YAMAHA NS-10Mシリーズの生産完了から早４年。それに代わるモニター・スピーカーを探す機会も多い今日このごろです。そんな折、ドイツ・ベルリンのADAMより新世代リボン・ツィーターを搭載したモニター・スピーカーが登場しました。ADAMの製品にはすべてこのリボン・ツィーターが採用されているのですが、今回はその中でも“デスクトップ・モニター”という位置づけになっているArtistの実力をチェックしていきたいと思います。
蛇腹構造のリボン・ツィーターで
高効率化による大音量再生を実現
まずは外観から見ていきましょう。デスクトップ・モニターという位置づけからも、小規模スタジオや自宅スタジオをターゲットにしているようで、全体の色もAPPLE Power Mac G5やPowerBook G4とのマッチングの良いシルバーです。特に目を引くのが特徴でもあるツィーター部分で、全体のルックスからはメカニカルでSF的な印象を受けました。次にコントロール部ですが、フロントに電源スイッチやボリューム・トリムを配置していて操作性も良く、リア側にはツィーターのレベル調整に加え、２つのルームEQで細かなチューニングが可能な点もポイントが高いです。入力はバランスXLRとアンバランスRCAの２つで、さまざまなソースに対応できる仕様。もちろん防磁処理も施されています。ここでArtistにも採用されているADAMモニターの特長、リボン・ツィーターの説明をしておきましょう。従来のリボン・ツィーターは、強力な磁界の中に設置された小型のアルミニウム・リボンを電流が通過して音を発する、ちょうどリボン・マイクの逆の構造でした。この構造には問題点があり、電流によって振動したリボンの空気伝達能率とソースのダイナミクスに制限があり、僕の中では“音は良いが大きな音量を出せないもの”というイメージがありました。この構造に革命的な進化をもたらした技術がADAMのA.R.T.です。アコーディオン状に折りたたまれたリボン・ダイアフラムの“AMTドライバー”を採用しているため、通常のリボン・ツィーターが１：１の比率で外気を動かしているとすると、その４倍の比率で外気をドライブできるようになっています。つまり蛇腹状のリボンの伸び縮みで空気を大きく動かしているというわけです。同時に、指向性の狭さも改善されているようで、まさに次世代のツィーターといった印象を受けます。
高域の解像度がずば抜けて良く
シビアなEQ調整にも使用可能
さて、リスニングしてみての感想ですが、驚きました。YAMAHA NS-10M StudioおよびFOSTEX NF-01Aとの比較でしたが、やはり高域の解像度は段違いに良く、顕微鏡で音をのぞいている博士になった気分です。NS-10M Studioはパッシブですし、使い方の違いもあるので単純な比較はできませんが、NS-10M Studioで見えないところが断然見えてきます。印象はNF-01Aにも似ているかなぁ？とも思いましたが、やはり高域の繊細さはずば抜けています。ドーム型のツィーターのサウンドとは全く別の感覚でした。スペック上の周波数特性は52Hz〜35kHzまでとなっており、このクラスのスピーカーでは十分な帯域をカバーしていますが、リボン・ツィーターの鮮明なサウンドに慣れていないせいか（逆にNS-10M Studioの音に慣れ過ぎてしまっているのかも？）、ウーファーとのバランスが少々気になります。そこで、ツィーター・レベルやルームEQで調整したところ良い結果が得られました。欲を言えばもう少し低域や音量感が欲しいところですが、それはこのサイズでは高望みでしょうか。ツィーターの指向性も若干強い印象でしたが位相特性も良く、“見える”スピーカーといった印象でした。実際にミックス・ダウンでも使用してみましたが、高域が派手過ぎるスピーカーでありがちな“仕上がりがおとなしくなってしまう”ということもなく、EQのちょっとした変化も分かります。音量感に影響のある２〜８kHz辺りの帯域のシビアな調整ができて、とても良い結果が得られました。ADAMのスピーカーは、アビイ・ロード・スタジオなどにも採用されているようで、これからとても気になるメーカーの１つです。今回のArtistより上のクラスのモデルにも興味が沸いてきました。そろそろモニター・スピーカーを変えてみようかな？と考えてみる方、リボン・ツィーターの魅力を味わってみてはいかがでしょうか？
SPECIFICATIONS
■ユニット・サイズ／155mm （φ、 LF） 、 71cm2 （HF）
■周波数特性／52Hz〜35kHz
■クロスオーバー周波数／2.2kHz
■最低共振周波／48Hz
■最大瞬間音圧レベル／102dB以上
■全高調波歪率 （80Hz以上、 90dB、 １m）／１％ （100Hz以上）
■アンプ出力／50W＋50W（実効出力） 、 80W＋80W（ピーク出力）
■入力インピーダンス／10kΩ
■音量コントロール／−40〜＋12dB
■ツィーター ・ レベル ・ コントロール／±４dB
■ルームEQ／±６dB（150Hz以下、 ６kHz以上）
■外形寸法／190（W）×250（H）×218（D）mm
■重量／６kg（１本）
