静止画像を自在に3D動画化するVJ用"ビジュアル・シンセサイザー"

EDIROLCG-8

最近最も気になったVJ機器の新製品がこのCG-8という人もかなり多いんじゃないでしょうか? ビデオ・ミキサーV-4などで現場での支持も非常に高いEDIROLの新製品というだけでも興味津々ですが、"ビジュアル・シンセサイザー"というカテゴリーは今までに全く無かっただけにその実力のほどが気になりまくっていました。既存のVJ用ハードウェアは、映像を"ミックスする"か、映像に"エフェクトをかける"という、映像の"操作"が中心でしたが、CG-8はそれ1台で、静止画からリアルタイムに映像を"生成し、自由に操る"という全く違ったコンセプトのマシン。パッケージにある"SEE THE SOUNDS, HEAR THE VISUALS"という言葉に、何か興奮してきませんか?

豊富な内蔵エフェクトによって
静止画が3D動画へと変化


ビジュアル・シンセサイザーCG-8は"リアルタイムに映像を生成し、演奏する楽器"です。その仕組みは、音楽用シンセサイザーによる音作りのプロセスをそのまま映像の世界へと取り入れています。
①サンプリングした波形/内蔵されているPCM波形(静止画)を読み出し
②フィルター(3D動画化エフェクター)で加工
③アンプで音量制御(黒&白フェードで映像の明るさ調節)しながら出力早速、このプロセスになぞって本機での映像作りを見ていきましょう。
①CG-8では素材(オシレーター)として写真やテキストの"静止画"を扱います。本体にプリセットされた素材ももちろんありますが、付属のUSBコンパクト・フラッシュ(128MB)カード・リーダーからデジタル・カメラで撮影した写真データ、コンピューターで作成した画像データなどをどんどん取り込んでいきましょう。
②取り込まれた静止画は"ピクチャー"と呼ばれます。CG-8ではピクチャーは2つのレイヤーとなり、前景となるものが"スタンプ・ピクチャー"(PNG画像)、背景が"フォト・ピクチャー"(JPEG画像)となります。これに内蔵のエフェクトをかけることによって、静止画に動きを与えていくのです(3D動画化)。あらかじめ用意されているエフェクトはフォト・ピクチャーで200種類以上、スタンプ・ピクチャーで60種類以上と十分(画面①〜⑥)。中にはピクチャー自体を必要としないCGのみのエフェクトや、音に反応してCGを生成するエフェクトなんてものもあります。◀写真① プリセットから宇宙のような画像(フォト)&CG-8ロゴ(スタンプ)を選び、後者にバンク1/ナンバー9のエフェクトをかけたところ。右上、左下から出てきた2つのロゴが真ん中でかぶさり通り過ぎていく▲写真② 写真①のスタンプへバンク3/ナンバー14のエフェクトを適用。ロゴがランダムに飛び出ては消える▲写真③ さらにスタンプへバンク1/ナンバー8のエフェクトをかけると、ロゴがグルグルと回転を始める▲写真④ プリセットにあるビル街のフォトと顔のスタンプへ、それぞれバンク2/ナンバー11とバンク3/ナンバー11のエフェクトを適用。このようにフォトとスタンプで異なるエフェクト処理が可能▲写真⑤ プリセットのレインボーの輪(フォト)&CG-8ロゴ(スタンプ)。それぞれにエフェクトをかけ、動きの激しい動画が完成▲写真⑥ 写真⑤のレインボー(フォト)へ丸いフェード(スタンプ)を合わせ、エフェクト処理によってミニマルな動きを演出
この圧倒的なバラエティのエフェクトで無限に映像が生成できるわけですが、しかし特筆すべきは実用性の高いエフェクトが多く収録されているということです。こういった映像エフェクト類は大味で困ったものも往々にしてあったりしますが、CG-8のエフェクトは実用性のある、使いやすいものがそろっている印象です。しかも出力画像が非常に、非常に美しい!! 当たり前ですが表示がギザギザすることなく、とってもスムーズ。レスポンスがこれだけ速くて、リアルタイム操作でもこの画面の美しさ&滑らかさはかなりすごい事件だと思います(僕が使用させてもらった1週間、動作によるストレスは全くありませんでした)。
③FADEツマミを使い、黒フェード、白フェードによって明るさを調節して出力します(VGA、Sビデオ、コンポジット出力が可能)。こうして作った3D動画は、"パッチ"として内蔵40GBのハード・ディスクに保存可能。このパッチを場面ごとに繰り出しながらプレイできます。以上があなただけの"音色=3D動画"を作っていく流れです。

