2台の1176を1つに凝縮した2ch仕様アナログ・コンプ/リミッター

UNIVERSAL AUDIO2-1176

UREI 1176はエンジニアにとってコンプレッサー/リミッターの代名詞といっても過言ではないほど、録音業界に浸透している機材の1つである。実際、いわゆる1176系のコンプ/リミッター(復刻機のUNIVERSAL AUDIO 1176LN、ステレオ仕様機1178などを含め)は、どのレコーディング・スタジオでも必ずと言ってよいほど常設されている。まれに設備されてないスタジオに行った場合などは、“え!置いてないんだ、どうしよー”となってしまうほどだ。さて今回、本家本元と言えるUNIVERSAL AUDIOから1176LNの2ch仕様機であるコンプ/リミッター2-1176が登場した。大変興味深いこの製品を1176との比較を交えながら、チェックしていってみよう。

分かりやすい配置のスイッチ/ノブ
“レシオ全押し”モードも搭載


まず実際に2-1176を見た感想だが、最近のUNIVERSAL AUDIO製品と統一されたデザインで、程よいクラシック感があり好感が持てるものだ。つまみの配置は左右とも同じになっており、非常に分かりやすいレイアウトである。また、左右の両チャンネルをコントロールするスイッチ類がセンターに配置されていることも、より分かりやすく感じさせる要因になっているのだろう。では、パラメーターを見ていこう。中央には電源スイッチが配置され、その左にリンク・スイッチ、右にバイパス・スイッチが用意されている。リンクをオンにすると、チャンネルAとBでアタックとリリースが連動し、インプット、アウトプット、レシオは各チャンネルごとに設定する仕様だ。なお、コントロールはチャンネルA側(左)で行う。この仕様は1176をステレオ・アダプターによってリンクさせたときと同じものだ。バイパス・スイッチは、A、Bチャンネルで同時にレシオを1:1に設定し、コンプレッションをバイパスするものである。なお、この場合インプット・ゲイン、アウトプット・ゲインなどはバイパスされないため、コンプレッション無しで本機のサウンド・キャラクターを得ることが可能だ。次に、左右同じレイアウトのコンプレッサー(リミティング・アンプ)部を見ていこう。基本的に1176LNと同じコントロールが可能だが、レイアウトの都合でレシオとメーター切り替えがプッシュ・スイッチからロータリー・スイッチに変更されている。しかし、オリジナル機で“クラッシュ・サウンド”を求める場合に多用する“レシオ・スイッチ全押し”に、レシオつまみのパラメーター“ALL”で対応しているのがうれしい配慮だ。そのほかのパラメーターは、オリジナル機と同じロータリー・タイプとなっている。

つぶれ感が心地よいコンプ
ハードな歪みサウンドも表現可能


はじめに使い勝手の印象から。まず電源を入れたときの紫色のランプが魅惑的に感じた。反面、スペース的な問題だと思うが、オリジナル機に比べてメーター・パネルが小さく、さらにランプも若干暗く感じられた。この辺り素早く作業が進んでいくレコーディング中に横目で“ちらっ!ちらっ!”と確認するには少し不便を感じるかもしれない。そのほか各パラメーター・ノブについては扱いやすくて好印象だ。特にアタック、リリースのノブが大きくなったことは、ポイントをマーキングしやすくうれしいところである。実際に音を聴いていこう。チェック環境にあるDIGIDESIGN Pro Toolsで、まずは2ミックスのマスターにインサートしてみた。最初に軽くコンプレションした状態(レシオ4、アタック8、リリース7、メーターで1dBほどリダクション)で聴いてみたが、既にかなりワイルドな音だ。次にアタックを速め、インプット・レベルをアップしてコンプレッション感を出してみると、プッシュ感のあるサウンドが得られた。この状態からインプット・ゲインを上げてハード・リダクションすると音に歪み感がかなり増す。この辺り、求めるサウンドによって調整していくのが良いだろう。では、単音のソースでチェックしてみよう。まずはキックから。ぱっと聴き、ざらつき感などは良さそうだが少し低音に散らばりがある。タイトなサウンドを求める場合には設定に工夫が必要だろう。続いてスネアに使用してみたが、印象はかなり良いものだ。いい意味での“つぶれ感”が心地良く、“カンカン”と鳴るスネア・サウンドを作るには持ってこいのコンプだと感じた。腰や粘りの無い音にも張りを出すことができるだろう。ただ、あまりインプット・レベルを上げ過ぎるとコンプとしての歪み感をはるかに越えディストーションになってしまう。とはいえ、これは飛び道具として使えそうだ。実際にレシオを1:1もしくはバイパスしてインプット・ゲインを上げていくと、コンプレションの無いナチュラルなサチュレーション感からややハードな歪みサウンドまで表現できた。コンプ部における“歪み感のコントロール”はへたな真空管プリアンプ/コンプレッサーより扱いやすいものだと思う。最後にボーカルをマイク入力して試してみた。ここでは筆者の所有しているシルバー・タイプの1176と比較したのだが、1176では当然だが聴き慣れたコンプ感が得られる。それに比べ2-1176は少し膨らみ感がありレンジの広さを感じるものだ。さらにコンプレッションを強めにした場合、1176はコンプ感が強くなった感じだが、2-1176はかなりサチュレーション感が強くなり張り付き感が増す印象だ。ボーカルにおいても、曲によってナチュラルなコンプと本機を使い分けることで、より効果的な使い方ができそうだ。カタログ紹介などでは、“復刻機1176LNが2台搭載された”とうたわれているが、復刻機を使用したことのある私の印象は、2-1176の方がよりワイルドでロックである印象を持った。微妙なサウンドの違いがあるにせよ、この価格で2台分の1176が手に入るということはかなりの魅力である。何より2ミックスやドラムを通し、パワフルなサウンドを手軽に味わえるのはステレオ仕様である特権と言えよう。

▲リア・パネル。左からCHANNEL Bのライン・イン/アウト(XLR)、AC電源を挟んだ右のCHANNEL Aも同構成

UNIVERSAL AUDIO
2-1176
378,000円

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/5kΩor 600Ω
■出力ロード・インピーダンス/600Ω
■周波数特性/20Hz〜20kHz(±1dB)
■ゲイン/40dB、±1dB
■アタック・タイム/20μs〜800μs
■リリース・タイム/50ms〜1.1s
■外形寸法/483(W)×89(H)×310(D)mm
■重量/4.4kg