2系統のDSPを搭載したマルチチャンネル・シグナル・プロセッサー

EVENTIDEH8000

年々どの分野でもサラウンドの需要が増えてきていますが、各メーカーもそれに呼応するかのように、プラグインを含めたいろいろな製品をリリースしてきています。そんな折、アメリカのメーカーEVENTIDEから、フラッグシップ・モデルとなるマルチチャンネル・シグナル・プロセッサーH8000が発売となりました。EVENTIDEと言えばH3000やH3500、DSP7000など“ハーモナイザー系が得意なマルチエフェクター”という印象が強いですが、H8000はどんな製品に仕上がっているのでしょう。

5.1ch用を含む
膨大な数のプリセット


まずは入出力部の仕様から見ていきましょう。H8000は2chのアナログ入出力、ADATやS/P DIF端子を含む18chのデジタル入出力を搭載しており、そのうち8ch分の同時処理が可能です。さらにMIDI入出力とクロック入出力用のBNC端子も用意。フロント・パネルは、同社のDSP4000シリーズと同じくレベル・メーターやテンキー、エクスターナル・シンク・インジーケーターなどが生前と並び一目で分かるデザインです。ここからが本機のスゴいところなのですが、機種名にもなっている通り、約8,000ものプリセットが用意されています! 個人的に気になる5.1ch用のプリセットも50以上。あまりの多さに戸惑いそうという向きには、プリセット名とプリセット・ナンバーのどちらからの呼び出しにも対応しておりロードも容易なのでご安心を。H8000はDSP AとDSP Bの2基のDSPエンジンを備えており、それぞれにプログラムをロードして2種類を同時に使用することができるほか、5.1chなどのプリセットを呼び出す際に、1つのプログラムを、両方のDSPエンジンを使って動かすこともあります(モノシリック・モードと呼ぶ)。ここでもう1つユーザーに優しいと感じたのが、ルーティング。こちらは9つのプリセットが用意されていて、2基のDSPを使った複雑なルーティングもそれぞれの使用法に合ったプリセットを呼び出すだけですぐに作業を始められるのです。さらにリモート・コントローラーのEVE/NET(283,500円)や、HS4174(288,750円)をはじめとしたサンプリング・ボードや、マスタリング・プリセット・カードなど、さまざまなオプションもそろっています。

思い通りのサウンドを実現する
多彩なエフェクト


早速、実際に使用してみましょう。H8000とDIGIDESIGN Pro ToolsをAES/EBUで接続し、DSP Aにリバーブを呼び出してみました。H3000シリーズのころから定評のあるシルキーで高域に特徴のあるリバーブは、コーラスやピアノなどにかけると効果的で、オケの中に入ってもデジタルとは思えない存在感のある広がりを得られます。オケ全体にステレオ・ピッチ・シフトを使用してみたところ、元の音源のクオリティをそのままに保ちつつピッチ上下させることができました(音質は確かに素晴らしいのですが、視認性が高いプラグインが豊富に発売されている中、この音質を優先するかは判断が難しいところですが)。さらに、5.1ch用リバーブをスネアにかけてみます。気になる音のキャラクターですが、奥行き感に深みがあり好感触。ディスプレイ上で各チャンネルへの信号のオン/オフや、レベルの変更もできるほか、聴きながらパラメーターの調整も可能。エディットもしやすく、思い通りのリバーブを得ることができます。同様にボーカルにもホール系のリバーブをかけてみたところ、リアリティのある残響感でライブDVDなどの仕事でも使ってみたくなるほどです。フランジャーなどのモジュレーション系は音楽の5.1ch作品のミックスでは必要性があまり無いのですが、映画やMAなどでは効果音のエフェクトに威力を発揮するのではないでしょうか。個人的には、H8000に入っているバンド・コンプレッサーが、デジタルなのにもかかわらずアナログ・ライクなかかり方で、ものすごく好印象でした。今回はオプションのリモート・コントローラーEVE/NETと組み合わせての試用だったのですが、EVE/NETは本体とEthernetケーブルを使って接続し、本体の全機能が操作可能。ディスプレイは小さなもので、使用されているフォントが少々見づらいのですが、他メーカーのサラウンド対応機種の価格と比較すると仕方がない部分でしょう。サラウンド対応でこれだけいろいろできてこの価格……気になる人も多いのでは?

▲リア・パネル。左からシリアル・ポート、EVE/NET接続端子、MIDI THRU/OUT/IN、ADAT入出力×1系統、リレー用端子、フット・ペダル、ワード・クロック入出力、S/P DIF入出力1系統、AES/EBU入出力×4系統、アナログ入出力×(XLR、フォーン)

EVENTIDE
H8000
1,207,500円

SPECIFICATIONS

■サンプリング周波数/44.1/48/88.1/96kHz
■周波数特性/20〜20kHz (44.1kHz時) 、20〜22kHz (48kHz時) 、20〜41kHz (88.1kHz時) 、20〜44kHz (96kHz時)
■インピーダンス/>20kΩ
■ダイナミック・レンジ/>110dB
■外形寸法/483(W)×89(H)×317(D)mm
■重量/5.5kg