リアルタイム・プレイを可能にする
優れた操作感のコントローラー部


さてここからは、"演奏する楽器"としてバリバリ活躍してくれる、CG-8のコントローラー部を見ていきましょう。これによって静止画やエフェクトをリアルタイムで切り替えたり、調節していくことができます。まずフロント・パネルの右側には16個のパッドが並び、直感的にピクチャーやエフェクトの切り替えが可能です。そして左側には各種ツマミ、XYパッド、Dビーム・コントローラーが並びます。試しにPARAMETER欄に並ぶ各ツマミをいじってみると、映像の色が、スピードが、方向が、自分の指先の動きから画面に伝わっていく快感が得られます。この操作性はまさに"楽器"ですね。デリケートに微調整可能でありながら、逆にダイナミックにガシガシ使っていける感じもあります。例えば、X/Y/Zツマミは、そのまま3D空間のX座標(左右)、Y座標(上下)、Z座標(前後)をつかさどっており、これによってエフェクトの効きを自在に操作できます。また、おなじみDビームやXYパッドによるエフェクトの"演奏感"はまさに楽器そのものと言えるでしょう。これらのコントローラーだけでなく、本機にはライン・イン端子および内蔵マイクから入力された音声のピークを検知して映像をコントロールする"サウンド・コントロール機能"や、MIDIによる制御も可能。今までMIDI端子付きの映像機材は数多くありましたが、個人的にこれほど音楽とシンクロするパフォーマンスを想像させる機材はCG-8が初めてです。ほかにも映像の頭出しや一時停止が簡単にできる"トリガー機能"、自動的にフォト・パッチやスタンプ・パッチを切り替える"オート・スイッチ機能"、さらにリアルタイム・プレイの助けになるフット・ペダルも接続可能です。

オールインワンVJツールとして
VJプレイの新たな発想ツールとして


実際の使い道ですが、CG-8が活躍する場面はいろいろと想像できます。まず、例えば店舗やイベントなどで空間演出的な映像が欲しい場合、本機で即映像を制作し、自動演奏させておくだけでも十分なクオリティのものが得られます。また、オリジナルの動画(あなただけのピクチャー+エフェクト=あなただけのパッチ)をたくさん用意してパーティに向かえばCG-8だけでかなりのVJプレイができますし、このコントローラーがあれば現場で何があっても対応できるはず(例えば思いのほかハードな音楽のパーティだった、派手だった、地味だった......などなど)。当然、既にVJセットを持っている人も本機をVJプレイに加えることで、VJ映像のバリエーションが劇的に増えることでしょう。それは、VJ機材が1台増えた、映像ネタが増えた、映像エフェクターを1台買った、というレベルを超えた変化になるはずです。本体がカバンに入る大きさというのもスマートでとても良いですね。5.8kg(実際はもっと軽く感じる)なので電車で持っていけます。個人的には、ぜひ映像制作でも使ってみたいと思いました。コンピューターに向かい、キーボードとマウス使って超細かい数値を打ち込みながら、"取り消し、もう1回、取り消し、もう1回......"という制作作業が死ぬほど嫌いな私としては、フィジカルに頭の中のイメージをぶつけていけるCG-8がとても健康的に思えます。"作ってる感"もありますし。もちろんCG-8だけですべてを完結させるのは難しいかもしれませんが、エフェクトは多彩で、コントローラーによって微妙なニュアンスまで表現できて、しかもリアルタイムでスムーズな動きと来たら、このマシンが活躍できる範囲はものすごく大きいと思います。"これくらいの高さから、グルグル回りながら、画面を斜めに横切るぼんやり白く光る球体"という映像を作るなら、僕だったらCG-8で作ります。ビジュアル・シンセサイザーCG-8の概略がお分かりいただけましたか? 最初、フロント・パネルの豊富なツマミ類を見て"難しそうだな"と思ったあなた、実は、CG-8は"映像を演奏する楽器"というコンセプトに特化したとてもシンプルなマシンです(自分も触れてみてそう気付いたのでした)。そしてその助けになる機能も細かく用意されています。ここから先はあなたの作りたい、見たい映像のビジョン次第。それを形にするときにこのシンプルさ、操作性の高さ、そして強力なエフェクト類がきっと助けとなってくれるはずです。実際、CG-8に触れてみると"映像を演奏する楽器"であるという、既存のVJマシンとは全く違うコンセプトが込められていることがよく分かります。最初は戸惑うかもしれませんが、すぐにCG-8ならではの魅力に気が付くでしょう。このポテンシャルと用途はさまざまな分野と場面で生かせるはずです。そしてこの"楽器"を熟練すればするほど、あなただけの"演奏"ができるようになっていくのです。本機の登場によって、バトルDJ並みに手技の効いた、パフォーマンス性豊かなVJが出てくるかもしれません。

▲リア・パネル。左上よりMIDI OUT/THRU、IN、フット・スイッチ、音声ライン入力(フォーン×2)、VGA出力(15ピン・ミニD-sub)、オプション端子、Sビデオ出力(4ピン・ミニDIN)、コンポジット・ビデオ出力(RCAピン)

EDIROL
CG-8
オープンプライス(市場予想価格350,000円前後)

SPECIFICATIONS

■表示機能/VGA(解像度640×480、約1,670万色)、NTSCビデオ
■1プロジェクトで使用可能な静止画/Photo=JPEG(RGB)48枚、Stamp=PNG(RGBA)16枚
■1プロジェクトのパッチ数/Photo=128パッチ、Stamp=128パッチ
■接続端子/映像出力端子:VGA出力=15ピン・ミニD-sub(アナログRGB、解像度640×480固定)、Sビデオ出力=4ピン・ミニDIN、コンポジット・ビデオ出力=RCAピン、音声入力端子:L/R=フォーン、MIDI端子:IN、OUT/THRU、その他:フット・スイッチ、オプション端子(付属のメモリー・カード・アダプター専用)
■記憶装置/内蔵ハード・ディスク(システム領域、データ領域兼用)、コンパクト・フラッシュPM-128-CF(別売/静止画、プロジェクト・ファイル、システム・ソフトウェア読み書き用)
■消費電力/80W
■外形寸法/453(W)×108(H)×323(D)mm
■重量/5.8kg
■付属品/メモリー・カード・アダプター、電源コード