DVD+RWを記録メディアにしたPCM/DSDマスター・レコーダー

TASCAMDV-RA1000

録音業界では、ほぼ完全にDIGIDESIGN Pro Tools|HDが行き渡った感がある。日常的に、96kHzや192kHzでのレコーディングが気軽に行われている。それはクラシック系や生楽器中心の音楽に限らず、打ち込みを多用したポップスでも同じことだ。それでは、ミックス・ダウンした2chマスターは、どうしているのか? アナログ・ハーフ・インチを使うケースもあるが、一般的にはDATに録音したり、Pro Toolsの内部にカンパケを録音し、マシンごとマスタリング・スタジオに持ち込んだりしている。24ビット/192kHzを録音できるマスター・レコーダーがなぜ無いのか? この疑問に答えてくれたのが、今回発売となったTASC AM DV-RA1000だ。しかも驚いたことにSuper Audio CD(SACD)のフォーマットであるDSD(Direct Stream Digital)にも対応している。劇的な意欲作であるにもかかわらず、18万円台後半という手ごろな価格。プロ業界のみならず、宅録の世界にも浸透する可能性を秘めた、新世代マスター・レコーダーの登場に喝采を送りたい。

24ビット/192kHzのPCMに加え
DSDフォーマットにも対応


DV-RA1000は記録メディアにDVD+RWおよびCD-R/RWを採用したモデルで、作成可能なディスクは、以下の通りだ。
●CD-R/RW使用時で16ビット/44.1kHzのオーディオCD
●DVD+RW使用時で24ビット/192kHzまでのPCM
●DVD+RW使用時でDSD(1ビット/2.822 4MHz)以上のように、現存するすべてのフォーマットを網羅したレコーダーと言える。AES/EBUおよびコアキシャルによるPCMフォーマットの最高24ビット/192kHz対応のデジタル・インターフェース、SDIF-3によるDSDフォーマットのデジタル・インターフェース、そしてPCM/DSD両フォーマット対応のアナログ入力(XLR、RCAピン)を備えている。至れり尽くせり。もう“音なんてどうでもいい”と思ってしまうほどのうれしい装備だ。なお、DVD-RWへの記録は音声ファイルとしてPCMフォーマットでBWF、DSDフォーマットでDSDIFFを採用している。試しにCD-Rのディスクを入れてみる。すると、自動的に16ビット/44.1kHzの表示になるので、これはオーディオCDを焼くフォーマットなのだなということが分かる。つまり、一般的なCD-R/RWレコーダーと同じ動作をするわけだ。次にDVD+RWのディスクを入れてみた。すると、フォーマットの画面が現れ、プロジェクト名とレコーディング・フォーマットを選択できるようになる。この場合、DSDで1ビット/2.8224MHz、PCMで24ビット/192/176.4/96/88.2/48/44.1kHzでの録音が選択可能だ。

元データとの忠実度が重視された
PCMフォーマットでの録音


実際に各フォーマットを録音/再生してみた。まずはCD-Rだ。Pro Toolsを立ち上げ、24ビット/44.1kHzのファイルを再生する。そのままAES/EBUでDV-RA1000にデジタル伝送してみると、問題なく録音できた。勝手に下位8ビットを無視しているのだろう。もし24ビット/44.1 kHzを、そのまま録音したいのなら、DVD+RWを使えばいいだけの話なので、この辺は実用的だ。マルチトラック状態(つまり、レベルの上下、コンプ、EQ、ミックスなどの処理が加えられる可能性がある)とは異なり、全く処理しない2chファイルなら、24ビットと16ビットの差は現れにくい。実際、Pro ToolsとDV-RA1000を切り替えて聴いてみても、目くじらを立てるような違いは無い。やや高域が整理され、低域が豊かに感じられるような音質にしつけられており、位相感が良くなったように感じられる。音楽的な音だ。DAコンバーターが違っているにもかかわらず、デジタル伝送でこの程度しか音質差が無いのであれば、全くの合格点と言える。この結果は、クロックをInternal(内部クロックに追従)と、External(デジタル入力に追従)で切り替えてみても変わらない。プロ機とコンシューマー機の間で問題となりやすいレベル関係も、標準的な+4dB/マージン−16dBというプロ機に合った設定になっているようだ。次に、Pro ToolsでDIGIDESIGN 192 I/Oのアナログ出力からDV-RA1000のアナログ入力(XLR端子)に入れるというアナログ接続を試みた。この接続では、意外にもPro Toolsとの音質差が最も少なかった。AD/DAコンバーターを通った結果での忠実度が重視されている印象で、デジタル入力時に比べて、やや低域が寂しくなり、高域の位相感なども、オリジナル・ソースに近づくことになる。さて、ここからはDVD+RWを使ってみる。まずはPCMの24ビット/192kHzをテストしてみよう。今回は、AD/DAを通ったテストをやってみよう。デジタルI/Oを使った場合、単なるストレージとしてのレコーダーということになるので、音質差をうんぬんするのはお門違いだと思えるからだ。192kHzサンプリング時のDV-RA1000の音質は、ほぼ44.1kHzの音色感のまま、高域が伸びて空間が広がってくる感じだ。自然な音色で、なかなかハンドリングしやすそうな印象だ。

