DLDAアルミニウム製ウーファーを搭載し、低域再生にも優れたパッシブ・モニター

KRKST8

KRKの新製品、ST8を聴いた。ペーパー・コーン全盛の時代から、新素材のコーンを積極的に採用してきたKRKだ。メーカーとしてのデビュー作になるK-7000は、黄色いケブラー製のウーファー/ツィーターで一世を風靡した。今回はアルミニウム製のウーファーと、シルク・ドームのツィーターがアッセンブルされている。恐らくJORDAN製と思われるユニットは、グレー・ブラックの精かんなエンクロージャーと相まって、なかなか高級感がある。K-7000時代から比べると、基本的な音調は継承しているが、最近のスピーカーらしい特徴も備えている。ユニットのサイズは8インチ(20cm)ウーファーと1インチ(2.5cm)ツィーター。筐体のサイズはYAMAHA NS-10Mよりも一回り大きいが、使いでの良いサイズだ。

STRIP STUDIO標準モニターと
チェック用CDを使って聴き比べ


さて、試聴してみよう。場所は筆者のホーム・グラウンドであるSTRIP STUDIOだ。現在の標準モニターは、Yahoo!オークションで有名なTAKAさんに改造してもらったNS-10M Studio改+サブウーファーという布陣。NS-10Mの低域は鳴りっぱなしにし、サブウーファーの高域を80Hz(−18dB/oct)でカットしてつないである。超高域がおとなしい点以外は、非常に安定したバランスを発揮しているシステムだ。このシステムの音をチェック用CDで聴き、ST8と入れ替えて聴き比べる。もちろんサブウーファーはオフにする。セット替えによって、試聴の間隔が空くことになるが、スピーカーを変えることで起きる音質変化は非常に大きいので心配はない。実際にはNS-10M+サブウーファーとST8を比べているが、ここでミックスしたマスターをマスタリング・スタジオなどでも聴いているので、いわゆる“標準”との比較で試聴を展開していけると思う。

新世代ユニットらしい
超低域のレスポンス


葉加瀬太郎『Endless Violin』や、マドンナ『ドラウンド・ワールド』などのCDを手当たり次第に鳴らしてみると、一聴して最低域が非常に伸びていることが分かる。口径20cmのウーファーとしては異例なほど伸びていて、40Hz前後まで十分にレスポンスを感じることができる。すなわち、ROLAND TR-808系のキックやサイン波のベースなど、小型スピーカーではバランスを間違いやすい音に対しても十分にコントロールしながらミックスできるだろう。新世代ユニットらしい超低域だ。徐々に音域を上げながらコメントしていこう。次に中低域だが、この帯域は、ややふくらみ気味だ。いや、ふくらんでいるというほどではないのだが、中高域とのバランスで、やや中低域を多めに感じる。この辺りは、STRIP STUDIOのクセもかかわっているかもしれない。中域は概しておとなしい。アルミ・コーンの見た目の質感とは裏腹だが、金属製ウーファーの中域は、概しておとなしいことが多い。ペーパー・コーンに比べて分割振動が少ないため、中域の歪みが少ないのだろう。あるいは振動系の重さが関係しているのかもしれない。そんなわけで、中高域もおとなしい。キックのアタックやスネアなどが、ややソフトに再生される。この辺りは、最低域の伸びとトレードオフなのだろう。このままだとコモった音質になってしまうところを、ツィーターの高域で補っている。4kHz付近の高域よりも、15kHz付近で感じる高音。その質感は、ややサラサラしているものだ。低域と高域が目立ち、中域が引っ込んでいる音を“ドンシャリ”と言うが、ST8は“ブンシャラ”とか、“ブンサラ”と表現できる。総じてワイド・レンジだが、パンチ方向には振られていない。定位の再現性に問題はない。中低域のふくらみが作用して、音場はやや広めに再現されるようだ。非常にパワーが入るので、大音量でクラブ系ミックスをやるような用途に向くと思う。中域、中高域のおとなしさは、音量を上げていくと緩和されてくる。低域の量が多めなので、コンクリートなどの“低域残響過多”な部屋よりは、和室などの低域不足な部屋、または吸音処理を施した広めの部屋などに合うだろう。“家でミックスしたのを外で聴くと、低域が出過ぎている”とか“(同じく)高域が柔らかく仕上がってしまう”という人たちは、このST8を選択肢に入れてみる価値がある。今回はSONY TA-N9000という、比較的おとなしめのパワー・アンプで試聴したが、MARANTZなどのハイスピード系アンプとの相性は良いはずだ。こういった“ワイドレンジだが、ややおとなしい”という音は、最近のスピーカーの傾向と言える。NS-10Mなどで特徴的な“はじけるような音”のスピーカーは、現在では数えるほどしかない。そういう意味では、ST8を仕事に使うことにためらいはないのだが、DYNAUDIO ACCUSTICのモニターなどで体験済みの“本当に良い音にならないと鳴らない”という傾向はあるだろう。何かの都合で変な音を突っ込むと、へなへなした音になりかねないのだ。超低域のハンドリング、中低域の締め具合、中高域の位相などをコントロールしながらミックスを進めれば大丈夫なはずなので、あまり気にする必要はないのだが、自分の腕を磨きたくなるかもしれない。
KRK
ST8
90,300円(ペア)

SPECIFICATIONS

■HFドライバー/1インチ・シルクドーム
■LFドライバー/8インチDLDAアルミニウム
■周波数特性/52Hz〜20kHz±2dB
■許容入力/120W
■音圧レベル/90dB(1m/1W)
■インピーダンス/8Ω
■外形寸法/247(W)×386(H)×270(D)mm
■重量/12kg