スペックや外観に
RODEのこだわりを感じる
まずはスペックを確認しておきます。指向性は超単一指向性で、周波数特性は20Hz〜20kHz。指向性についてはハンドヘルド・タイプのダイナミック・マイクでも単一指向性や超単一指向性というのは一般的ですが、周波数特性の下が20Hzまであるのはかなり珍しいものでしょう。さらに、ハンドヘルド・タイプのコンデンサー・マイクであっても周波数特性の下は40〜50Hzくらいが一般的。それに比べてS1はレコーディング用コンデンサー・マイクと同様の仕様を誇っています。この辺りはRODEのこだわりなのでしょう。
ダイアフラムにはスタジオ・コンデンサー・マイク同様の金メッキ仕様ダイアフラムを使用。コンデンサーはエクスターナリ・バイアスを施したコンデンサー・トランスデューサーを使い、定評のある超低ノイズFET回路を搭載しています。
外観については、“ハンドヘルド・マイク”とネーミングされている通り、まさにボーカル・マイクの形です(例えばSHURE SM58など)。また、ライブ・ステージ用であれば通常ブラックなど濃い色を使うところですが、S1はあえてNT2000などと同じシルバーとなっています。材質についてはサテン・ニッケルで、美しい仕上がり。ここも同社の自信とこだわりなのでしょう。手に取った感じはずっしりと重量感があり、高級感を感じさせます。ヘッドは熱処理を施したメッシュ・ヘッドで丈夫さが強調され、コンデンサー・タイプであることをあまり意識せずダイナミック・マイクと同様に扱える印象です。
低音域に腰のあるサウンドで
ロック系ボーカルにもマッチ
それではサウンドに触れていきましょう。今回はSM58、SHURE Beta58と比較しながらチェックしてみました。その結果、コンデンサー・タイプらしく高域の伸びはダイナミック・タイプでは得られない印象のもので、さらに他社のハンドヘルド・コンデンサー・マイクともまた違った印象を受けました。
ボーカルで使用した感じは、いわゆるコンデンサー・マイクのキャラクターである“繊細であるとか高音域が伸びている”という印象よりも、どちらかというと中/低音域が充実しているというものでした。SM58、Beta58と聴き比べた結果、予想ではSM58より新しいBeta58の音に近いのではと思っていたのですが、意外にもSM58に近い低音域に腰のあるサウンドでした。周波数特性で下が20Hzまで確保されていることが、この低音域の充実感なのでしょう。また、低音が充実しているにもかかわらず、ハンドリング・ノイズは十分に低減されています。加えてポップ・ノイズについても気になりません。多くのボーカル向けマイクはローカット気味の周波数特性にしてあるにもかかわらず、ポップ・ノイズを軽減させるためにミキサーのローカット・フィルターなどを使うことがよくあります。しかし、S1はその必要がないくらいポップ・ノイズが気になりませんでした。さらに近接効果についても影響をあまり感じません。
コンデンサー・タイプのハンドヘルド・マイクの用途としては、繊細で高音域まで伸びた女性ボーカルが一般的ですが、むしろS1は激しいステージ・パフォーマンスのロック系ボーカル・マイクに向いていると感じました。コンデンサー・タイプを意識させないボディと構造、そして重量。音質についても今までのボーカル・タイプのコンデンサー・マイクとはひと味違ったダイナミック・タイプに似たパワフルな中/低音域。そしてRODEのコンデンサー・マイクの特徴でもある広がり感と繊細さも実現しています。もちろん、癖の少ないフラットな特性を兼ね備えているため、女性ボーカルへの使用にも対応できるでしょう。以上のように、S1はコンデンサー・マイクを感じさせない外観でありながら、ダイナミック・マイクには無い充実した音質を誇る、“新しさとビンテージ感”を持ったマイクという印象です。
最後に、これだけのスペックとフレキシブルな用途を兼ね備えつつ価格がリーズナブルなのも特筆すべきところです。筆者は、ステージで使用するボーカル・マイクを時と場合によっていろいろ使い分けているのですが、S1もそこに加えたいと思うような強力なマイクです。まさしく製品のキャッチ・フレーズ通り“新たな境地を切り開くハンドヘルド・コンデンサー・マイク”と言える製品でした。
SPECIFICATIONS
■指向性/超単一指向性
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■ダイナミック・レンジ/132dB
■感度/−46.5dB(1V/Pa、±2dB into 1kΩ)
■出力インピーダンス/50Ω
■SN比/78dB
■外形寸法/52(φ)×185(H)mm
■重量/300g
■付属品/マイク・ホルダー、ソフト・ケース