの種類を変えてモニターするといったことも可能である。さて、ここで注目のピッチ・フィックス機能を使ってのピッチ修正である。ディスプレイにピッチ・フィックス機能を呼び出すと、どこにインサートするかという選択が出てくるので、チャンネルを指定する。その次に、トラック表示のところで、ピッチ修正した後の録音先を指定する。波形を書いたりするのではなく(オフラインでのピッチ修正)、ほかのトラックにバウンスすることによりOKトラックを作っていくわけだ。ちなみに最初は軽くかけて、どうしても気になるところはハードにかける。この辺はプロの機材にはかなわない。プロの世界では、1日かけてピッチを修正するなんて日常茶飯事なのだ。

マスタリングも実に簡単
アッという間にCDが完成


さて、こうしている間にミックスである。バランスをとったら、クイック・ナビゲートのRECORDボタンを数回押して、2ミックスをデータとして保存する。するとマスタリング・ライブラリーが出てくるので、ここからEQやコンプレッサーの設定を呼び出して、さらに音圧を稼いだりして聴きやすくする。この操作も難しいことはない。極端にコンプがかからないようにスレッショルドを設定する方がうまくいくかもしれない。そしてこの名前を付けたデータを標準装備されているCD-Rドライブを使って焼けばOKなのである。ファイナライズを忘れずに。近年、トラック数の制限が無くなったことで、とっ散らかっているアレンジが多いと思う。本来は4リズムで済むようなアレンジも、ハード・ディスクへ90tr録音してしまうことも日常茶飯事になってきている(まあ、AW1600でもバーチャル・トラックを使えばできるのだけれど)。これから音楽制作を始める方にも、筆者が最近録音したピアノ、歌、コーラス、チェロなどのライブ録音などにももってこい。このトリオのピアニストも実際に触りながら、“欲しい!”と言っていた。どうもWAVでスタジオ録音したものを家に帰って、リラックスした気持ちでコーラスなどを録音し、またスタジオのハード・ディスクに戻すということをしてみたいらしい。いずれにしろ誤解を恐れずに言えば、プロの世界とアマチュアのレベル差はもう“ほとんど無い”くらいである。

▲リア・パネル。左上から、ヘッドフォン出力、モニター出力、ステレオAUX出力、ハイインピーダンス入力、MIC/LINE入力(XLR/TRSフォーン・コンボ・ジャック)×8、下段左からファンタム電源スイッチ、MIDI IN/OUT、フット・スイッチ、S/P DIFデジタル入出力(コアキシャル)、USB端子

YAMAHA
AW1600
オープン・プライス(市場予想価格 /130,000円前後)

SPECIFICATIONS

■ハード・ディスク容量/40GB
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■サンプリング周波数/44.1kHz
■量子化ビット数/16ビット、24ビット
■全高調波歪率/0.03%以下@1kHz、10dBv
■ダイナミック・レンジ/109dB
■トラック数/144tr(バーチャル・トラック含む)
■最大同時録音トラック数/8tr
■内蔵サンプラー録音可能時間/47秒(16ビット時)、29秒(24ビット時)
■寸法/455mm(W)×107(H)×349(D)mm
■重量/6.2kg