DAW内部ミックスの飽和感を解消するステレオ・サミング・アンプ

TUBE-TECHSSA 2A

DAW関連機器の進歩は素晴らしく、音を目で確認でき、トラック数に余裕ができ、失敗した場合には元に戻れることに、私たちエンジニアのみならず、プロデューサーやアーティストも心踊らされた。しかし、そんな興奮が少し落ち着き始めたころ、"DAWで録音した場合、何か冷たくなるような気がする"といった疑問も少なからず出てきた。そうした状況から真空管機器が注目を浴びるなど、音に対する探究心も進歩する一方だ。そしてここ最近、新たな問題(疑問)が浮上してきた。DAW内部で膨大な数のトラックをミックスした際の音の在り方、いわゆる音の飽和問題である。そんな問題を解決してくれる機器が、今回チェックする真空管内蔵のTUBE-TECH SSA 2Aなのだ。

空気感が増し高域がクリアに伸びる
低域も粘りが加わりしっかりした印象に


SSA 2Aは"ステレオ・サミング・アンプ"と銘打たれているが、日本での感覚としてはいわゆる"ミックス・バッファー"と考えて問題ないだろう。ステレオ8系統とモノラル4系統の入力信号をステレオ出力にまとめるものだ。TUBE-TECH独特の渋いブルーのフロント・パネルに、大ぶりのVUメーター、レトロなつまみ類と見慣れた感じで好感の持てるデザイン。リア・パネルには入出力合わせて22個ものXLR端子が配置されており、なかなか壮観な見栄えである。それを2Uサイズにまとめているのはさすがだなと感心させられる。それでは、実際に音を通してSSA 2Aの実力を探ってみよう。DAWはDIGIDESIGN Pro Tools |HD Accel+192 I/O×2。素材は83ボイス分のオーディオを使用し、モノ/ステレオのオーディオとエフェクト・リターン用Auxの合計で70フェーダーを使い、Pro Tools内部でまずは自分なりに納得のいくところまで仕上げるところからスタートした。その完成させたPro Tools内部でのミックスを基準にしてチェックしていこう。まずPro Tools内部ミックスをドラム、ベース、ディストーション系エレキギター、クリーン系エレキギター、キーボード、ボーカルの6パートに分け、SSA 2Aのステレオ・インプットのch1〜6に入力する。その際、192 I/Oの各アウトプットのレベルで誤差が無いように、0.01dB精度で調整しておく。もちろんSSA 2Aの出力レベルも内部ミックスとの誤差が無いように確認してチェックした。SSA 2Aでミックスした音の第一印象は、全体的に空気感が増し、音と音の間が見える感じだ。特に、シンバルのリリースが伸びた印象がするなど、高域の楽器の見え方がクリアになる。低域は逆にタイトになるのかと思いきや、粘りが増した感じがした。真空管の特長がうまく出ているようで、キックなどはしっかりとした印象が増す。Pro Tools内部ミックスとは"ミックスの景色が変わる"という印象だ。良しあしというよりも、曲によって印象の良い方を選ぶという、高いレベルでの選択ができるようになる。

入力レベルを上げるとドライブ感が増加
モノラル入力ではよりシャープなサウンド


パラアウトになったことにより、192 I/Oの各アウトプットのレベル・マージンに余裕ができたはずなので、Pro Tools上でレベルを2dBアップした状態でSSA 2Aへ入力してチェックしてみた。SSA 2Aの入力レベルが上がった分、Pro Tools内部ミックスとのレベル差がないように、フロント・パネルのマスター・ゲインでSSA 2Aの出力レベルを調整する。このマスター・ゲインは最大±10dBまで調整可能。±3dB範囲内では0.5dBステップなので、かなり正確に調整が行える。この2dBアップ・バージョンでは、ドラムのベースのドライブ感がかなり増す。ギターなどの中域の楽器も鮮明になり、曲全体の勢いも増した。ロック系の音楽ではかなり好印象だ。同じ要領で4dBアップ・バージョンも聴いてみると、全体的にコンプ感が出てきた。特にドラムのつぶれ感がかなり気持ち良い。高域に関しては、張り出し感が出るがややダーティになるので、曲によっては注意が必要となるだろう。SSA 2Aには4系統のモノラル入力も備えられているので、これもチェックしてみよう。ここに入力した信号は、入力したそのままのレベルでLとRに出力されるので、途中でDAW内部ミックスから変更した場合、本機での出力レベルが約2〜3dBアップすることを覚えておいた方がよい。実際にキック、スネア、ボーカルをモノラル入力に送ってみると、ステレオ入力したときより音像がタイトな感じになった。音が細くなったわけではないのにシャープ感が増す。これはキック、スネア、ボーカルでも同じ印象で、どの帯域でもモノラル入力の効果が明確に確認できた。今回のチェックで、このサミング・アンプの効果がかなり良いものであるのが確認できた。もちろん本機を使用したからといって、すべてのミックスがハイクオリティになるわけではない。曲によっても印象が変わるし、トラック数が少ない場合はDAW内部ミックスの方が良いかもしれない。しかし、ワンランク上のミックスを目指しているDAWユーザーに、ぜひ本機を試していただきたいことに変わりはない。

▲リア・パネル。電源コネクターの右に出力端子(XLRオス)が上下に並び、その右に上下ペアのステレオ入力が8系統(XLRメス)。一番右の4つがモノラル入力(XLRメス)

TUBE-TECH
SSA 2A
441,000円

SPECIFICATIONS

■使用真空管/ECC82×2、ECC83×2、ECC88×4
■入力インピーダンス/50kΩ
■出力インピーダンス/60Ω以下
■周波数特性/5Hz〜300kHz(−3dB)
■最大入力レベル/+30dBu以上(歪率1%)
■最大出力レベル/+26dBu以上(歪率1%)
■ノイズ(入力負荷200Ω、22Hz〜22kHz、ゲイン0dBu)/−90dB以下(入力×1時)、−85dB以下(全入力時)
■外形寸法/483(W)×88(H)×205(D)mm
■重量/5.4kg