低価格ながら癖の少ないサウンドで広く使い回せる良質コンデンサー・マイク

M-AUDIONova

1988年に設立されたM-AUDIO(旧社名はMIDIMAN)は、デジタル・オーディオ/MIDIソリューションにおける主要なプロバイダーの1つ。同社のマイクロフォンと言えば、GROOVE TUBESと共同開発したシリーズが有名で、LunaやSolarisなどが本誌でも何度か取り上げられていますね。そうした同社の技術を投入して新設計されたのがこのNovaです。価格破壊とも思える低価格を実現し、業界内のニュースとなること必至のこのNovaの実力は、どんなものでしょうか!?

クラスA FET回路を採用し
細部まで丁寧な作り


ではまず、Novaの外観から見ていきましょう。スタジオ・スタンダードであるNEUMANN U87に代表される、いわゆる定番のコンデンサー・マイクに近い形状&大きさとなっています。本体は明るめのつや消しシルバーで、ダイアフラムの収納グリルは2種類の太さの違うメッシュで加工されており、ローコスト化による雑な作りは無し。同社の上位機種と同様に丁寧に加工されています。仕様としては、単一指向性のみ、ローカットやパッド類のスイッチが一切無いシンプルな設計で、マイク・プリアンプやミキサーなど外部からのファンタム電源(48V)で稼働します。マイク本体以外には、マイク・ホルダーとソフト・ケース、XLRのマイク・ケーブルが同梱され、しかもコンパクトにパッケージングされています。Novaの最大の特徴としては、LunaやSolarisといった上位機種譲りの良質なパーツの採用&回路設計でしょう。大口径のダイアフラムは3ミクロンの極薄な大口径金蒸着仕上げになっていることからも、その丁寧な作りがうかがえます。次に挙げられる特徴としては、FET(電界効果トランジスター)回路を使っていることです。クラスAのFETエレクトロニクスを採用することにより、S/N&歪み率が改善されていることも大きなポイントです。そして何よりNovaの一番のセールス・ポイントは、これらのスペックに反して、ギャップとも思えるほど低く抑えられたこの価格。恐らく、上位機種のマイクのノウハウをベースにして、技術移植することによってこの価格が可能となったのでしょう。

低域から高域まで自然な伸び
歪みにくさも魅力


では実際に音を聴いて、チェックしてみることにしましょう。比較マイクにU87(オールド・タイプ)を用い、マイク・プリアンプにNEVE 1073を使っての試聴です。単体での出力差は、Novaの方が5〜6dB大きく、現在主流の高出力なコンデンサー・マイクの平均レベルとほぼ同等。S/Nの差は出力差と同様、Novaの方が良いです。まずは、声&歌によるチェック。ごく普通の声量/張った声/ウィスパーの3つの音量での違いを男女別に聴き比べてみました。声量が大きめの際は、2本のマイクの間に特性差はあまり生じず、特に中域はフラットな感じで、若干U87よりもNovaの方が癖が少ないかも……と感じました。高域に関しては、U87と同様、Novaも不自然にエンハンスされた感じは無く、自然な伸び具合が見られます。そればかりか、Novaの方が若干ハイエンドが伸びているようです。ウィスパー・ボイスのチェックでは、逆にNovaの方にポップ・ノイズや床鳴りなどが若干多く見られるようになりました。恐らく、Novaの方がローエンドの感度が高いからなのでしょう。極オンマイク時には、ローカットは必須だと思われます。しかしながら、パワフルな歌い方に対する歪みはNovaの方が少なく、いろいろな場面に対応できそうです。次にアコギ(スチール/ナイロン弦)とウッド・ベースでのチェック。ここでは、両者のダイナミック・レンジの差がもう少し出てきました。Novaの方が低域の広がり感が多少増し、高域の倍音の伸びも若干多くなっている印象です。逆に中域が若干足りなく感じるのは、Novaの方が低域/高域に伸びがあり、相対的に中域に耳が行かなくなるから……と言いたいところですが、残念ながら、ここは名機U87のずば抜けた表現力に白旗を振るしかないですね。ウッド・ベースでは、低域での表情の差も少し感じられ、まとまり感はU87の方がありましたが、どっしりした低域はよりNovaの方に多く感じられました。しかし、先程も言ったように不要な低域まで拾ってしまうことがあるので、セッティングには気を付けたいところです。それにしても、この価格でこの実力は驚きですね。今回は、ピアノやドラムでのチェックはできませんでしたが、ぜひ2本そろえて使ってみたいですね。1つだけ残念なのは、価格的に考えてもこのNovaを手にする人たちの多くは、コンデンサー・マイクのビギナーが多いと思うので、そういった初心者向けのセッティング例が取り扱い説明書に載っていたらよかったこと。でも価格を考えると、これ以上のことを望むのは欲張りというものですかね!
M-AUDIO
Nova
12,600円

SPECIFICATIONS

■指向性/単一指向
■周波数特性/20Hz〜18kHz
■感度/16mV/Pa(−36dBv)
■最大SPL/128dB
■等価雑音レベル/14dB A-weighted
■インピーダンス/<200Ω(>1,000Ωロード時)
■外形寸法/52(φ)×185(H)mm
■重量/650g
■付属品/マイク・ホルダー、ソフト・ケース、XLRケーブル