96kHz使用時でも48ch/26バスを実現したデジタル・コンソール

TASCAMDM-3200

最近ではDAWのフィジカル・コントローラーなど、個性的な製品群で多くのミュージシャンに支持されているTASCAMは、デジタル・ミキサーでも定評がある。高機能なデジタル・ミキサーでも手の届きやすい価格に設定し、コスト・パフォーマンスに優れた非常に高精度で意欲的な製品を発表している。今回紹介するのは“現段階でのTASCAMの集大成”と言えるデジタル・コンソールDM-3200だ。

豊富な入出力端子を備え
入力48ch/出力26バスを実現


まずは仕様から。本機の構成は入力部がインプット・チャンネル×32chとAUXや内部エフェクトのリターン用×16chの計48ch、出力部がDAWやMTRなどへ信号を送るバス×16系統とAUXバス×8系統、ステレオ出力の計26バス仕様。16chのアナログ入力端子と標準装備のデジタル・マルチ入力、およびオプション・カードによる32chの各種アナログ/デジタル入力は自由にルーティングをアサインできる。さまざまなシステムで自由度の高いミキシング・システムを構築可能だ。なお、2系統のオンボード・エフェクターやアサイナブル・センド&リターンに接続した外部エフェクターをリターン用の16chへ任意にアサインすることも可能。インプット、リターン合わせて48chのミキシングを行える。さらに、サンプリング周波数は44.1〜96kHzにまで対応し、特筆すべきはどのサンプリング周波数においてもチャンネル数およびバス出力数が変わらないことだ。16本のチャンネル・フェーダーおよびステレオ・フェーダーはオートメーションの快適な書き込みやエディットが行えるように100mmのタッチセンシティブ・ムービング・タイプを採用。チャンネル・フェーダーはチャンネル1〜16/チャンネル17〜32/チャンネル33〜48/バス1〜16/AU X1〜8の5層のレイヤーに加え、6層めのレイヤーとしてDAWホスト・アプリケーションのコントロール・サーフェスとしても利用できる。また、オプションのFireWireインターフェース・カードIF- FW/DM(52,290円)を装着することで本体の4バンドEQやダイナミクスを装備した大規模なオーディオ・インターフェースとして利用することもできる仕様になっている。次にリア・パネルにある入出力端子を見ていこう。まず、ファンタム電源対応のアナログ入力16 ch分を装備。そして、アナログ入力の下には各チャンネルのインサートが装備されている。さらに、目的別で自由に設定できる4つのアサイナブル・センド&リターン、アナログ出力とスタジオ出力を1系統ずつ、モニター出力も設けられている。MDやCDなどのリファレンスのモニター入力用として2TR INも1系統用意。さらに、デジタル機器用の入出力端子も豊富だ。例えば、マスター・レコーダーなどにワイアリングするためのAES/EBU入出力が2系統用意され、S/P DIF入出力も2系統装備。デジタルMTR用として1系統のADAT入出力端子と3系統のTDIF-1端子を備える。ほかにも2系統のヘッドフォン出力やタイム・コード入力、さまざまなフォーマットのオーディオ・インターフェース・カードを装着するためのスロットを2系統用意。価格からは考えられない充実度だと言えるだろう。

基本性能を完全に押さえた
チャンネル・モジュール


実際に音を聴きながらチャンネル・モジュールのチェックに入ろう。試聴ソースはドラムのループ。私のDAWシステムからDM-3200のアナログ入力(TRSフォーン)にワイアリングし、トリム・ツマミを徐々に上げていく。ヘッド・アンプはクセが無く、トリムを下げめにしたときと、ひずまない程度に上げたときの音色の差はあまりない。非常に扱いやすいヘッド・アンプだ。次は各チャンネルのモジュールの構成について見ていこう。フェイズ、チャンネル・ディレイ、ダイナミクス、EQなど、必要不可欠なものは一式そろっている。ダイナミクスではコンプレッサーとエキスパンダー/ゲートが独立している仕様になっており、コンプとゲートが同時に使える。プロフェッショナルのミキサーでは当たり前だが、この価格帯のデジタル・ミキサーでは大抵がコンプかゲートのどちらかを選択するというケースが多い。これは非常に便利だ。コンプの調整可能なパラメーターはスレッショルド(−48〜0dB)、レシオ(1:1〜∞:1を21ステップで調整)、アタック・タイム(0〜125ms)、リリース・タイム(5ms〜5s)で、このほかにゲイン・メイクアップも装備。実際のかかりは“さすがデジタル”と言うと軽々しく聞こえるが、良い意味ととらえてもらいたい。軽めにかけたときはかかっているのか分からないほどナチュラルで、きつめにかけたときはソリッドで硬質な印象だ。ゲートはスレッショルド(−80〜0dB)、レンジ(−60〜0dB)、アタック(0〜125ms)、ホールド(0〜990ms)、ディケイ(50ms〜5s)が調整可能。なお、コンプは全入力チャンネルに装備されているが、ゲートは1〜32chのみだ。なお、EQも非常にフレキシブルな設計で、4バンドにセパレートされているEQはそれぞれが±18dBのカット/ブースト、31Hz〜19kHzまでの周波数帯域の選択ができる。EQとコンプ共に調整は本体中央にあるLCD画面下の4つのPODツマミとその右側にあるカーソル・キーを使って行うわけだが、そのほかの方法として16個の各チャンネル・フェーダー上にある16個のリング・エンコーダーでも行える。ここではパンや各チャンネルのAUX、バスの信号の送りレベルや、EQ、コンプの調整も可能。この場合、ジョグ・ダイアル下にある、エンコーダー・モードのボタンで切り替えて使用する。例えば、EQではエンコーダーの下にそれぞれHIGH GAINなどとパラメーターが明記されているので、どれがどのツマミだと悩むことはないだろう。フェーダー・グループはステレオ・リンクとチャンネル・グループに対応。ムービング・フェーダーなので親フェーダーを動かすと子フェーダーが同じレベル移動値で動作する。同様にミュート・グループを組むこともできる。

