【製品レビュー】繊細かつ太く粘りのある音質を誇る2chソリッドステート・マイクプリ

MILLENNIAHV-3C

上質でハイファイながら粘りのある音質で定評のあるMILLENNIAのマイクプリ“HV-3シリーズ”から、HV-3Bの後継機種HV-3Cが発売された。もともとアコースティック収音に自信のある本ラインナップだが、実はこの質感こそがDAW環境において最も威力を発揮してくれる部分だと思われる。早速、この2chソリッドステート・マイクプリをチェックしていこう。

電源周りから端子類に至るまで
丁寧な仕事ぶりが感じられる作り


まず、HV-3Bからの大きな変更点がルックス。同シリーズのHV-3D-8/4と面構えをそろえ、非常に高級感が漂う。一見、海外高級オーディオ的なたたずまいで落ち着きがある。なかなかレコーディング機材でこういった雰囲気を持っているものは少ない。無骨でいかにも専門家しか触ってはいけません!的な機材も決して悪くはないのだが、まず音楽に触れよう、と思わせてくれるこのルックスには好感が持てる。実際に手にとってみると、見た目のイメージとは裏腹にがっちりしている。2ch仕様のマイクプリにしてはかなり奥行きもあり、特に筐体の右半分はすべて電源トランス用のスペースである。充実した電源周りがしっかりとした音質を支えているのだ。フロント・パネルは5mmもの厚さがあり、“しっかりと作られた機材”という印象を受けた。では、そのフロント・パネルを見ていこう。まず、左側にかなり大きめのインプット・ゲインつまみが配置されている。この1.5dBステップでラッチ式のゲインは、細やかでリコール性のある操作を保証してくれる。この実に重みのあるロータリーつまみはハイエンド・オーディオでも定評のあるGRAYHILL社製で、耐久性と高音質を兼ね備えている。本機はもともとレンジが広くヘッド・ルームにも余裕があるので、PADも必要としない。その横には“A”“B”と表記されたゲイン切り替えスイッチを用意。Aを押すと+18dB、A+Bで+36dBという仕組みになっていて、最大+25.5dBのインプット・ゲインとこの2段階のゲイン切り替えスイッチの組み合わせで+8〜61.5dBのゲインを確保している。細やかな1.5dBステップで幅広いゲインをカバーするための仕様である。そしてHV-3Bから引き続き、DPA製マイク専用の+130V電源供給(スイッチは装備されているがオプション仕様)とファンタム電源が並んでいる。“HV(=High Voltage)”という名前はここからのものである。このハイボルテージ仕様の利点は、通常の+48Vファンタム電源より約10dBヘッド・ルームに余裕があり、また音質的にも低ノイズで帯域的にもフラットなことである。その上には緑と赤のインプット・オーバーロード・インジケーターが付いている。そして“MILLENNIA”のロゴを挟んで、電源スイッチが並ぶ。ちなみに本機はケーブルの抜き挿しのときも、逐一電源を落とすことをお勧めする。リア・パネルは、初期状態ではch1〜2のインプット/アウトプット端子(XLR)のみである。だがこの端子1つとっても丁寧な仕事ぶりを感じることができた。XLRコネクターを挿し込むと、滑らかだが少し重めに入っていき、最後にきちんとロックされる。今まで数千、数万回とXLRコネクターを挿してきたが、これには驚いた。“がっちりと端子を支える”というコンセプトもインプット・ゲインと同様のこだわりに思えた。各chのインプット/アウトプットの右端にはハイボルテージ仕様(オプション)用のインプット端子が用意されている。またオプションとして、24ビット/192kHz ADコンバーターの搭載も可能とのことだ。

位相特性の良い音
ステレオ収録時の定位感も抜群


さて、ここからは肝心の音質について触れていく。今回はアコースティック・ギター、ピアノ、そしてパーカッションをチェック。マイクに真空管とコンデンサーをそれぞれステレオ・ペアで用意し、SSL Gシリーズ・コンソールのヘッド・アンプ、NEVE 1066、JOHN HARDY M-1と比較してみた。全体的な印象はこれまでのHVシリーズ直系というか、まさにそのもの。繊細でありながら太く粘りのあるサウンドだ。この太さの要因は、位相特性および周波数特性の良さのたまものだと思われる。つまり2つのインプットの特性が限りなく同じであるため、センター定位がはっきりして、音がしっかりとまとまるのである。ちなみに、どのチェック音源からも通常よりマイクを離してセッティングしてみたが、くっきりとした音場をとらえてくれた。また、今回はDPAのハイボルテージ・マイクは使用できなかったが、DPA 4006(+48V)もテストしてみた。マイクと本機の素直なキャラクターがより引き立ち、“なるほど!”と思わせる組み合わせであった。この組み合わせでのアコースティック・ギター録りはぜひ今後使っていきたいと思ってしまった。なお、真空管マイクでもそのマイクの持つ質感を変に色付けすることなく再生してくれた。基本的には、アコースティック楽器の空間表現に長けている、というのが本機の特徴であることに間違いはないだろう。だが、このなまめかしくも迫力のある音質は、DAW環境や打ち込み主体で作られた楽曲の中でも生きてくることは容易に想定できる。音色から質感へ……そう思い始めた方々はぜひとも試していただきたい。

▲リア・パネル。左側はオプション・スペースで、S/P DIF/ADAT/DSD/AES/EBUなど各種デジタル出力やワード・クロック端子を用意。さらに右側にはch1/2のアウトプット&インプット(XLR)、+130Vイン(オプション)をそれぞれ用意

MILLENNIA
HV-3C
オープン・プライス(市場予想価格/302,400円)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/4Hz〜300kHz(+0/−3dB)
■最大入力レベル/+23dBu
■最大出力レベル/+32dBu
■入力インピーダンス/6,200Ω(normal)
■出力インピーダンス/24.3Ω
■外形寸法/483(W)×44.5(H)×330(D)mm
■重量/約5.4kg