DSDの優位性を実感できる
ハイクオリティな音質


いよいよDVD+RWを使ってのDSDフォーマットでのレコーディングだ。DSDフォーマットのことを簡単に解説すると“2.8224MHzでサンプリングされた1ビットのデジタル信号”と言うことができる。ちまたに広がりつつあるSACDに採用されているデータ・フォーマットだ。このDSDフォーマットの優位性は、圧倒的なハイサンプリングによって得られるハイスピードなアタック感と、100kHzを超える周波数特性ということになっている。テストでは、下記の2種類の環境で録音してみた。
●MERGING TECHNOLOGIES Pylamix Virtual Studioのデジタル出力からDV-RA 1000のSDIF-3に入れたもの
●Pylamix Virtual StudioからEMM LABS DAC8 MK IVに送り、そのアナログ信号をDV-RA1000のアナログ入力(XLR端子)に入れてDSDモードで録音したものこのような2本立てで試したわけだが、さらに2パターンとも、DV-RA1000本体のDAコンバートとDAC8 MK IVにデジタルで送ってDAコンバートしたものと、両方聴いている。クロックの供給方法なども変えてみているので、明らかに気合いの入ったテストだ(笑)。いくらなんでも100万円以上するDAC8 MK IVと比べてはいけないが、なかなか良い勝負をする。すなわち、空間の広がりや立ち上がりの自然さなどで、DSDレコーディングする価値は十分にあると言える。僕自身の価値観として、DSDレコーディングのだいご味は決して高域の伸びなどではなく、芯(しん)と音程感のある低域だと確信しているのだが、その優位性は確実に感じられるのだ。ここまで評価の高かったPCMの音質が、いきなりチープに感じられてしまう。ちなみにCD-R/RWでCD-DAを作るとき、DV- RA1000では、どんどん書き足して行くことができる。それは一度イジェクトしても同じだ。ところが、このディスクを一般のCDプレーヤーで再生するためには、ファイナライズ処理を施す必要がある。一度ファイナライズしてしまうと、もう書き足しはできない。なお、アンファイナライズというメニューは、CD-RWを使用したときにのみ有効らしい。もう1つの特徴は、DVD+RWを使ったセッションでは、同一ディスクの中に、異なるフォーマットの録音が可能だということだ。PCMで24ビット/44.1kHzから24ビット/192kHz、果てはDSDフォーマットまで混在可能。ここではプロジェクトという概念でセッションが分けられていて、セッションを切り替えると、サンプリング周波数やビットが変更される。このディスクをコンピューターに読ませてみると、問題なく認識した。BWFフォーマットで書き込まれており、Pro Toolsにインポートしても、そのまま再生できる状態だ。なんという融通性なのだろう。この短いテストでは、もちろんDV-RA1000のすべてを網羅できたわけではない。マニュアルが未完成だったので、使うことのできた機能だけをテストしたのだ。なお、USB 2.0インターフェースを実装しているのでコンピューターのDVD +RWドライブとして活用することも可能なほか、入力信号や再生時に3バンドのEQやコンプ/エキスパンダーなどもかけられるので、簡易マスタリングのようなことまで対応できる。だが、この機能はDAW全盛の今、あまり重要ではない。使う人が増えるにつれて、細かい使い勝手や音質などの評価も、どんどん出そろってくることと思われる。確かにトレイが安っぽくてガタガタするといった点や、市販のSACDが再生できないなどの弱点はあるが、そんなことは全く気にならない。なぜなら、この機能と音質で18万円後半という価格だからだ。現場の穴を埋める機器の登場に大歓迎モードで、TASCAMというメーカーに対する印象まで変わってしまった。

▲DV-RA1000に付属するワイヤード・リモート・コントロール・ユニットRC-RA1000。DV-RA1000のリア・パネル右下にあるリモート・コントロール接続端子を介して使用する



▲リア・パネル。左側からアナログ入力(XLR、RCAピン)とデジタル入力(コアキシャル:S/P DIF、XLR:AES/EBU)、アナログ出力(XLR、RCAピン)とデジタル出力(コアキシャル:S/P DIF、XLR:AES/EBU)、DSD入出力(BNC:SDIF-3/DSD-Raw)、USB 2.0接続端子、ワード・シンクIN/OUT/THRU(BNC)、コントロール入出力(D-Sub9ピン)、ワイヤード・リモート・コントロール接続端子

TASCAM
DV-RA1000
189,000円

SPECIFICATIONS

■使用メディア/DVD+RW、CD-R/RW
■周波数特性/20Hz〜20kHz ±0.5dB(全モード)、20Hz〜40kHz −2/+1dB(88.2/96kHz)、20Hz〜50kHz −3/+1dB(176.4/192kHz、DSD)
■サンプリング周波数/44.1kHz(CD-R/RW)、44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz(DVD+RW@PCM)、2.8224MHz(DVD+RW@DSD)
■量子化ビット数/16ビット(CD-R/RW)、24ビット(DVD+RW@PCM)、1ビット(DVD+RW@DSD)
■同時録音/再生トラック数/2
■ファイル・フォーマット/CD-DA(CD-R/RW)、BWF(DVD+RW@PCM)、DSDIFF(DVD+RW@DSD)
■全高調波歪率/<0.005%(1kHz、AES-17LPF@PCM)、<0.007%(1kHz、AES-17LPF@DSD)
■SN比/>94dB(1kHz A-WTD、AES-17LPF、CD- R/RW)、>103dB(1kHz A-WTD、AES-17LPF、DVD- RW)
■ダイナミック・レンジ/>103dB(1kHz、−60dBFS、A-WTD、AES-17LPF、DVD-RW)
■外形寸法/482.6(W)×95(H)×331.3(D)mm
■重量/6.8kg