2つの違った個性を持つ
使える内蔵エフェクト


DM-3200には2系統の個性的なマルチエフェクターが内蔵されている。1つはディレイやフランジャー/コーラス、ピッチシフターなどの空間系とコンプレッサーやディストーションなどのダイナミック系がプログラムされたTASCAMデザインのものだ。もう1つは高品質な音色のリバーブで定評のあるTC|WORKSのエフェクターがインストールされている。全く違った用途とキャラクターのものなので、ある意味アウトボード・エフェクターを使っている気分になる。ここで気になるのは、やはりTC|WORKSのプログラム。基本的にリバーブのみのプログラム構成で、どれも素晴らしい音色だ。個人的には、同社のほかの製品でも定評のあるルーム系が非常に好印象だ。また、TASCAMデザインのエフェクト・プログラムも個性的。特にひずみ系エフェクトは面白いし、ラインで録ったギター・サウンドをリアンプしたいときなどに重宝しそうなプログラムなども用意されている。欲を言えば、TASCAMデザインのマルチエフェクトがもう1系統インストールされていればさらに良いのにと思う。

ワンマン・オペレートに寄与する
充実のオートメーション機能


ここからはオートメーションについて。DM-3 200はフル・オンボード・オートメーションが可能で、外部コンピューターに頼らずにすべてのミックスが行える。この場合の条件は外部MTRおよびDAWがタイム・コードもしくはMTCを送出可能であること。今回はMTCでチェックした。ここでMIDIを使ったときの魅力はMMCを使い、DAWやハード・ディスク・レコーダーをスレーブにしておけばDM-3200の本体右下に集まっているトランスポート・コントロール・セクションを使って完全なワンマン・オペレーションが可能なこと。オートメーションができるのはフェーダーやミュートのオン/オフのほかに、EQやダイナミクスの各種設定やAUXの送りレベル、エフェクト・ライブラリーのリコールなど。できないことを書き上げた方が早いくらい多彩だ。さらに、オートメーションの書き込みについて。冒頭で書いたように本機はタッチセンス機能付きムービング・フェーダーを搭載しており、とてもスムーズに作業が行える。エディットしたいチャンネルをいちいちセレクト・ボタンを押してから調整するのではなく、フェーダーに触った瞬間から書き込むことができるのは非常に直感的な操作方法と言えるだろう。このようにDM-3200は価格を抑えていながら非常に豊富な機能を搭載しているデジタル・ミキサーだ。個人的に気に入ったところは大きく2点挙げられる。まず、96kHzのハイサンプリング・レートでもマシン・パワーが落ちることなく全機能がフルで使えるという点。もう1つが16バスの仕様であることだ。なぜかは分からないが、デジタル・ミキサーのバスはほとんどのモデルで8系統しかない。このためマルチチャンネルでバンドの録音をしようとするとミキサー2台をカスケードさせるか残ったチャンネル分のマイクプリを用意するしかない。ゆえに、かなり大がかりなセットアップになってしまっていた。16バスであれば、ある程度のマルチチャンネルの録音に対応できるはずだ。これからバンドの録音を始めたいと思う“町スタ”の方はもちろん、マルチチャンネルの録音を今後考えている読者に強くお薦めしたいデジタル・ミキサーだ。

▲DM-3200にオプションのメーター・ユニットMU-1000(105,000円)を装着したところ



▲リア・パネル。上段右側からアナログ入力(XLR、TRSフォーン)×16およびインサート(TRSフォーン)×16、モニター出力(TRSフォーン)×1系統、スタジオ出力(RCAピン)および2TR IN(RCAピン)×1系統、アナログ出力(XLR)×1系統、アサイナブル・センド&リターン(TRSフォーン)×4。下段右側からオプション・カード用スロット×2、ADAT入出力(オプティカル)×1系統、MIDI IN/OUT/THRU(MTC OUT)×1系統、TDIF-1(D-Sub25ピン)×3系統、カスケード(D-Sub25ピン)×1系統、RS-422(D-Sub9ピン)、GPI(D-Sub9ピン)、フット・スイッチ、WORD SYNC IN & OUT/THRU(BNC)、TO METER(D-Sub25ピン)、AES/EBU&S/P DIF(コアキシャル)入出力×2系統、USB、電源インレット、電源スイッチ

TASCAM
DM-3200
441,000円

SPECIFICATIONS

■量子化ビット数/24
■サンプリング周波数/4.1/48/88.2/96kHz
■歪率/0.005%以下(LINE IN−INSERT SEND)、0.008%以下(LINE IN−STEREO OUT)※最大レベル、1kHz、トリム最小
■クロストーク(1kHz)/90dB以上
■外形寸法:700(W)×240(H)×824(D)mm
■重量:24kg
■オプション/メーター・ユニットMU-1000(105, 000円)、2×FS対応8chアナログ入出力カードIF-AN /DM(63,000円)、8ch TDIF入出力カードIF-TD/DM(27,300円)、2×FS対応8ch AES/EBU入出力カードIF-AE/DM(31,500円)、8ch ADAT入出力カードIF-AD/DM(31,500円)、2×FS対応サラウンド・モニター・カードIF-SM/DM(78,750円 ※近日発売予定)、FireWireインターフェース・カードIF-FW/DM(52,290円)、カスケード・ケーブルPW-1000CS(価格未定)